達而録

ある中国古典研究者が忘れたくないことを書くブログ。毎週火曜日更新。

クィア

何春蕤「左翼からクィアへ:米国同性愛運動のクィア化」を読む

今回は、前回触れた何春蕤「左翼からクィアへ:米国同性愛運動のクィア化」を読んでみる。 なお、原題は〈從左翼到酷異:美國同性戀運動的酷兒化〉である。ちなみに「酷異」も「酷兒」も「queer」の翻訳のはずだが、なぜタイトルで二種の訳語が同時に使われ…

福永玄弥『性/生をめぐる闘争』とPetrus Liu “Queer Marxism in Two Chinas”

前回まで、ペトラス・リュー『二つの中国におけるクィア・マルクス主義』の第一章を紹介してきた。 Petrus Liu, (2015) “Queer Marxism in Two Chinas”, Durham, North Carolina: Duke University Press, https://www.dukeupress.edu/queer-marxism-in-two-c…

Petrus Liu “Queer Marxism in Two Chinas”~第一章の文献案内

前回の記事で、ペトラス・リュー『二つの中国におけるクィア・マルクス主義』の第一章を紹介した。 Petrus Liu, (2015) “Queer Marxism in Two Chinas”, Durham, North Carolina: Duke University Press, https://www.dukeupress.edu/queer-marxism-in-two-c…

Petrus Liu “Queer Marxism in Two Chinas”~クィア理論・中国・マルクス主義の絡み合い

先日、「Holly Lewis "The Politics of Everybody: Feminism, Queer Theory, and Marxism at the Intersection" ~クィア・マルクス主義への招待」と題した記事を書いた。今回は、これに関連して、ペトラス・リューの『二つの中国におけるクィア・マルクス主…

Holly Lewis "The Politics of Everybody: Feminism, Queer Theory, and Marxism at the Intersection" ~クィア・マルクス主義への招待

最近、友人の山村一夏さんに勧めてもらったのをきっかけに、クィア・マルクス主義についての書籍を読んでいます。(以下、本書の和訳と本記事の修正において、山村さんの力をめちゃめちゃ大きく借りていることを最初に断っておきます。まことにありがとうご…

高島さんのcodocの記事がめっちゃ好き

最近のこのブログの記事を見返していると、自分が好きなコンテンツ(ゲーム・動画・音楽とか)を紹介することが多いことに気が付きました。他に紹介したいものとして思いついたのが、高島鈴さんのcodocの記事です。私は数か月前に読み始めました。月に数本更…

自分の研究の今後の方向性を考える(6):工藤万里江『クィア神学の挑戦』から

前回に引き続き、工藤万里江『クィア神学の挑戦』を読んで、自分の研究に引き付けられるところがあるか考えていく。今回は、第四章「下品な神学――マルセラ・アルトハウス=リード」をまとめてみる。 アルトハウス=リードがいう「下品な神学」とは何か。その…

自分の研究の今後の方向性を考える(5):工藤万里江『クィア神学の挑戦』から

最近、工藤万里江『クィア神学の挑戦―クィア、フェミニズム、キリスト教』(新教出版社、2022)を読んでいて、自分の研究と絡めて考えたことがあるので、少しだけメモしておく。まず、第一章「クィア神学の歴史と課題」の第三節「クィア神学とフェミニスト神…

Wikipedia執筆録(8)

今月も、博論の校正作業の合間に、過去に準備していたWikipediaの記事をいくつか完成までもっていきました。 ジェンダー・トラブル - Wikipedia新規立項です。「新着記事」「良質な記事」に選出されました。フェミニズム・クィア関連の思想書の記事が、日本…

ジュディス・バトラー『分かれ道 ―ユダヤ性とシオニズム批判―』(1)

ジュディス・バトラー『分かれ道 ―ユダヤ性とシオニズム批判―』(大橋洋一・岸まどか訳、青土社、2019)を少しずつ読み進めている。まだ半分も読み終えていないのだが、ひとまず「はじめに」の内容をもとに、簡単なメモを残しておく。 〇本書の主眼 本書の狙…

東大パレスチナ連帯キャンプの「セイファーテント」声明文が好きという話

前回の最後で述べた「安心」と「安全」の違いについて、考えたことを書く。まずは、東大パレスチナ連帯キャンプの「セイファーテント」の声明文の全文を以下に転載する(https://www.instagram.com/ut4palestine/p/C7nsn8HB4rD/?locale=de-DE&img_index=1 よ…

藤高和輝『バトラー入門』についての(熱を込めた)感想

藤高和輝『バトラー入門』(筑摩書房、2024)を読んだ。ちなみに藤高さんの文章は、以前別のものを紹介したことがある。 藤高和輝「パスの現象学―トランスジェンダーと「眼差し」の問題」 - 達而録 私は、バトラーの『ジェンダー・トラブル』で論じられてい…

自分の研究の今後の方向性を考える(1)

突然だが、最近、自分の研究の今後の方向性をあれこれ考えている。内容的に、相談できる相手もあまり思い浮かばないし、ここに放流しておきたい。 私の博論のテーマは、後漢の鄭玄とその後の経学の展開(義疏など)についてである。色々なことを書いたのだが…

山家悠平『生き延びるための女性史―遊郭に響く〈声〉をたどって』(1)

山家悠平『生き延びるための女性史―遊郭に響く〈声〉をたどって』(青土社、2023)を読んだ。殺気迫る珠玉の論考の数々で、まさに「生き延びるため」に書かれた本、言い換えれば、言葉を綴らなければ社会に殺されると実感している人の叫びが、ひしひしと伝わ…

『少女革命ウテナ』の感想(1話~13話)

友人に勧められて、『少女革命ウテナ』を見始めた。いま13話まで観終えたところ。 ざっと観た印象は、色々な意味でまさに「古典」というべき作品で、さまざまな方向に解釈が開かれた作品だと感じた。台詞が少なく無駄がないし、伏線を多く張って「ああ、多分…

Queer Prism Flagの説明

パレスチナ連帯のデモに行くと、「Queer Prism Flag」と呼ばれる以下の旗を見かけることがあるかもしれません。 この旗は、Hamed Sinnoというレバノン出身のアーティストが作成したものです(H Sinno | The queer prism flag as well as its vector files a…

しびれるような世界を求めて~岡田索雲『ある人』

前回の記事で少し触れた「ある人 / ある人 - 岡田索雲 | webアクション」を、何度も読み返して繰り返し感銘を受けている。多くの人に知って欲しい漫画家だと思ったので、詳しく感想を書いていく。 最初にこの作品の前半を読んだ段階では、「突然誰かとぶつか…

くたばるのは、忌々しい社会や歴史を書き換えてからでも遅くはない~吉野靫『誰かの理想を生きられはしない』

今回は、吉野靫『誰かの理想を生きられはしない―とり残された者のためのトランスジェンダー史―』(青土社、2020)について書いていく*1。この本の感想はいつかきちんと書きたいと思っていて、メモを取り始めたのはだいぶ前なのだが、完成までだいぶ時間がか…

パンセクシュアルを名乗ること:文献・リンク集

パンセクシュアルを名乗ること:前提 パンセクシュアルを名乗ること:過去 パンセクシュアルを名乗ること:未来 パンセクシュアルを名乗ること:文献・リンク集(今回) さて、昨日まで連続で更新してきた記事も、最初はいつもの記事のように、他人の文章を…

パンセクシュアルを名乗ること:未来

パンセクシュアルを名乗ること:前提 パンセクシュアルを名乗ること:過去 パンセクシュアルを名乗ること:未来(今回) パンセクシュアルを名乗ること:文献・リンク集 昨日の続き。自分がパンセクシュアルと名乗ることについて、もう一つ書ききれていない…

パンセクシュアルを名乗ること:過去

パンセクシュアルを名乗ること:前提 パンセクシュアルを名乗ること:過去(今回) パンセクシュアルを名乗ること:未来 パンセクシュアルを名乗ること:文献・リンク集 昨日の記事で、自分がパンセクシュアルであると名乗ることについて、その前提や意味を…

パンセクシュアルを名乗ること:前提

(今回)パンセクシュアルを名乗ること:前提 パンセクシュアルを名乗ること:過去 パンセクシュアルを名乗ること:未来 パンセクシュアルを名乗ること:文献・リンク集 今回からしばらくの間、自分のアイデンティティについて言語化するための記事を書いて…

Diffの記事を書きました

Diffの記事を書いたのでお知らせしておきます。 diff.wikimedia.org Diffとは、Wikimedia(Wikipediaを含む)に関連する記事を掲載するメディアです。 私はWikipediaの編集に継続的に取り組んでおり、Wikipedia関係の記事はDiffにアップしていこうと思います…

光本順「クィア考古学の可能性」

光本順「クィア考古学の可能性」(『論叢クィア』第2号、2009)を読みました。一つの学問の指針を知ることができるよい論文でした。簡単にまとめておきます。 「クィア考古学」とは耳慣れない言葉かもしれませんが、第三波フェミニズムを受けてフェミニスト…

文フリで買った本③―『MagazineF』と『From the Hell Magazine』

文フリで買った本の感想を書く記事の続きです。今回は、「四面楚歌系クィアメディア」を名乗る『MagazineF』vol.1, 2(竹輪書房)と、文乃(Ayano)さんの『From the Hell Magazine』vol.1, 2から。 なお、二つの文章は、全く同じ話をしているというわけでは…

文フリで買った本①―『砂時計』第四号

文フリで買ってきた『砂時計』第四号を読んだので、感想を書いていきます。発行者は「北十 | 文芸同人 北十 | Hokkaido」さんです。 冒頭にあるのが『片袖の魚』の監督の東海林毅さんと、「北十」の音無早矢さんの対談記事です。『片袖の魚』は、以前関西ク…

第16回関西クィア映画祭(4)

関西クィア映画祭の感想の続きです。最終日に観た映画を抜き出して書いていきます。まずは海外短編集から。 kansai-qff.org ハテナだらけの食卓ゲイをカミングアウトする食卓の会話劇。ゲイという存在を全く知らない両親。息子に寄り添うでもなく、かといっ…

第16回関西クィア映画祭(3)

関西クィア映画祭の感想の続きです。国内コンペ部門の続きを書きます。今回はさらっと。 kansai-qff.org 「駆け抜けたら、海」全体的に絵がとても綺麗で、アフタートークで監督がフォトデザイナー(?、すいません、ちょっと記憶が怪しいです)と知って納得…

第16回関西クィア映画祭(2)

前回の続きです。 kansai-qff.org 今回は、国内コンペ作品の一つの「私の愛を疑うな」について、感想を書いていこうと思います。 国内作品コンペティション:第16回 関西クィア映画祭 2023 [KQFF2023] 私もこの作品に投票しました。個人的には、昨年のクィア…

第16回関西クィア映画祭(1)

今年も関西クィア映画祭に参加してきましたので、しばらくその感想を書いていこうと思います。 kansai-qff.org ちなみに、去年参加したときの記事が以下です。 関西クィア映画祭に行ってきました - 達而録 映画「ノー・オーディナリー・マン」(No Ordinary …