達而録

中国学を志す学生達の備忘録。毎週火曜日更新。

高橋均 『六朝論語注釈史の研究』(1)

 最近、高橋均 『六朝論語注釈史の研究』(知泉書館、2022)を入手しました。

 『論語』の研究、すなわち注釈は漢代から始まり、その成果は魏の何晏(190-249)『論語集解』にまとめられ、また300年後にはそれらも含め新たな研究を集約した梁の皇侃(488-545)『論語義疏』が作られた。両注釈は南宋朱熹の新注に対し古注と呼ばれた。ところが、『論語集解』から『論語義疏』に至る六朝期は注釈書が散逸し、ほとんど研究されてこなかった。

 著者は長年従事してきた皇侃『義疏』の研究成果に基づき、この300年間の論語注釈史を『義疏』の精査により明らかにする。皇侃は、何晏『集解』によりながらも,その解釈の一義性に疑問を抱き、自らの『義疏』では多義性を重んじて、『集解』以後の論語説を可能な限り網羅的に採り上げ、『集解』に基づく解釈である「本解」と、それとは異なる解釈「別解」とによって構成した。

 著者は、その中から六朝時代の論語注釈家39人を選び出し、魏、晋、宋、斉、梁、および生没年不明の注釈家に分けて時代順に配列し、注釈家の履歴、その論語説の紹介と検討、さらに問題点の指摘を行う。日常的な言葉による注釈や、その語句の生まれた社会的歴史的状況を考慮して論じる注釈など、多様な注釈が列挙され分析される。最後に資料編では、各論語説の原文を整理・対校した上で掲載し、基礎資料を提供する。

 紀元前から現代まで2000年以上に渡る『論語』解釈史を辿る本書は、論語注釈史研究の基礎を築くとともに中国古典学の醍醐味を伝えてやまない意義深い業績である。

六朝論語注釈史の研究 - 株式会社 知泉書館 ACADEMIC PUBLISHMENTより)

 知泉書館さんのサイトに載っている上の説明がとても詳しく、本の内容をよく伝えています。

 また、個人的に面白く感じた点は、当時の学説の実際の伝わり方を念頭に置いて、書籍間の「孫引き」の可能性を常に考えているところです。たとえばA氏とB氏の注釈が並んでいる場合、ついつい単純に皇侃がA氏の本とB氏の本から直接引用して『論語義疏』に組み込んだと考えてしまいがちです。しかし、もともとB氏の本にA氏の本が引用されていて、皇侃がまとめて引用したという可能性もあります。また『論語義疏』のもとになった本に江熙『集解論語』があり、もともとこの本にまとめて引用されていたものという可能性もあります。

 本書では、こうした文献学的な問題から丁寧に考察しながら、各学者の学説の特徴を論じていくという流れになっており、手堅い研究となっています。

 (おそらく)次回、細かな内容について少し書いてみる予定です。

 

 さて、これまでにこのブログでも『論語義疏』の話題は何度か取り上げています。

 ご興味があれば、ぜひ読んでみてください。

(棋客)