達而録

ある中国古典研究者が忘れたくないことを書くブログ。毎週火曜日更新。

いつか捕まるかもしれないとリアルに思う

 先日、「国家情報会議設置法案」が可決された。その問題点は数えきれないほどあるのだが、一番の問題は「この組織がやることに対するチェック機関、監査システム、情報公開のプロセスなどが一切規定されていない」というところにある。極端に言えば、首相の直轄であるこの組織が、何をしたって止められない、という形になっているわけだ。

 たとえば、警察や公安であれば、その権力が暴走しないように、「警察法」によって歯止めを掛けている。国会でも議員でも裁判所でも、それは同じである。なぜかといえば、そうした公的な組織が、結局は「市民のためにある」以上、その運用に疑義が生じた場合に、市民によって検証するシステムが必須であるからだ。(しかも、そういう歯止めの規定があってもなお、警察には暴力的な拘留・冤罪事件などやりたい放題されているというのに……。)

 逆に言えば、こういうシステムを作らないのだから、これが市民のための法案ではないということは明白である。つまり首相のため、政権与党のために作っている、ということだ。

 素朴な疑問なのだが、自民党の人たちは、こんな法案を通してしまって、もし自分たちが野党になったらどうするんだと思ったりもする。仮に、次にもっと強硬の独裁政権ができたら、この仕組みを利用して自民党の議員を次々吊るし上げることだってできるわけで。

 だからこそ、こんな法案が通ってしまった以上、自民党はもう二度と権力を失うわけにはいかなくなったし、そのためにはどんなことでもやるだろう、と思う*1。簡単に言えば、そのためには戦争だって厭わないだろうし、政権に都合の悪い人間が監視され、何か理由をつけて投獄される日も近いだろう、ということだ。

 いま「何か理由をつけて投獄される日も近い」と書いたが、実はこの表現はあまり正しくない。というのも、こういう事案は、特に公安によって、これまでにも何度も引き起こされてきたからだ。

 つまり、すでにこういうことが起きている状況下で、国家情報局法案ができて、さらに国旗損壊罪やら、個人情報法の改悪やらが進められている、ということになる。これらを下支えする共謀罪と特定機密保護法も揃ってしまっている。いまこの島々において、「政権批判をすると監視/逮捕される」可能性はどんどん高まっている。

 

 振り返って、我が身を思う。

 たびたびブルスカで書いているが、私が捕まる日も来るのかもしれないなあ、とリアルに感じている。先日、高島鈴さんがデモのスピーチで同じ話をしていて、やっぱり同じ危機感があるんだな、とあらためて思った*2

 私は中国古典研究者で、反戦と反差別と天皇制解体を持論としている。大学の講義で左派的な発言をすることがあるし、中国風の服を着ることもある。京大の吉田寮出身で、一応文学部の自治会もやっていた(ほとんど何もしていないが)。デモにもしばしば行くし、政権批判のブログ記事もごろごろ出てくる。pixivFANBOXで18禁の小説を書いて収入の足しにしていて、家の本棚には左派とフェミニズムの本がたくさんある。

 こんな私、もう役満なのではなかろうか。すぐにでもスパイ扱いで捕まるという危機感がある(少なくとも戦前なら絶対に捕まっていた)。たとえば本棚の中には、「極左暴力集団」としてマークされている反日武装戦線の本が入っているから、これをもって「テロの準備をしていた」と名指しされるかもしれない。

 また、スパイ容疑ではなくても、私をつきまとって監視すれば、何らかの法令違反を見つけ出すことはめちゃめちゃ簡単である。踏切を渡ったらそれが勝手踏切だった(鉄道営業法違反)、通り道かと思ったら私有地だった(軽犯罪法違反)、我慢できなくて立ちションした(軽犯罪法違反)、捕まえる口実は色々と出てくるだろう。だいたい、そんなものが無くても、でっち上げたっていいのだから。

 

 お前はそんなに有名じゃないし、組織を束ねているわけでもないし、そんな危機感は大げさだとか、うぬぼれだとか思う人もいるかもしれない。まあ、それは否定しないけれども、せめて私自身が恐怖を感じるということ自体は、本当のこととして理解して欲しいと思う。

 国家情報局は、早ければ来月から稼働し始めるらしい。本当に怖い。いま全部書いといたから、不当な拘束はよしてくれ。

 


 

 さて、以上は私の感覚からざっくり言葉にしてしまったので、もう少し詳しく情報を補足しておきたい。

 一つ目は伊勢崎賢治の国会質問。私はれいわの支持者ではないけれども、伊勢崎さんの質問はよく練られていていつも分かりやすい。以下はまとめの言葉の抜粋。それほど長くないのでぜひ動画を見て欲しい。

 もし、この法案が成立してしまったら、――私は反対する立場ですが――本日私が提案した制度改革を最優先で断行することを強く求めます。最低限です。その覚悟なくして、この法案に賛成することは、未来のわが国民が、私たちの時代の過ちを検証し、学ぶ機会を永久に奪い去ることに他なりません。

※引用元→https://www.youtube.com/watch?v=gpgVGCbCsMY

 さりげなく、しかしはっきりと「私たちの時代の過ち」という文言を入れているところが良いなあ、と思う。こういう言葉がはっきり議事録に残されていると、後の時代になって「検証」されるときに、こういう問題が事前に指摘されていたなかで、強行した為政者の責任を明確化することができる。

 ここで「私が提案した制度改革」とあるのは、「ツワネ原則」に基づく制度改革のことらしい。ツワネ原則というのは初耳だったが、こういう組織を作る場合に守るべき原則を掲げた国際的なルールのことのようだ。「理念」のところを見ると、「そりゃそうだよな」ということが書かれているので読んでほしい。→ツワネ原則 - Wikipedia

 

 また、私は日本共産党の支持者でもないけれども、大門実紀史のまとめもかなり分かりやすかった。

5月14日参議院内閣委員会。

 今回の「国家情報会議・局」設置法の核心は、マスコミから「総理の情報機関、私兵部隊、隠密組織」とまで言われ批判されてきた内閣情報調査室(内調)を国家情報局に格上げし、各組織、省庁にたいする「総合調整機能」という権限をもたせることにあります。

 各行政組織が集めた個人情報は目的外に使用できませんが、例外として、他の行政組織が相当の理由をもって要請するときは使用できることになっています(個人情報保護法69条)。

 本法案が通れば、国家情報局が「国益のためだ」と要請すれば、警察や自衛隊だけでなく、各省庁が持っている個人情報(金融機関、医療機関など民間経由のもの含む)を収集することができます。

 つまり合法的といいながら、事実上、国家情報局が私たちの個人情報を私たちの知らないうちに入手することが可能になります。個人情報保護法に大きな抜け穴をつくるもので国家による形骸化です。

  私たちはこの法案そのものに反対ですが、日弁連や市民団体が求めている欧米のような国民の個人情報、プライバシーを守るための第三者機関や国会による監督監視の仕組みの創設は最低限必要だと考えます。

※引用元→https://x.com/mikishidaimon/status/2055051615443570868

 機関誌の『赤旗』にもまとまっている。こちらは専門的でやや難しかった。→国家情報会議設置法案の狙い|しんぶん赤旗|日本共産党

 


 

 悲しいことに法案は成立してしまったけれど、なんのことはない、廃案にすればいい話である。さすがに憲法訴訟も起こされるだろうし、あらゆる手段で抵抗していくしかない。この文章もその一環だ。

(棋客)

*1:このことから、法律というものは、「権力を失っても大丈夫」「権力が無くてもあなたは守られる」、もっと言えば「権力の無い人を守る」という方向性にしていかなければならない、ということが分かる。

*2:https://x.com/takuichiroyama/status/2060342765687599397