達而録

中国学を志す学生達の備忘録。毎週火曜日更新。

緊急事態宣言に対する各大学のメッセージ

 先日、二度目の緊急事態宣言が行われました。

 対面授業が再開したり休止したり、テストだけ対面で行ったりやっぱり中止にしたり、何かと振り回されている学生の身としては、自分の大学の学長・総長が学生に対してどんなメッセージを発しているのか、というのは気になるところです。

 そんな中、各大学のメッセージを眺めていると、なかなか興味深いものがありましたので、みなさんと共有したいと思います。

 

 まず、2021年1月12日の同志社大学学長の植木朝子氏のメッセージ(太字強調は筆者による、以下同様)。

 新型コロナウイルス感染者数は増加の一途をたどっており、感染拡大が深刻になっています。世界中で多くの人々が苦しんでおられる現状において、まずは、感染された方、そのご家族、関係者の方々に心よりお見舞い申し上げますとともに、困難な状況下において、社会生活を支えて下さっている方々に、心からの敬意と謝意を表します。

 1月7日に、政府より首都圏の1都3県を対象とした緊急事態宣言が発出されました。また、大阪府京都府兵庫県は国に対し緊急事態宣言の発令を要請しています。この要請を受けて、京阪神の2府1県にも緊急事態宣言が発令される見通しです。しかし、すでに緊急事態宣言が発出された首都圏においても、教育機関に対する休業要請は出されていません。

 教育研究活動は不要不急の事柄ではありません。同志社大学は、秋学期の授業は現状通り続けてまいりますし、秋学期末試験についても、既にお知らせしている通りで変更はありません。もちろん「同志社大学新型コロナウイルス感染症拡大予防のためのガイドライン」に示している通り、発熱等の一定の症状がある場合は、申告により出校停止とし、また基礎疾患や持病がある等、感染した場合に重症化するリスクの高い学生に対しては、通学を強要せず受講・受験機会の確保等の配慮を行うこととしていますので、そのような場合は申し出てください。

 本学ではコロナ禍にあっても、感染症拡大予防に最大限の注意を払い、秋学期の対面授業を進めてきましたが、現在まで、本学構内の授業におけるクラスターの発生はありません。私たちはこの困難な状況下での経験から多くを学び、感染拡大予防と教育研究活動を両立させてきました。学生の皆さんと教職員の不断の努力に敬意を表し、心から感謝いたします。

 引き続き、お一人お一人が基本的な感染予防策を踏まえた適切な行動をとり、自律的に体調管理に努めてくださいますようお願いいたします

学生・教職員の皆様へ~京都府から国への緊急事態宣言の発令要請を受けて~/To Students and Staff - In response to Kyoto Prefecture’s request to the Japanese government to declare a state of emergency -|2020年度の学長からのメッセージ一覧|同志社大学

 

 続いて、上智大学学長の曄道佳明氏(2021年1月7日)。

 新しい年を迎えて早々に、首都圏では新型コロナウイルス感染拡大が止まらず、緊急事態宣言が発出される事態となりました。感染の危険性がより一層身近なものとなり、学生の皆さんも不安を感じていると思います。

 今回の宣言発出を受けて、当面の大学の活動について協議した結果、今学期の授業は予定通り対面とオンラインを併用して継続することとしました。対面授業については、健康上の不安がある場合、オンラインによる受講でも不利益になることはありません。また卒業、修了に向けての実験などの研究活動、それを支える図書館等の施設利用も維持します。本学では入構者の確認、検温、十分な対人距離を確保した教室使用など、感染防止策を講じてきました。今回の緊急事態宣言では教育機関への休校要請等は特に行われないことも踏まえ、引き続き細心の注意を払いながら教育・研究活動を継続する判断をしました。ただし、状況がさらに悪化した場合には、皆さんや教職員の安全確保のため、さらに踏み込んだ措置を取りますので、大学からのお知らせには注意してください。

 他方、課外活動については、残念ながら当面の間、対面での活動は停止をお願いします。学生の皆さんがどれだけ感染防止に気を遣い、工夫をして活動してきたかは十分承知しています。1年生の大学生活を仲間として支えることにも尽力し、さまざまな場面で上智の精神を体現してくれたことに心から敬意と感謝の意を表します。課外活動の制限は不本意ですが、社会の回復に向けた貢献と考え、感染の拡大をくい止めるべく、宣言解除までの間は今後の活動に備えていただきたいと思います。

 社会活動の制限による心理的な不安、経済的な心配ごとなどに対し、緊急事態宣言下でも今まで通り学生センター、カウンセリングセンターは常時皆さんからの相談を受け付けています。キャリアセンターもオンライン相談や多数の動画配信を続けて、皆さんの進路選択を支援していますので、ぜひ活用してください。

 すでにお示ししている通り、2021年度は対面授業を中心とし、一部にオンデマンドの授業を取り入れる方針で準備を進めています。皆さんとご家族の健康が守られ、キャンパスでの活動再開が可能になるよう、何としてもこの感染拡大を鎮静化させ、この局面を乗り越えなければなりません。引き続き自覚を持って行動し、感染を防ぐ努力を怠らないよう、どうぞ各自がその責任を果たしてください。コロナとの付き合いはすぐには終わらないかもしれませんが、私たち自身が持つ力を信じ、困難に直面する世界中の人々とともに乗り越えていきましょう。

(学生の皆さんへ)学長メッセージ ~緊急事態宣言の発令にあたって~ | ニュース | 上智大学 Sophia University

 

 続いて、大阪大学総長の西尾章治郎氏。今回の緊急事態宣言に対するメッセージは特に出されていないようですが、一か月前、「年末年始に向けた感染防止対策のお願い」が出されています。

 今年も残すところあと僅かとなりましたが、2020年は新型コロナウイルス感染症と向き合う一年となりました。新型コロナウイルス感染防止対策について、本学学生・教職員の皆さんの長きにわたるご協力に深く感謝申し上げます。

 新型コロナウイルス感染症は、私たちの日常生活を一変させました。特に、学生の皆さんにおかれては、オンラインによる授業の実施や課外活動への制限、さらには入学式や大学祭の実施見送りなど、学生生活の変化に大きく戸惑われたのではないかと案じています。また、教職員の皆さんにおかれても、こうした変化への対応にひと際ご苦労をなされてきたのではないかと思います。

 このような状況の中、本学では、教育・研究活動への影響が最小限となるように、そして、学生の皆さんの学生生活が充実したものとなるように、できる限り平常時に近い状態で大学活動を行えるよう対応を進めてまいりました。

 そのため、本学では、突発的な感染者の発生は想定しつつも、できる限り感染から身を守り、感染者が出た場合でもそこからの感染拡大を防ぐことに主眼を置いた感染防止対策を実施しているところです。これまで本学においても50人を超える感染者が出ていますが、教育・研究活動においては感染防止対策を適切に実行していただいており、このため、これまで学内で感染拡大を起こしたケースはなく、対策は有効に機能しているものと考えています。

 これから年末年始を迎え、公私においてさまざまな行事が増える時期ではありますが、感染拡大を防ぎ、教育・研究活動の平常化を保つためには、継続的な感染防止対策の徹底が不可欠です。特に、1月中旬には大学入学共通テストが控えており、大学として万全の状態で入試の時期を迎えるには、年末年始の過ごし方が極めて重要になります。

 もとより、大阪府において医療非常事態宣言が発出されたように、このたびの第3波と呼ばれる感染拡大により、全国において医療体制がひっ迫しており、こうした状況を克服するためには、一人ひとりの行動変容が強く求められています。

 つきましては、本学の学生・教職員の皆さんにおかれては、皆さんの命と、皆さんを支えてくれている人々の命を守るため、そして今般の危機的状況を共に乗り越えるために、引き続き、別紙の感染防止対策の徹底にご理解とご協力をいただきますよう、よろしくお願いいたします。

 2021年が幸多き飛躍の一年となりますようお祈り申し上げます。

年末年始に向けた感染防止対策のお願い — 大阪大学

 以上、三つのメッセージを見てきました。どれも、広い視野に立って教職員と学生に寄り添いつつ、改めて協力を要請する内容です。

 たいへん常識的な内容で、読んでいて不快になることもなく、素直に読めば「うんうん、先生たちが大変なのも分かっているよ、一緒に頑張っていこうじゃないか」という気持ちになるのではないでしょうか。また、これらのメッセージを見ると、教職員や学生の頑張りが見え、「どこもなかなかいい大学なんじゃない?」という印象を受けます。

 

 一方、京都大学の総長である湊長博氏の2021年1月12日のメッセージが以下です。湊氏のメッセージはこれが初めてのもので、かつ以下の文章が全文です。

 昨年末から首都圏における新型コロナウイルス感染症が急速に拡大し、現在では関西圏にも拡大波及しています。コロナウイルスは極めて感染性の高いウイルスであり、主な感染経路は経口飛沫感染です。従って、感染防止の基本は、不織布マスクをはずした状態での第三者との近距離での会話や食事(会食)を避けることに尽きます。これは相手が誰であるか、どのようなシチュエーションであるか、昼か夜か、を問いません。ウイルスに言い訳は通用しません。もし皆さんが感染した場合には、たとえ皆さん自身は無症状や軽症であったとしても感染拡大の起点になり、高リスクの人々に深刻な病気をもたらす危険性があることを強く肝に銘じて下さい。今上記の基本を忠実に守った生活を送ることが、少しでも早く本来の自由で活発な大学生活を取り戻すための必須条件です。皆さんの、京大生としての良識と自覚を信頼しています

(PDF直リンク:https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/inline-files/kinkyu-message-210112-f8b51b9d1288c1a6cc057eb39bfbfa53.pdf

 教職員・学生への理解を示すでもなく、今後の方針を示すでもなく、ただ学生に注意をするだけで終わり。しかも、学生側は感染を引き起こす加害者としてのみ扱われています。

 湊氏は10月に新たに着任した総長ですから、全体の総長メッセージの方に詳しく言及があるのかと思いましたが、「昨今の新型コロナウイルスに代表される感染症の拡大…」という一文があるだけです。→湊長博総長からのメッセージ | 京都大学

 むろん、メッセージなどは形だけのもので、実際にどのような対策を行い、学生支援を行っているか、というのが重要な点ではあります。しかし、総長の態度・メッセージというのは、その大学全体の態度を示すものとして第一に参照にされ得るものです。このメッセージでは、学生だけでなく、学生に寄り添いながら感染予防に協力してきた他の京大教職員の方々まで、外部から誤解を受けてしまいます。もう少し慎重なメッセージを書けなかったものか、と思ってしまいます。

 さて、もしかすると、「第三者との近距離での会話や食事を避ける」「昼か夜か、を問いません」という一文は、湊氏なりの微言大義春秋の筆法であり、京大生に向けたメッセージに見せかけて、実は湊氏は政府批判をしていたのかもしれません。一見でそこまで読み取れなかったのは、私の不徳の致すところです(冗談です)。

 

 こうなると、東京大学のメッセージが気になりますが、今回の緊急事態宣言に対するメッセージは特に出ていないようです。代わりに、2020年6月1日に東京大学総長の五神真氏による「“With-Corona” “Post-Corona”の新しい大学の創造に向けて」というメッセージがあります。→新型コロナウイルス感染症に関連する対応について 総長メッセージ | 東京大学

 

 また、同じく緊急事態宣言が出された福岡の九州大学も、同様に今回の緊急事態宣言に対する総長のメッセージは現時点で特に出されていないようです。その代わりに、「新型コロナウイルス特設ページ」がオープンしています。

www.kyushu-u.ac.jp 

 内容を見たところ、上に挙げた各大学の特設ページに比較すると、けた違いで充実しています。ここに示される対策や方針、感染時の対応は、九大関係者に限らず、多くの組織で流用できるのではないでしょうか。こうした「知の提供」の方法もあるのだと、感心いたしました。

 むろん、見た目だけが大事というわけではありませんが、ちょっと京大と見比べてみてくださいよ(棒)新型コロナウイルス感染症への対応 | 京都大学

(棋客)