達而録

ある中国古典研究者が忘れたくないことを書くブログ。毎週火曜日更新。

初学者向け

藤高和輝『バトラー入門』についての(熱を込めた)感想

藤高和輝『バトラー入門』(筑摩書房、2024)を読んだ。ちなみに藤高さんの文章は、以前別のものを紹介したことがある。 藤高和輝「パスの現象学―トランスジェンダーと「眼差し」の問題」 - 達而録 私は、バトラーの『ジェンダー・トラブル』で論じられてい…

中国学関係の「リサーチ・ナビ」

小林昌樹『調べる技術: 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス』を読んで、国立国会図書館が「リサーチ・ナビ」という調べ方案内のページを作っていることを知りました。各分野の調べごとについて、最初の一歩の調べ方をまとめた便利なページです。 ざっく…

【中国哲学史】無料で使える便利なサービスのリスト-オンライン篇(続)

以前、こんな記事を書きました。 chutetsu.hateblo.jp この記事は書き殴りでしたので、少し備忘のために追加しておきます。 13階の17号室(東洋学関係の物置部屋)とてつもなく有用。さまざまなデータベースが分類されてまとめてあります。「やたがらすナビ…

【良質講義動画紹介】「官僚哲学者・朱子、混迷の政界に立ち向かう」

京大の福谷彬先生の講義動画がYoutubeにアップされていたので、ご紹介いたします。朱子学について初めて触れる人でも簡単に観ることができる動画ですので、ぜひご覧ください。 雑学を交えながらのまったりした講義ですから、あまり肩肘を貼らずに、料理でも…

「大史書曰、崔杼弒其君」の逸話

中国古典のなかでも屈指で有名な逸話ですね。やはり何度読んでも含蓄があります。 『左伝』襄公二十五年 大史書曰、崔杼弒其君。崔子殺之。其弟嗣書、而死者二人。其弟又書、乃舍之。南史氏聞大史盡死、執簡以往、聞既書矣、乃還。 (訓読)大史 書して曰は…

古勝隆一『中国注疏講義 経書の巻』

先日、古勝隆一『中国注疏講義 経書の巻』(法蔵館、2022)を著者よりご恵贈いただきました。 「中国古典を自分の力で読んでみたくはありませんか」 注釈を利用して古典を読む。その手法を基礎と実践で学ぶための一冊です。 【基本篇】で、注釈の基本知識と…

洪誠『訓詁学講義』より(1)

最近、洪誠(森賀一恵・橋本秀美訳)『訓詁学講義―中国古語の読み方 (中国古典文献学・基礎篇)』(アルヒーフ、2004)を読み返していました。 本書は、漢文の読み方をいわゆる「訓詁」から丁寧に解き明かした、日本語で読める数少ない本の一つです。何度読…

アンヌ・チャン『中国思想史』(2)―「幾」について

前回に引き続き、アンヌ・チャン『中国思想史』(志野好伸・中島隆博・廣瀬玲子訳、知泉書館、2010)の内容を紹介します。今回は、私の個人的な興味から、「幾」という概念について説明している部分を読んでみます。 以下、第11章「易」の「幾」節、p.275-27…

アンヌ・チャン『中国思想史』(1)―「思想か哲学か」

アンヌ・チャン『中国思想史』(志野好伸・中島隆博・廣瀬玲子訳、知泉書館、2010)を読みました。中国哲学・中国思想を学んだことのない方でも非常に読みやすい本ですので、二回に分けて内容を少しご紹介しようと思います。 今回は、序論p.10「思想か哲学か…

中哲参考書目・「経書の訳本」篇

概説書篇、オンライン篇の続篇です。 以前も書きましたが、訳を参照する際には、それがどのような方針で訳されているかということを頭に入れた上で利用する必要があります。例えば経書には、大きく古注(漢代~唐代)と新注(朱子学の解釈)の二種の注釈があり、…

鄭玄研究のまとめ

後漢を代表する経学者である鄭玄の研究は、過去様々な方向から深められており、その内容は多種多様です。鄭玄の学問が該博で、また生きた時代が激動の時代であるがゆえに、学者によって研究の切り口が大きく異なり、内容の相違が生まれてくるのでしょう。 今…

マーベルシリーズ「シャン・チー」に出てくる神獣まとめ

先日、マーベルシリーズ最新作の「シャン・チー」を観てきました。 シャンチー(象棋、中国の将棋)を嗜む私は、最初にタイトルを見たとき「完全なるチェックメイト」や「聖の青春」のようなボードゲームを題材にした映画かと勘違いしてしまいました。当然、…

便利ツールの紹介:「Q漢字+」

Wordで漢文の原典を引用しながら文章を書いていると、旧字体と新字体の使い分けに苦労することがあります。文章編集ソフトとして「一太郎」を使っている場合は、また別の方法があるかもしれませんが、持っていない方も多いことでしょう。 こうした悩みを解決…

『論語』の「川上の嘆」の二つの解釈

前回→ 井筒俊彦「儒教の形而上学におけるリアリティの時間的次元と非時間的次元」(3) - 達而録 これまで、井筒俊彦著(澤井義次監訳、金子奈央・古勝隆一・西村玲訳『東洋哲学の構造 : エラノス会議講演集』(慶應義塾大学出版会,、2019)の中から、第六…

『中国語作文 その基本と上達法』の紹介

先日、Twitter上で竹内金吾・賈鳳池『中国語作文 その基本と上達法』(金星堂、1975)をおススメされて購入しました。とても勉強になる内容で、買って以来毎日読んで音読しています。 今は品切れらしく古本はやや高騰しているのですが、第17刷(2007)まで出…

慶應義塾大学蔵『論語義疏』古写本の発見について

最近、衝撃的なニュースが飛び込んできました。かの『論語義疏』の古写本の一部が発見されたというのです。 www.keio.ac.jp www.asahi.com 以下のように、既にブログで解説している方もいます。 hirodaichutetu.hatenablog.com 一部上の記事と重なるところも…

多音字の読み分け「惡」―『経典釈文』から『新華字典』まで

日頃「経書」を読む者にとって、『経典釈文』における「多音字の読み分け」というのは、否が応にも意識させられる話です。 『釈文』とは、六朝時代、陳末隋初の頃に作られた、経書の文字に発音を附した本です。そして、意味によって発音が異なる漢字には、き…

『礼記』を実際に読んでみる(1)

前回、『礼記』の全体の構成を紹介しました。今回は、『礼記』の内容を少し紹介してみます。 『礼記』の内容と言っても、前回書いたように、『礼記』はさまざまな内容を含む雑記という感じの本です。まず今回のところは、その「雑駁な雰囲気」を感じていただ…

漢文を初めて学ぶ人に向けて:『礼記』について

前回、経書について簡単な整理をしておきました。今回は、そのうちで一番複雑と言ってもよい本である『礼記』を紹介します。 『礼記』が一番複雑であるというのは、他の経書は一書の中で一つのまとまり、一つの体裁があって、一応一つの「著作」という感じを…

漢文を始めて学ぶ人に向けて:「経書」とは?

中国において伝統的に重視されてきた古典のグループに、「経書」と呼ばれるものがあります。経書は、「聖人」と呼ばれる理想的な人格を持つ人によって編集されたとされる書籍群です。これらは儒教において聖典とされ、中国に限らず、儒教文化を取り入れた古…

京大中華街探訪録

ここ最近、京都大学から五分ほど北に歩いた「田中里ノ前交差点」近辺に、中華料理屋が乱立しています。 これは、京都に拠点を置く中国古典愛好家である我々としては、決して看過することのできない大問題です。その謎を探るべく、我々は暴飲暴食を重ねました…

『左伝』の訳書と概説書の紹介

とある方にリクエストを受けて、『春秋左氏伝』の訳書や概説書の手引きを作ってみることにしました。(この方の学識には及ぶべくもないのですが、何故私が…。)週一回更新を守りたいのですが常にネタ切れ気味ですので、何か良いネタがありましたら教えてくだ…

おすすめ動画:梁文道「一千零一夜」

本日は一休みして、個人的におすすめの動画をご紹介します。 それは、梁文道氏の「一千零一夜」シリーズです。Youtubeに、优酷の公式アカウントによってアップロードされています。 梁文道氏は香港出身の文人で、非常に幅広い知識を持ち、過去に数多くの論稿…

【良質講義動画】広島大学の「中国思想文化学入門」を紹介

動画 lHiCE003: 中国思想文化学入門 Twitterで上記の動画(HiCE003: 中国思想文化学入門、広島大学が公式に公開している有馬卓也先生の講義)を紹介したところ、予想外に多くの反響がありました。この動画は、先秦から漢代にかけての「天」と「命」に焦点を…

【中国思想史】【中国哲学史】無料で使える便利なサービスのリスト-オンライン篇

はじめに 前回の続きです。今回はオンライン篇、無料で使える便利なサービスのリストです。前回同様、抜けや偏りの多いことをお許しください。 ・「国学大師」 50 以上の辞書を串刺し検索できる便利なオンライン辞書。中国語だが使い方は簡単。しかし、著作…

【中国思想史】【中国哲学史】参考書目

はじめに 中国思想史、中国哲学史を専攻にしようかと考えている方向けの、参考書目を作ってみました。もともと、ある別分野の友人に頼まれて作ったもので、非常に簡単かつ粗雑なリストである上、その方の専攻を反映させたところがあるので、大きな偏りがある…