達而録

ある中国古典研究者の備忘録。毎週火曜日更新。

北京・天津旅行⑯―首都博物館・中央美術学院美術館

 第十六回。北京で回った博物館や美術館を紹介しておこうということで、首都博物館中央美術学院美術館を取り上げます。

①首都博物館

f:id:chutetsu:20191109020333j:plain

 「首都博物館」は都心近くの便利な場所にあります。もちろん身分証明書があれば入場無料。

 

f:id:chutetsu:20191109020347j:plain

 「首都博物館」は「国家博物館」に比べると小粒な印象を持たれるようですが、その名の通り北京の歴史や地理に絞った常設展示があって、北京を回る上ではかなり参考になる展示だったように思います。最終日に行ったのですが、むしろ初日に行っても面白いかもしれません。

 以下、「続きを読む」からどーぞ。

続きを読む

新年のご挨拶

 昨年は一年間、何とか更新を続けることができました。最近はアクセス数やコメントも増えてきて、嬉しい限りです。扱って欲しいテーマなどありましたら、是非コメントください。実力不足でご要望に応えられるかは分かりませんが…。

 今後も更新を続けて、中国学の魅力を発信していきたいと思っております。紹介したくてもできていない書籍や研究が、まだまだ沢山あるのです。

 今年もよろしくお願いします!

 


 

 おまけ:完全に遊びですが、『説文解字』の各種版本を集めたカレンダーを作りました。なかなか良い出来映えかと思います。ぜひ、使ってみてください!

chutetsu.booth.pm

北京・天津旅行⑮―智化寺

 第十五回。よ~やく最終回が近付いてまいりました。

 これまで紹介してきた建築物は、いずれも清代のものが主でした。しかし、智化寺は、明代建築がほぼ完存している数少ない場所になります。実は、旅行の初っ端に行った観光地がここだったので、行った時にはその有難さを今一つ実感できていないのでした…。

f:id:chutetsu:20191109013018j:plain

 入口の智化門。

 智化寺は、明の英宗、正統9年(1444年)に宦官である王振によって作られた寺院です。その後、土木の変によって王振は死に、英宗は捕虜となります。

f:id:chutetsu:20191109013027j:plain

 その後、時は流れて清代。乾隆帝の時、御史の沈廷芳は智化寺に王振の像が飾ってるのを見て、国を害した王振の像を飾るべきではないと上奏します。その意が反映されて、王振の像は壊され、同時に智化寺も荒れ果てることになったそうです。

続きを読む

2019年中国学の新著紹介!

 年の瀬も近くなってまいりましたが、今年も中国学界隈から、多数の良著が出版されました。そのうち、高い質を備えながらも、初学者でも気軽に読めるような本をピックアップしてご紹介いたします。

 私自身が入手して読んだ本に限定して紹介していますので、他に読んだらまた追加していきますね。

 歴史や哲学、中国に興味のある高校生や大学生のみなさま。少し違う世界に目を向けてみたい社会人のみなさま。年末年始や冬休み、春休みの読書のお供に、一冊いかがでしょうか?

 


 

①吉川忠夫『顔真卿伝』

 書聖・王羲之とともに書道史上に名を留める顔真卿。波乱万丈のその人生を著すにもっとも相応しい碩学が、文質彬彬の筆致で描出した、本格的人物伝。(『顔真卿伝』|法蔵館

  

 吉川忠夫先生による、安禄山の乱が吹き荒れる中で活躍した「顔真卿」の伝記です。むろん、専門的知識がなくとも楽しめる、丁寧な作りになっています。

 顔真卿は、日本では「書家」としてのイメージが強いかもしれませんが、生涯「忠臣」として戦い、忠義を曲げずに劇的な最期を遂げるに至った人物です。史書の記載を透徹する視線で、当時の政治情勢を丁寧に説明しながら、その人間としての生き様を鮮やかに描き出しています。

 中国史に興味があるという方、書道が趣味という方など、幅広くおススメできる一冊。

 


 

②古勝隆一『目録学の誕生』

 人にとって書物とは何か。なぜ、書物は必要なのか

 書物をぬきにして中国文化を語ることはできない。その書物は、どのように書かれ、整理され、系統立てられ、そして伝承されてきたのだろうか。前漢にはじまる皇室の図書事業は、やがて独立した「書物の学問」=「目録学」に発展し、過去から未来へと学問をつなぐ知の集積がはじまっていく。目録学の始祖とされる劉向(りゅうきょう)は、何を考え、何を成し遂げたのか。原資料と先行研究を幅広く渉猟し、目録学の誕生史を描き出す。(目録学の誕生―臨川書店

  

 「校書」「目録」という一般には聞き馴染みのない世界について、誰でも読めるように一から説きほぐしつつ、その魅力を存分に伝える一冊。他の概説書・研究書・論文の紹介という意味でも優れており、ここからまた次に読書に進んでいけるような本です。

 校讐学、目録学と聞くと、仰々しくてなかなか扉を開けないかもしれません。実際、これは学問そのものを形作る営みであって、近付きがたい威厳を思わせるところがあります。しかし、この一冊を手掛かりに思い切って飛び込めば、広大な世界が見渡せることでしょう。

 「本が好き」という自覚のある方は、是非手に取ってみてください。そもそも「本」とは何だろうか?そんな物思いにふけりながら、読み進めることができるでしょう。

 参照:拙著『目録学の誕生』が刊行されます | 学退筆談

 


 

③福谷彬『南宋道学の展開』

  「正しさ」の根拠とは何なのか。他者はいかに説得すべきなのか。「孟子の再来」たちはこの答えを古典に求め、論争と党争を繰り広げた。現実政治を改革する古典解釈学の精神。 (京都大学学術出版会:南宋道学の展開

   

 「朱子学」「性善説」「理気二元論」「古典解釈」などと聞くと、何やら哲学的なもの、悪く言えば、空理空論のようなものをイメージするかもしれません。しかし、朱子を始めとする宋代の学者たちは、徹頭徹尾、「現実の世界をより良いものにするため」、また「自身が善く生きるため」という目的の下で学問を修め、至極現実的な一人の人間として生きていた人々です。

 現実世界を変えるために、「古典」が求められた時代。その時、どのように古典が用いられたのか。そこに朱子の「哲学」が果した役割は何だったのか。当時の社会情勢や政治的背景、友人(?)や門人との交友関係を踏まえつつ(無論、存分に朱子学の「哲学」的な面も踏まえつつ)、南宋における道学の在り方を描き出した一冊。

 中国史は好きだけど、朱子学はねぇ…という方にこそ読んでいただきたい本です。

 


 

④吉川忠夫『侯景の乱始末記』

 激動の中国南北朝時代を独創的に描出した名著、ここに再誕。

 南朝梁の武帝のながきにわたる治世の末に起こり、江南貴族社会を極度の荒廃に陥れることとなった侯景の乱を活写した「南風競わず」。

 東魏に使いしたまま長年江南に帰還するを得ず、陳朝の勃興に至る南朝の黄昏に立ち会う生涯を送った一貴族を描く「徐陵」。

 そして、西魏北周・隋の三代にわたり、北朝の傀儡政権として存続した後梁王朝を論じる「後梁春秋」。

 これら原本収録の三篇に加え、侯景の乱を遡ること一世紀余、劉宋の治世下で惹起した『後漢書』編者・范曄の「解すべからざる」謀反の背景に迫った「史家范曄の謀反」をあらたに採録。(侯景の乱始末記──南朝貴族社会の命運 | 志学社より)

  

 『侯景の乱始末記』はもともと1974年に出版された本ですので、「新著」とは少し違いますが、合わせてご紹介します。長らく、伝説的名著として知られていましたが、絶版で入手困難になっていました。その本が、新たな章を加えて再び出版されたのです。

 各章、時代のキーパーソンに標準を合わせて、ある一人の人間の視点から、激動の時代を描き出しています。柔らかくも格調高い筆致で読み応えがあり、某所では本書の「朗読会」が開催されているほど。

 吉川先生の本は、何冊買っても損することはありません。オススメです。

 (棋客)

北京・天津旅行⑭―書店めぐり

 第十四回。中哲ブロガーですから、書店にもあちこち行ってきました。ただ、事前に教わったところ全てには行けなかったのですが…。

①万聖書店

f:id:chutetsu:20191109010754j:plain

 清華大と北京大の間にある本屋。中はかなり広いです。分野を問わず、専門書が豊富に置いてあります。何時間でも時間をつぶせてしまうような感じです。

 以下、「続きを読む」から。

続きを読む