はじめに
中国思想史、中国哲学史を専攻にしようかと考えている方向けの、参考書目を作ってみました。もともと、ある別分野の友人に頼まれて作ったもので、非常に簡単かつ粗雑なリストである上、その方の専攻を反映させたところがあるので、大きな偏りがあるように見受けられるかもしれません。あくまで参考程度に。
【中国古典研究の総合的な入門書】
・『アジア歴史研究入門I・III』同朋社、1983
Ⅰは、史学の観点から、時代ごとに工具書の一覧と研究史の概説がまとめられている。Ⅲは、目録学や地理学、思想史について同様に整理する。工具書の一覧とその特徴や使いどころが載っていて便利。更にある分野の基礎的・古典的な研究書や概説書を探す時にも非常によく利用される本。
【2019/4/2 附記】礪波護、岸本美緒、杉山正明編『中国歴史研究入門』(名古屋大学出版会、2006)は、古くなりつつある上記の書を補完する、新しい研究入門書として有用です。上記の書に比べて、かなり細かく最新研究の紹介が行われており、初見で読み解くのは難しいですが、概説を掴んだ後ならかなり有用な本です。
・狩野直喜『漢文研究法』東洋文庫、2018
漢文読解の方法を総合的に論じた講義録。最近復刊された。多種多様な工具書が作成される以前の講義録であり、最も原理的な調べ方(清人に近い調べ方)が載っていると言える。
・倪其心『校勘学講義』すずさわ書店、2003
古典研究の基礎となる校勘学について、非常に詳細に解説した本。姉妹本として、洪誠『訓詁学講義』すずさわ書店、2003を併せて読めば心強い。
【目録学】
・井波陵一『知の座標 中国目録学』白帝社、2003
中国学の基礎である目録学の概説書として最も平易で、読み物として通読できる。先人の研究(内藤湖南、狩野直喜、武内義雄、倉石武四郎、吉川幸次郎、川勝義雄など)を豊富に引用しており、中国学の研究史を知る上でも有益。
・程千帆『中国古典学への招待 目録学入門』研文出版、2016
目録学について、より本格的で完備した概説書。
【版本学】
・陳国慶著・沢谷昭次訳『漢籍版本入門』研文出版、1984
書籍の分類から学問の源流を考えていくような研究分野を目録学とすれば、個々の本の成立や個人の藏書書目から研究する分野を版本学と呼ぶ。この本は印刷出版の歴史の叙述や、版本学の基本的な用語解説を備えており、至れり尽くせり。
【経学】
・橋本秀美『論語―心の鏡』岩波書店、2009
経学とは何か、ということを『論語』の解釈史を通して概観する。概説書としての役割を果たしつつも、読み物としても非常に面白いという希有な本。
・野間文史『五経入門』研文出版、2014
経書についてのいわゆる概説書的な概説書。経書の各編の内容がリスト的に解説されていて、一通りの基礎知識を身に付ける際や日頃のちょっとした確認に便利。
・島田虔次『朱子学と陽明学』岩波書店、1967
朱子学、陽明学についての古典的な概説書。要領よくまとまっている。
【説文解字】
・阿辻哲治『漢字学 説文解字の世界』東海大学出版会、1985(新版は2013)
説文解字そのものとその研究史についての概説書。この本では物足りないと感じたら、次に頼惟勤『説文入門』がお勧め。
【音韻学】
・藤堂明保ら『中国文化叢書Ⅰ』大修館書店、1967
『中国文化叢書』のシリーズ(Ⅰ~Ⅸ)自体、中国学関連の概説書として手堅いものだが、特に言語篇のⅠは評判が良い。
【思想史】
・狩野直喜『中国哲学史』岩波書店、1953
最も古典的にして今でも出発点とされる概説書。文学史には『中国文学史』みすず書房、1970も。
・日原利國篇『中国哲学史』ぺりかん社、1987
人物ごとに整理されている。
・溝口雄三、池田知久、小島毅『中国思想史』東京大学出版会、2007
この種の概説書として最も新しいもの。
【仏教史】
・沖本克己・菅野博史ら 『新アジア仏教史6 仏教の東伝と受容』佼成出版社、2010
『新アジア仏教史1~11』は、アジアにおける仏教の展開についてインド・中国・朝鮮・日本など地域別に詳細に解説したもの。6、7(興隆・発展する仏教)、8(中国文化としての仏教)が中国に関するシリーズになっている。
【道教史】
・金正耀『中国の道教』平河出版社、1995
コンパクトで分かりやすい。
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