達而録

中国学を志す学生達の備忘録。毎週火曜日更新。

ベンヤミン著・鹿島徹訳『[新訳・評注]歴史の概念について』(1)

 知人から推薦されて、ベンヤミン著・鹿島徹訳『[新訳・評注]歴史の概念について』未来社、2015)を読んでいます。まだ途中ですが、深い感銘を受けております。折角なので、このブログでも簡単に紹介していきます。

 この本は、ベンヤミンに初めて触れる私のような人にも分かりやすい構成になっており、まず「イントロダクション」で当時の時代的な状況と、ベンヤミンの生涯の紹介がなされます。ここで合わせて、『歴史の概念について(歴史哲学テーゼ)』のテキストについて文献学的な解説がなされているのも安心します。

 ユダヤ人であるベンヤミンは、ナチズム支配下のドイツで追われる身となり、パリに逃亡し、ドイツ軍がパリに侵攻するとスペインへの亡命を試みますが、うまくいかず、1940年にスペインとフランスの国境で自死した人です。そしてその『歴史の概念について』は、その数カ月前に執筆され、最後まで手を入れていた論考です。当時の歴史的な危機の状況と、その中でベンヤミンが何を考え、こうした論考を書きあげたのかということについて、解説がなされています。

 次に、『歴史の概念について』の本文の翻訳が載せられます。『歴史の概念について』は、20近くのテーゼの集合からなり、それぞれ独立していながらも、ゆるやかにつながって一つの論考となっています。まず原典の翻訳をそのまま流し読みするだけでも、力強さが伝わる文章です。テーゼの一部を、次回の記事で抜粋して見てみることにしましょう。

 最後に、鹿島氏の「評注」によって、『歴史の概念について』の全体の構造と、各テーゼの詳しい解説がなされます。『歴史の概念について』は比較的簡潔に書かれたテーゼの集合で、それほど分量があるわけではありませんから、この評注部分が本書で一番のウェイトを占めています。

 『歴史の概念について』の各テーゼは、簡潔に、かつ比喩や抽象的表現を交えながら書かれているので、その点を補う鹿島氏の評注が本書のガイドとして素晴らしい役割を果たしています。同時に、現代を生きる歴史学者である鹿島氏が、ベンヤミンのいう歴史の語りを実践する一主体として、さまざまな社会問題を例に挙げて解説する点も素晴らしいと思いました。

 また、こうした大きな流れの解説だけではなく、翻訳に際しての一言一句の選択などについても、過去の日本語訳や他言語版などと比較しながら細かく説明されていて、懇切丁寧で読みごたえがあります。

 次回の記事で、内容を少しご紹介します。

(棋客)