達而録

ある中国古典研究者が忘れたくないことを書くブログ。毎週火曜日更新。

論語

「川上の嘆」について―蜂屋邦夫『中国の水の思想』から

以前、『論語』の有名な一節「子在川上、曰、逝者如斯夫、不舍晝夜」(子川上に在り、曰く、逝く者は斯くの如きか、昼夜を舎かず)の解釈について、このブログでまとめたことがあります。 『論語』の「川上の嘆」の二つの解釈 - 達而録 要約すると、「川上の…

高橋均 『六朝論語注釈史の研究』(1)

最近、高橋均 『六朝論語注釈史の研究』(知泉書館、2022)を入手しました。 『論語』の研究、すなわち注釈は漢代から始まり、その成果は魏の何晏(190-249)『論語集解』にまとめられ、また300年後にはそれらも含め新たな研究を集約した梁の皇侃(488-545)『論…

洪誠『訓詁学講義』より(3)

今回も、洪誠(森賀一恵・橋本秀美訳)『訓詁学講義―中国古語の読み方 (中国古典文献学・基礎篇)』(アルヒーフ、2004)から、気になる条を取り上げていきます。今日扱うのは、第四章「注を読む」の「三、注文を誤解してはいけないし、誤信してもいけない…

洪誠『訓詁学講義』より(2)

前回に引き続き、洪誠(森賀一恵・橋本秀美訳)『訓詁学講義―中国古語の読み方 (中国古典文献学・基礎篇)』(アルヒーフ、2004)から、気になる条を取り上げていきます。 今回は、第三章「閲読に必要とされる基本原則」第七節「構文規則」のうち、「五、古…

中哲参考書目・「経書の訳本」篇

概説書篇、オンライン篇の続篇です。 以前も書きましたが、訳を参照する際には、それがどのような方針で訳されているかということを頭に入れた上で利用する必要があります。例えば経書には、大きく古注(漢代~唐代)と新注(朱子学の解釈)の二種の注釈があり、…

慶應義塾大学斯道文庫蔵『論語義疏』、影印本発売開始!

本ブログでは、慶應義塾大学斯道文庫による『論語義疏』古写本の発見について、これまで何度か取り上げてきました。 慶應義塾大学蔵『論語義疏』古写本の発見について - 達而録 慶應義塾図書館展示会「古代中世 日本人の読書」に行ってきました - 達而録 『…

『論語』の「川上の嘆」の二つの解釈

前回→ 井筒俊彦「儒教の形而上学におけるリアリティの時間的次元と非時間的次元」(3) - 達而録 これまで、井筒俊彦著(澤井義次監訳、金子奈央・古勝隆一・西村玲訳『東洋哲学の構造 : エラノス会議講演集』(慶應義塾大学出版会,、2019)の中から、第六…

『藤堂明保中国語学論集』の「古代語の意味と古典の解読」

本日は、『藤堂明保中国語学論集』(汲古書院、1987)を取り上げます。この本は、藤堂氏の没後に既発表の文章を集めて作られた遺稿集ですが、関連の深い論文が順序だてて並べられており、藤堂氏の研究を見渡せる内容になっています。 このうち、「古代語の意…

『論語義疏』公開画像データ一覧

『論語義疏』について、オンラインで見ることができる画像を自分用にメモしておきます。ついでに、『論語義疏』に関する研究書も簡単にまとめておきました。 da.library.ryukoku.ac.jp 完本。日本で伝えられてきた『論語義疏』抄本は、影山輝國氏によれば、…

慶應義塾大学蔵『論語義疏』古写本の発見について

最近、衝撃的なニュースが飛び込んできました。かの『論語義疏』の古写本の一部が発見されたというのです。 www.keio.ac.jp www.asahi.com 以下のように、既にブログで解説している方もいます。 hirodaichutetu.hatenablog.com 一部上の記事と重なるところも…

小倉芳彦『古代中国を読む』

前回、小倉芳彦『古代中国を読む』(岩波新書、1974)・(論創社、2003)を話題に出すに当たって、数年ぶりに読み返してみました。やはり、何度読んでも面白いものです。 折角ですので、少し引用しながら紹介してみます。 前回、この本は「小倉氏の研究者と…

おすすめ動画:梁文道「一千零一夜」

本日は一休みして、個人的におすすめの動画をご紹介します。 それは、梁文道氏の「一千零一夜」シリーズです。Youtubeに、优酷の公式アカウントによってアップロードされています。 梁文道氏は香港出身の文人で、非常に幅広い知識を持ち、過去に数多くの論稿…

大形徹「王弼の『論語釈疑』」―論文読書会vol.11

※論文読書会については「我々の活動について」を参照。 ※本論文はオンライン上で公開されています。 【論文タイトル】 大形徹「王弼の『論語釈疑』:『老子』の思想で解釈した『論語』」(大阪府立大学人文学会『人文学論集』1986, 4, p.1-15) 【要約】 本…

【良質講義動画】広島大学の「中国思想文化学入門」を紹介

動画 lHiCE003: 中国思想文化学入門 Twitterで上記の動画(HiCE003: 中国思想文化学入門、広島大学が公式に公開している有馬卓也先生の講義)を紹介したところ、予想外に多くの反響がありました。この動画は、先秦から漢代にかけての「天」と「命」に焦点を…

影山輝國「皇侃と科段説―『論語義疏』を中心に―」―論文読書会vol.9

※論文読書会については、「我々の活動について」を参照。 【論文タイトル】 影山輝國「皇侃と科段説―『論語義疏』を中心に―」(『斯文』122, 2013, p.1~14) 【先行研究】 ・喬秀岩『義疏学衰亡史論』(白峰社、2001) 南北朝から隋唐にかけての義疏学(特に…

勝手気ままな「訳書」紹介―『論語』

日原利国氏が「碩学といわれるほどの大先生は、みな『論語』の訳注をされる、と聞かされ」*1たと述べる通り、『論語』の訳本は非常に多く存在します。一般向け・専門向けも入り混じっており、どうまとめるのが良いのか悩みどころ。全てを時代順に並べても、…