達而録

中国学を志す学生達の備忘録。毎週火曜日更新。

奨学金・研究助成あれこれ

 一般に、研究を続けていくにあたっては、奨学金や研究費を確保するのはとても大切なことです(もともとお金に困っていない人はその限りではありませんが)。最近は雇用が不安定になる中で、物価上昇に比して最低時給はさほど上がらないという状況も相まって、奨学金によって学費・研究費・生活費などの補填を図ることは尚更重要になっていると言えるでしょう。(これはそもそも現状のシステムがおかしいわけです。本稿は、あくまでそのシステムの中で生き延びるためのTipsを紹介するものに過ぎません。)

 今回は、中国古典・中国思想・中国文学といった分野を志す研究者に、比較的チャンスがあると思われる奨学金を、備忘を兼ねて適当に紹介します。あくまで記憶から適当に紹介しただけですので、実際に応募を考える際にはご自身で色々と下調べすることをお勧めします。

 


 

 まずは、分野に限らず多くの人が利用し得るものを挙げていきます。

 

◎JASSOの給付・貸与奨学金

 大学に進学する際に多くの人が案内を受けるもの。貸与奨学金は悪名高い制度ですが、借り終わった後に返済が免除になる申請を出すことができます(→特に優れた業績による返還免除の手続き | JASSO)。

 私の記憶では、免除申請が通る割合は2~3割ほどだったと思いますが、修士・博士へ進学する場合には返済免除を受けられる可能性が少し高くなると言われています。他に収入の当てがある人でも、無利子で借りられる条件を満たしているのなら、とりあえず借りておいて後から免除申請を狙うという方法もあるでしょう。

 

◎日本学術振興会特別研究員

 通称「学振」と呼ばれる有名なものです。二年間または三年間、十分かどうかは置いておいて、一応の安定した給料と研究費を受けることができます。

 決して中国古典の研究が通りやすいということはありませんが、DC1・DC2ともに中国古典に何かしらで関わる研究が毎年一人は通っていたと思います。学振の研究計画書を書く過程で、自分の研究について改めて考え直したり、人に分かりやすく伝える方法を考えたりすることにもなりますので、博士進学を予定している人はぜひ書いてみるといいと思います(これは学振に限った話ではないですが)。

 

◎大学院教育支援機構プログラム(京都大学)

 上は仮に京都大学のリンクを貼っていますが、ほかにも同様の制度がある大学があるはずです。

 学振だけでは支援が足りないという問題を受けて、最近新しくできた仕組みです。最初の年度は通りやすかったのですが、二年目から競争率が上がり、なかなか厳しくなりました。とはいえ、学振に落ちた場合の受け皿となる数少ない制度ですので、これも知っておくと良いでしょう。

 

◎入学金・学費免除申請(京都大学)

 これも仮に京都大学のリンクを貼っていますが、多くの大学に同様の制度があるでしょう。

 基準は厳しめのことが多いですが、一人暮らしで自分の収入だけで生活している場合のように、独立会計扱いになる場合は免除を受けられる可能性が高い印象があります。

 また最近は、特に私立大学で、博士後期課程の授業料の実質免除や、助手採用なども増えていています(一例:大学院生の支援制度 | 青山学院大学)。授業料を安く抑えるために、国公立大の学部→私大の大学院というルートもより増えてくるかもしれませんね。

 


 

 次に、中国へ留学に行く場合によく名前が上がる奨学金を挙げておきます。どちらも学部生から応募できます。

 

◎中国政府奨学金

 中国に留学する場合によく紹介される奨学金です。それほど倍率が高くなく、多くの方にチャンスがあると思います。

 

◎孔子学院

 こちらも同様です。見た目の金額は孔子学院の方が高いのですが、こちらは家賃が入っていないので、実質的にはほぼ同額と言われています。

 

 他にも、留学支援の制度は色々ありますので、それらを利用するのもよいでしょう。上の二つのメリットは、中国留学に特化しているので、留学前の手続きがシステム化されていて楽という面があると思われることです。

 


 

 最後に、私が聞いたことのある、中国古典分野でもチャンスがある(と思われる)奨学金・研究助成を並べてみました。それぞれのサイトから、過去の助成対象者一覧を見ていただくと、中国古典分野と比較的近い研究が多く支援を受けていることが分かります。

 

◎公益財団法人 三島海雲記念財団 TOPページ|三島海雲記念財団

   博士後期課程以上の研究者が応募可能。学籍が切れていても対象に入ります。学術研究奨励金は、「アジア地域を対象とし、史学・哲学・文学を中心とする人文社会科学分野における学術研究(但し、日本を中心とする研究は除く)」が対象です。→人文科学[アジア地域]研究助成のご紹介 |三島海雲記念財団

 採択は年間20件ほど、一件100万円まで。アジア地域の研究を対象と明記しながら、募集枠が大きく助成金も多いという数少ない奨学金です。

 

◎一般財団法人 橋本循記念会

 もともと中国文学研究者の橋本循の遺志で始められたものということもあり、分野はドンピシャです。

 ただ、京都に住む人や京都の大学・研究機関所属の研究者、または京都所蔵の文化財研究を助成対象とする制約があり、応募できない人も多いでしょう。調査・研究助成の上限は150万円、出版助成は100万円です。採択数は数人。

 

◎公益財団法人 松下幸之助記念志財団 助成・顕彰プログラム

 人文科学・社会科学から年間50件ほど、一件50万円まで。分野が広くてなかなか厳しいですが、過去の助成を見ると、東洋史系の研究がちらほら見受けられます。

 

笹川科学研究助成 | 協会の助成活動 | 公益財団法人日本科学協会

 幅広い分野に助成を行っていて、人文系からは年間30件ほどを採択しています。一件50万円まで。こちらもなかなか厳しそうですが、同じく東洋史系の研究がちらほら通っています。

 

◎上廣倫理財団

 幅広い意味での「倫理」を研究対象とするものが助成対象とのことで、過去の助成対象は哲学・思想系の研究が多く、中国古典に関係するものもあります。年間40名ほど、上限は50~60万円のようです。この団体自体の資金源に一抹の不安を覚えますが、助成を受けられる可能性はあるでしょう。

 

 ほか、ピンポイントで分野が重なるとチャンスのある研究助成もあります。たとえば、仏教研究を対象とする「仏教学術振興会研究助成」や、漢字・日本語教育を対象とする「漢字・日本語教育研究助成制度」などです。他にも色々ありますので、みなさん探してみてください。

(2023/4/22追記)

 有志の方に、「韓国国際交流財団」が奨学金を出していると教えていただきました。募集のある大学に限りがあり、韓国関係の研究に限定されますが、かなり支援を受けやすいようです。大学に窓口があり、以下に去年の東大の例を貼っておきます。

 2022年度 韓国国際交流財団 「韓国研究大学院給付奨学生」<新規・継続>募集について - 東京大学文学部・大学院人文社会系研究科

 


 

 以上、直接的な金銭援助を受ける手段を書いてきました。こういうことを考えていると、低廉な金銭的負担で住むことのできる学生寮の存在は、研究を志す者にとって本当に重要であると改めて気づかされます。

 家賃5万円とすると、年間の負担は60万円ほどになるわけです。仮に年間3万円で住める寮があるとするなら、家賃だけを考えても、年間50万円以上の援助を受けているのと同様ということになります。実際、以前紹介した京大吉田寮は、そういう役目を果たしている例として挙げられるでしょう(京大吉田寮について - 達而録)。

 また、奨学金や学費免除は何かと「保護者の収入」という一律の基準で判断されてしまいがちですが、実際には個々にさまざまな事情があります。そもそも支援対象を学部生・大学院生に限ってしまいがちな点も問題です。科目等履修生・聴講生・研究生も含め、福利厚生の門戸は広く開かれていなければ、意義の薄いものになってしまいます。自治によって運営されている吉田寮は、こうした面でも、公的な支援とはまた別の大きな意義を備えています。

 

 研究を続けていくのが厳しい状況になっていますが、奨学金・学費免除・留学支援・研究助成、そして学生寮など、先人が獲得した権利を最大限活用しながら、生き抜いていきましょう。そして、今後によりよい研究環境が望むすべての人に与えられるように、声を上げていきましょう。

(棋客)