達而録

ある中国古典研究者が忘れたくないことを書くブログ。毎週火曜日更新。

翻訳書

「時勢」という考え方(1)

汪暉著・石井剛訳『近代中国思想の生成』(岩波書店、2011)の序論・第三節「天理/公理と歴史」に、「時勢」概念について要領よくまとまっており、分かりやすかったのでご紹介します。以下、p.119~125の内容を整理したものです。一部、私の言葉を加えて説…

ジュディス・バトラー『ジェンダー・トラブル:フェミニズムとアイデンティティの攪乱』(3)

ジュディス・バトラー『ジェンダー・トラブル:フェミニズムとアイデンティティの攪乱』(竹村和子訳、青土社、2018、新装版)の読書メモの続きです。今回は、第三章・第四節「身体への書き込み、パフォーマティヴな攪乱」から抜き出します。以下、引用部はp…

ジュディス・バトラー『ジェンダー・トラブル:フェミニズムとアイデンティティの攪乱』(2)

ジュディス・バトラー『ジェンダー・トラブル:フェミニズムとアイデンティティの攪乱』(竹村和子訳、青土社、2018、新装版)の読書メモの続きです。 今回は、政治行動のための連帯についてバトラーが論じているところを見ていきます。以下、p.42~44を引用…

ジュディス・バトラー『ジェンダー・トラブル:フェミニズムとアイデンティティの攪乱』(1)

ジュディス・バトラー『ジェンダー・トラブル:フェミニズムとアイデンティティの攪乱』(竹村和子訳、青土社、2018、新装版)を改めて読みました。数回に亘って、メモ書きを残しておこうと思います。 今回は、議論の入り口ということで、本書で特に主眼に置…

『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー 』

『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』(早川書房、2018)を読みました。SF作家であり、翻訳家として中国SF作品の英語圏への普及に力を尽くしてきたケン・リュウによって集められたアンソロジーの日本語版です。 どれもSFの魅力がこれでもかというほど…

梁鴻『中国はここにある』

梁鴻『中国はここにある』(鈴木将久・河村昌子・杉村安幾子訳、みすず書房、2018)という本を読みました。先日、たまたま著者の方とお会いする機会があり、この本を紹介していただきました。 近代化の矛盾に苦しむ農村に、現代中国の姿を浮かび上がらせ、大…

ベンヤミン著・鹿島徹訳『[新訳・評注]歴史の概念について』(2)

予告していた通り、ベンヤミン著・鹿島徹訳『[新訳・評注]歴史の概念について』(未来社、2015)の内容を少しだけ紹介します。 まず、ベンヤミン『歴史の概念について』のテーゼⅥ(p.49-50)を一部引用します。 過ぎ去ったものを史的探究によってこれとは…

洪誠『訓詁学講義』より(4)

今回も、洪誠(森賀一恵・橋本秀美訳)『訓詁学講義―中国古語の読み方 (中国古典文献学・基礎篇)』(アルヒーフ、2004)から、気になる条を取り上げていきます。今日は、第四章「注を読む」の「二、文字の読みかえと校正の方式」から、「段玉裁の想定した…

洪誠『訓詁学講義』より(3)

今回も、洪誠(森賀一恵・橋本秀美訳)『訓詁学講義―中国古語の読み方 (中国古典文献学・基礎篇)』(アルヒーフ、2004)から、気になる条を取り上げていきます。今日扱うのは、第四章「注を読む」の「三、注文を誤解してはいけないし、誤信してもいけない…

洪誠『訓詁学講義』より(2)

前回に引き続き、洪誠(森賀一恵・橋本秀美訳)『訓詁学講義―中国古語の読み方 (中国古典文献学・基礎篇)』(アルヒーフ、2004)から、気になる条を取り上げていきます。 今回は、第三章「閲読に必要とされる基本原則」第七節「構文規則」のうち、「五、古…

洪誠『訓詁学講義』より(1)

最近、洪誠(森賀一恵・橋本秀美訳)『訓詁学講義―中国古語の読み方 (中国古典文献学・基礎篇)』(アルヒーフ、2004)を読み返していました。 本書は、漢文の読み方をいわゆる「訓詁」から丁寧に解き明かした、日本語で読める数少ない本の一つです。何度読…

呉叡人『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』(2)

前回の続きです、今日は、呉叡人著(駒込武訳)『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』(みすず書房、2021)のうち、「比較史、地政学、そして日本において寂寞の内に台湾を研究するという営みについて」という文章を読んでいきます。 本章は、2011年の日本台…

呉叡人『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』(1)

知人に紹介されて、呉叡人著(駒込武訳)『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』(みすず書房、2021)を読んでいます。 呉叡人は、台湾で多くの社会運動に携わりながら、台湾を中心とした政治史、民族史の研究をしている学者です。私はまだ本書を読了していま…

最近読んだ本

新年度がまもなく始まるということで、目まぐるしく忙しい日々を送っています。もともと論文の執筆、前回紹介した吉田寮関係の活動で時間が埋まっていたところに、もうすぐ授業や研究室業務も始まりますから、ブログを書く時間がなかなか取れません。 今回は…

アンヌ・チャン『中国思想史』(2)―「幾」について

前回に引き続き、アンヌ・チャン『中国思想史』(志野好伸・中島隆博・廣瀬玲子訳、知泉書館、2010)の内容を紹介します。今回は、私の個人的な興味から、「幾」という概念について説明している部分を読んでみます。 以下、第11章「易」の「幾」節、p.275-27…

アンヌ・チャン『中国思想史』(1)―「思想か哲学か」

アンヌ・チャン『中国思想史』(志野好伸・中島隆博・廣瀬玲子訳、知泉書館、2010)を読みました。中国哲学・中国思想を学んだことのない方でも非常に読みやすい本ですので、二回に分けて内容を少しご紹介しようと思います。 今回は、序論p.10「思想か哲学か…

中哲参考書目・「経書の訳本」篇

概説書篇、オンライン篇の続篇です。 以前も書きましたが、訳を参照する際には、それがどのような方針で訳されているかということを頭に入れた上で利用する必要があります。例えば経書には、大きく古注(漢代~唐代)と新注(朱子学の解釈)の二種の注釈があり、…

井筒俊彦「ムハンマド伝」

最近、『井筒俊彦著作集』(中央公論社、1991.10-1993.8を冒頭から眺めています。もともと『意識と本質』や『東洋哲学の構造――エラノス会議講演集』などしか読んだことがありませんでしたが、若かりし頃の井筒の文章の筆致にはまた異なる魅力があるように思…

バーナード・レジンスター『生の肯定―ニーチェによるニヒリズムの克服』

最近、友人に薦められてバーナード・レジンスター著(岡村俊史・竹内 綱史・新名隆志訳)『生の肯定―ニーチェによるニヒリズムの克服』(法政大学出版局、2020)を読んでいました。まだ半分も読めていませんが、門外漢である私にも(ある程度)伝わるほどに…

井筒俊彦「儒教の形而上学におけるリアリティの時間的次元と非時間的次元」(3)

前回→井筒俊彦「儒教の形而上学におけるリアリティの時間的次元と非時間的次元」(2) - 達而録 井筒俊彦著(澤井義次監訳、金子奈央・古勝隆一・西村玲訳)『東洋哲学の構造 : エラノス会議講演集』(慶應義塾大学出版会,2019)の中から、第六章の「儒教の…

井筒俊彦「儒教の形而上学におけるリアリティの時間的次元と非時間的次元」(2)

前回→ 井筒俊彦「儒教の形而上学におけるリアリティの時間的次元と非時間的次元」(1) - 達而録 井筒俊彦著(澤井義次監訳、金子奈央・古勝隆一・西村玲訳)『東洋哲学の構造 : エラノス会議講演集』(慶應義塾大学出版会,2019)の中から、第六章の「儒教…

井筒俊彦「儒教の形而上学におけるリアリティの時間的次元と非時間的次元」(1)

井筒俊彦著(澤井義次監訳、金子奈央・古勝隆一・西村玲訳)『東洋哲学の構造 : エラノス会議講演集』(慶應義塾大学出版会,2019)を読んでいきます。 この文章は、1974年の第43回エラノス会議(テーマ:時代の変化における規範)における井筒俊彦の講演をも…

E.H.カー『歴史とは何か』

今日は、不朽の名著E.H.カー『歴史とは何か』(岩波新書、1962)を紹介します。タイトルの通り、「歴史」とは何か、歴史研究はどのように進められるか、歴史を学ぶことの意義はどこにあるのか、といったことが平易に説明されています。清水幾太郎氏の訳文が…

宮崎市定訳『鹿洲公案―清朝地方裁判官の記録』

『鹿洲公案』とは、特に台湾の統治に力を発揮した、清朝の実務派官僚の代表格である藍鼎元(1680-1733)が、自分が任地で体験した統治・裁判の事例を記録した本です。 そしてこれを翻訳したのが宮崎市定で、平凡社東洋文庫に『鹿洲公案―清朝地方裁判官の記録…

クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』(7)

★「クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』」の記事一覧:(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7) ようやく最終回(7)まできました。クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』(半沢孝麿…

クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』(6)

★「クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』」の記事一覧:(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7) 前回の続きです。クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』(半沢孝麿・加藤節編訳、岩波…

クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』(5)

★「クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』」の記事一覧:(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7) 前回の続きです。クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』(半沢孝麿・加藤節編訳、岩波…

クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』(4)

★「クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』」の記事一覧:(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7) 前回の続きです。クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』(半沢孝麿・加藤節編訳、岩波…

クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』(3)

★「クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』」の記事一覧:(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7) 前回の続きです。クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』(半沢孝麿・加藤節編訳、岩波…

クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』(2)

★「クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』」の記事一覧:(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7) 前回の続きです。クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』(半沢孝麿・加藤節編訳、岩波…