小浜正子、下倉渉、佐々木愛など『中国ジェンダー史研究入門』京都大学学術出版会、2018
中国の長い歴史とともに変化したジェンダー秩序の変遷過程をダイナミックに描く。社会の父系化、ジェンダー規範の強化、そして社会主義をへて改革開放の大変動まで。家族、労働、ナショナリズム、身体、LGBTなど今日的な研究視点を網羅し、中国ジェンダー史研究の全体像を初めて伝える。初学者から隣接分野まで必携の研究入門。
「研究入門」とある通り、『アジア歴史研究入門』のように重要な研究成果を紹介する形式を取っていますが、そのままの読み物としても非常に読みやすく、ジェンダー史研究の過去の成果と現在の課題が分かりやすく書かれています。
中国全体の歴史を一冊にまとめているので、時代やテーマによってやや濃淡はありますが、素晴らしい入門書と言えるでしょう。おすすめです。
ジョン・ダービーシャー著、松浦俊輔訳『素数に憑かれた人たち リーマン予想への挑戦』
フェルマー予想が解決された現在、整数論での次の標的であるリーマン予想に対して取り組んできた数学者の紹介を中心に、素数を知る魅力、取り組みの変遷などを、多くのエピソードを織り込みながら、非数学的な観点をベースに著述した数学ドラマ。奇数章で数学の直感的な説明、偶数章でその歴史的及び人間的なバックグラウンドを解説しています。
突然数学の本を紹介してかっこつけようとしているわけではありません………とは言い切れません。ただ、高校数学を忘れかけているぐらいの人でもすらすら読むことができる本ですので、数学が苦手な方にも薦められる本です。
奇数の章では数学の説明をし、偶数章ではその学説を唱えた数学者の一生や、その社会背景を説明するという構成を取っています。
ちなみに、同じ著者の本に『代数に惹かれた数学者たち』があるのですが、こちらは専門知識がない身としてはかなり読みにくいので注意。
加藤文元『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』
望月新一教授による「宇宙際タイヒミュラー(IUT)理論」。未来から来た論文とも称された内容は世界中に驚きをもたらした。望月氏と、議論と親交を重ねてきた数学者が、その独創性と斬新さをやさしく紹介する。
先日話題になった望月氏の新理論を、とにかく噛み砕きに噛み砕いて、素人でもぼんやり雲を掴めたような掴めないような、なんとかそのレベルまで解説しようと試みた本です。少なくとも、素人が読める本になっていることは確かで、最後まですんなり読み通すことができました。
最近のニュースを見ていると、望月氏の新理論はいまだに受け入れられない状況が続いているようですね。今後どうなっていくのでしょうか。
アンジェラ・サイニー著、東郷えりか訳『科学の女性差別とたたかう: 脳科学から人類の進化史まで』
「“女脳”は論理的ではなく感情的」「子育ては母親の仕事」「人類の繁栄は男のおかげ」……。科学の世界においても、女性に対する偏見は歴史的に根強く存在してきた。こうした既成概念に、気鋭の科学ジャーナリストが真っ向から挑む。神経科学、心理学、医学、人類学、進化生物学などのさまざまな分野を駆け巡り、19世紀から現代までの科学史や最新の研究成果を徹底検証し、まったく新しい女性像を明らかにする。自由で平等な社会を目指すための、新時代の科学ルポルタージュ。(https://amzn.to/3yqIlG5)
先入観によっていかに研究が歪められてきたか、ということがよく学べる本です。データの取り方、データの解析法、さらにはそうして導かれた結論の利用方法など、バイアスがかかるポイントはかくも多いのかということがよく分かります。結局のところ、学問においては、性別・人種・文化、出身地など、あらゆる意味での多様性を確保することこそが、発展の近道なのでしょう。
なんとなく、科学の知見に支えられて男女同権への道が開けてきたようなイメージがを持っていましたが、本書を読むと、むしろ男女同権への道が開けたことで科学の偏見が正された面もあることを知りました。ある意味、人文知が科学の発展に寄与した例と言えるかもしれませんね(それならば現代の人文系の研究が誇れる状況なのかというと、全くそうではありませんが…)。
(棋客)