達而録

ある中国古典研究者が忘れたくないことを書くブログ。毎週火曜日更新。

戦争

最近読んだ本(中島敦、レヴィナス、戸籍)

最近読んだ本のうち、学ぶところの多かった本について、雑に感想を書いておきます。また詳しく書き直すかもしれません。下を読むと批判が目立っていますが、どれも面白く読みました。おすすめです。 ◆小谷汪之『中島敦の朝鮮と南洋』(岩波書店、2019) 中島…

9月7日は沖縄市民平和の日

今日、9月7日は、沖縄市民平和の日だ。沖縄戦が公式に終結してから八十年の節目を迎えることになる。この機会に、最近よく聞く「戦後八十年」という言葉について考えていることをつらつらと書き連ねておきたい。 ◆戦後八十年 「戦後八十年」という言葉に、何…

高橋和巳『邪宗門』(4)――ウーマン・リブの視点から

高橋和巳『邪宗門』は1965~1966年に連載・出版された作品である。高橋和巳というと全共闘・学生運動とのつながりが強調されるが、これは女性解放運動が本格化していく時代とも重なっている。第二派フェミニズムの契機の一つとされるベティ・フリーダン『新…

高橋和巳『邪宗門』(3)――戦場の論理

ブルーハーツの『月の爆撃機』は、街に爆弾を落としに向かうパイロットと、標的にされた街で逃げ惑う市民の視点を切り替えつつ、戦場の絶望を歌う名曲である(以前記事に書いたことがある:反戦歌として「リンダリンダ」を読む - 達而録)。 『月の爆撃機』…

高橋和巳『邪宗門』(2)――祈りの言葉

左派系のデモでよく用いられるスローガンに、「すべての人が自由になるまで、私たち誰も自由ではない」や「一人でも自由でない人がいるなら、私も自由ではない」、また「一人の人への加害は、全員への加害だ」といったものがある。たとえばパレスチナ連帯の…

高橋和巳『邪宗門』(1)――左派と宗教

最近、友達に勧められて高橋和巳『邪宗門』を読んだ。『邪宗門』は、1900年頃から1945年までに存在した「ひのもと救霊会」という架空の宗教教団が、始まってから終わるまでを群像劇風に描いた作品である。フィクションではあるが、戦前から戦後にかけての史…

『神戸からパレスチナでのジェノサイドに抗う』の感想

先日、IRA TOKYOで『神戸からパレスチナでのジェノサイドに抗う:ケア・生活・フェミニズム・クィアとの連帯』(小さき声の連帯、2024)を購入してきました。 boothで通販購入もできます。↓ booth.pm とてもおすすめのzineです。売上は実費を除いてパレスチ…

京都大学学術出版会「プリミエ・コレクション」冒頭の湊総長の言葉への批判

京都大学学術出版会からは、「プリミエ・コレクション」というシリーズが継続的に出版されています。このシリーズは、若手研究者の初の単著を出版することが多く、上質な研究書を多く世に送り出していることで知られています。本ブログで紹介したことがある…

ジュディス・バトラー『分かれ道 ―ユダヤ性とシオニズム批判―』(1)

ジュディス・バトラー『分かれ道 ―ユダヤ性とシオニズム批判―』(大橋洋一・岸まどか訳、青土社、2019)を少しずつ読み進めている。まだ半分も読み終えていないのだが、ひとまず「はじめに」の内容をもとに、簡単なメモを残しておく。 〇本書の主眼 本書の狙…

パレスチナ関連のNHK番組の感想

ガザでの戦闘が激化してから一年が経ちました。イスラエルによるパレスチナへの入植は、1年どころか、70年前から始まったことであり、この一年にフォーカスを当てること自体が、すでに一種のウォッシングであり、加害的な言説なのですが、あまりにひどい惨状…

Wikipedia執筆録(7)

またDiffの記事を書きました。この一か月間はかなり精力的にWikipedia執筆に取り組んだので、その成果や、その時に考えたことをメモしています。特に、「プロジェクト:LGBT - Wikipedia」の整備について詳しく書いています。 diff.wikimedia.org 以下、Diff…

反戦歌として「リンダリンダ」を読む

これまで、自分の好きな歌の歌詞を再解釈することを何度か試みてきた(埋没しないマイノリティ〜the pillows「ストレンジカメレオン」、その「笑い」はどこから来たものですか〜KASHIKOI ULYSSES「feelings, NONAME」)。今日は、あまりに今更すぎて恥ずかし…

東大パレスチナ連帯キャンプの「セイファーテント」声明文が好きという話

前回の最後で述べた「安心」と「安全」の違いについて、考えたことを書く。まずは、東大パレスチナ連帯キャンプの「セイファーテント」の声明文の全文を以下に転載する(https://www.instagram.com/ut4palestine/p/C7nsn8HB4rD/?locale=de-DE&img_index=1 よ…

「All eyes on Rafah」のAI画像の拡散に思うこと

いま、「All eyes on Rafah」のAI画像がものすごい勢いでシェアされまくっている。→「All Eyes on Rafah」のAI画像、なぜ世界中に広まったのか - BBCニュース すでに、この画像が拡散されていることについて意見はあちこちで交わされているが、私も自分なり…

Queer Prism Flagの説明

パレスチナ連帯のデモに行くと、「Queer Prism Flag」と呼ばれる以下の旗を見かけることがあるかもしれません。 この旗は、Hamed Sinnoというレバノン出身のアーティストが作成したものです(H Sinno | The queer prism flag as well as its vector files a…

早尾貴紀「『鋼の錬金術師』から読み解く国家と民族」

今回は、『ユリイカ』の『鋼の錬金術師』完結記念特集(2010年12月号)より、早尾貴紀「『鋼の錬金術師』から読み解く国家と民族」を取り上げる。 私は読んだ漫画の数でいうと同世代の人と比べてかなり少ない。自分が読んだことのある「超人気作」は数少なく…

東大駒場パレスチナ連帯キャンプの要求書

いま、東京大の駒場キャンパスにて、パレスチナ連帯キャンプが行われています(私も少しだけ手伝いをしています)。そのキャンプから出された要求書が以下です。 【要求書】 (1/2) 本日5/6、東京大学に要求書を提出しました。 #utokyo4palestine #TKYU4pales…

この灯は、消しちゃあいけねえ~岡田索雲『ようきなやつら』

先日、岡田索雲『ある人』の感想を書いた(しびれるような世界を求めて~岡田索雲『ある人』 - 達而録)。単行本の『ようきなやつら』も買って読んだので、今日はこの本について考えたことを書いていきたい。短編集で、『東京鎖鎌』『忍耐サトリくん』『川血…

『交差するパレスチナ: 新たな連帯のために』を読んで(3)

前回に引き続き、『交差するパレスチナ: 新たな連帯のために』(在日本韓国YMCA編集、新教出版社、2023)を読みます。今回は、第4章「パレスチナと性/生の政治」(保井啓志)の内容をメモしておきます。イスラエルによる、いわゆる「ピンクウォッシング」…

『交差するパレスチナ: 新たな連帯のために』を読んで(2)

前回に引き続き、『交差するパレスチナ: 新たな連帯のために』(在日本韓国YMCA編集、新教出版社、2023)を読みます。今回は、第7章「ジェンタイル・シオニズムとパレスチナ解放神学」(役重善洋)の内容をメモしておきます。この章は、イスラエルによるパ…

『交差するパレスチナ: 新たな連帯のために』を読んで(1)

『交差するパレスチナ: 新たな連帯のために』(在日本韓国YMCA編集、新教出版社、2023)を読みました。在日本韓国YMCAは、日本・韓国・在日朝鮮人を架橋する運動体であり、2006年からはパレスチナとの交流事業を継続してきました。 現在、イスラエルによるパ…

林秀一と毛沢東

『林秀一博士存稿』(林秀一先生古稀記念出版会、一九七四)をパラパラと眺めていると、「中国哲学界の現状」「毛沢東主席会見記」という文章が載っていまいた。これらは、林秀一が訪中した時の記録を残したものです。 林秀一は、中国古典の研究者で、『孝経…

呉叡人『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』(2)

前回の続きです、今日は、呉叡人著(駒込武訳)『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』(みすず書房、2021)のうち、「比較史、地政学、そして日本において寂寞の内に台湾を研究するという営みについて」という文章を読んでいきます。 本章は、2011年の日本台…

呉叡人『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』(1)

知人に紹介されて、呉叡人著(駒込武訳)『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』(みすず書房、2021)を読んでいます。 呉叡人は、台湾で多くの社会運動に携わりながら、台湾を中心とした政治史、民族史の研究をしている学者です。私はまだ本書を読了していま…

小島祐馬と大学総長任命権問題

今日は、竹ノ内静雄『先知先哲』(一九九二、新潮社)から、戦中の小島祐馬の活躍ぶりを学ぶことにいたしましょう。本書は、吉川幸次郎・田中美知太郎・小島祐馬といった学者の回想録になっており、他にも面白いこぼれ話が多数記載されています。 ここで紹介…

カブール陥落について―杉山正明『ユーラシアの東西』から

8月15日、「カブール陥落」というニュースが世界を駆け巡りました。 私の手元にある杉山正明『ユーラシアの東西―中東・アフガニスタン・中国・ロシアそして日本』(日本経済新聞出版社、2010)のうち、氏の2009年の講演を記録した文章に、アフガニスタンにつ…

北京・天津旅行⑤―盧溝橋・宛平城・抗日戦争紀念館

北京・天津旅行レポの第五回。今回は、北京の西南にある盧溝橋をご紹介します。 盧溝橋は、北京の中心地から地下鉄とバスを乗り継いで1時間半ほどで着きます。近辺には宛平城、抗日戦争紀念館もあり、充実した観光めぐりができます。 ①盧溝橋 盧溝橋は、北京…