達而録

ある中国古典研究者の備忘録。毎週火曜日更新。

東大駒場パレスチナ連帯キャンプの要求書

 いま、東京大の駒場キャンパスにて、パレスチナ連帯キャンプが行われています(私も少しだけ手伝いをしています)。そのキャンプから出された要求書が以下です。

 東大特有の文脈がありながらも、他の大学に対してもある程度通用する内容であり、他の大学で活動する場合にも参考になると思います。

 文字データでの一括掲載がなさそうなので、自分のメモ用に、文書の全文をそのままここに転載しておきます。

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東京大学本部 御中
東京大学総長藤井輝夫様
東大駒場パレスチナ連帯キャンプ運営委員会
utokyo4palestine@googlegroups.com
東京大学駒場キャンパス 東大駒場パレスチナ連帯キャンプ
提出:2024年5月6日
回答期限:2024年5月15日

要求書

キャンパスプロテストの目的:

私たちはパレスチナの人々と連帯し、パレスチナでの虐殺とアパルトヘイトを続けるイスラエル、それを支える関連企業や学術機関との提携について東京大学が情報を開示し、資金引揚げ及びアカデミックボイコットを行うことを要求する。

さらに、イスラエル軍による戦争犯罪とあらゆる暴力、長きにわたる占領、植民地主義アパルトヘイトを1日でも早く終結させるため声明を発出することを求める。現在、世界中の学生が抗議行動を通じ、それぞれの大学や政府の責任を追及するという市民的・学問的責任を果たしており、私たちはこの学生たちに連帯する。

日本で生活し東京大学で学ぶ者として日本政府や東京大学の虐殺加担を追及していく。

私たちは東京大学に以下の項目を要求する。

 

1. 声明一次の内容の声明を出すこと。

東京大学は2022年3月、ロシアによるウクライナ侵攻に際し、ロシアの侵略行為を強く批判し「東京大学は、日本と世界の未来を担う世代のために、世界に開かれ、かつ差別から自由な知的探求の空間を構築することを、その使命とする」と声明を出しています*1

現在、虐殺が続くパレスチナでは子供や若者、女性も含めた民間人が多数危害を受け、危機的な状況下に置かれており、一刻も早い停戦が求められます。イスラエル軍は100万人以上の人々に対して食料や水、生活必需品や避難所のないガザ南部に避難するよう命じ、その上で南部を爆撃するなど明白な国際人道法違反を続けており、死者は日々増加しています。

しかし東大は、ロシアに対しては発出した声明を、イスラエルに対しては発出せず沈黙を続けています。これでは2022年の声明がロシアの人道犯罪を批判していると言うよりも、むしろ日本の政治権力に従属し、西側諸国に足並みを揃えるためだけの表面的なものであるとの批判も免れ得ません。このダブルスタンダードは、パレスチナの人々への人種・民族・宗教における差別であるだけでなく、ウクライナの人々と連帯した輝かしい反戦のメッセージの価値も損なっています。人道基金*2についても同様です。

 

2. 情報開示&投資引き上げーパレスチナにおけるイスラエルによる大量虐殺とアパルトヘイト、またイスラエル及びアメリカの武器製造に加担し、抑圧的な体制を支えているすべての企業への投資及び協力・連携に関する情報を開示し、説明責任を果たすこと。そして虐殺加担企業や関連企業からの資金引揚げを行い関係を断つこと。産学連携や学術協定、共同研究などの関係を含む東京大学のすべての利害関係者に対し、同じくイスラエル関連企業との関係を断つことを宣誓させ、宣誓しない場合にはこれらとの関係を断つこと。

イスラエル軍需産業との連携は大量虐殺への直接的な加担を意味し、絶対に許されることではありません。また日本においては大学よりも企業がイスラエル軍需産業と直接的な関係にある場合が多く、東京大学がこれら日本企業を含め、企業や他大学を通じて虐殺に加担している可能性が否定できません。したがって虐殺へのあらゆる加担を排除するためには、すべての情報を開示し、大学そのものだけでなく、その利害関係者に対しても虐殺加担をやめさせる必要があります。

 

3.アカデミック・ボイコットー現在進行中の大量虐殺の共犯者である、イスラエルの大学やその他学術機関との共同研究や学生間のプログラムなどを含むすべての組織間の関係を断つこと。

現在東京大学が提携を結んでいる、

との協定を直ちに破棄すること。

イスラエルの学術機関は、イスラエルによる占領、植民地主義アパルトヘイト体制をイデオロギー的・制度的・技術的に支え、パレスチナ人の基本的権利や学問の自由、教育を受ける権利の行使を妨げてきました。また、軍産学協同を通じて大学の研究が軍事利用されることを積極的に是認してきました。

イスラエルの学術機関と関係を構築することはパレスチナで長年行われてきた様々な暴力と抑圧に直接的・間接的に加担することです。

4. 学生や教員の受け入れ一日々続く侵略のなか学業を続けることが困難となったパレスチナの学生や研究者、またイスラエル国内外で反シオニズムを掲げたために制裁を受けている学生や研究者の受け入れ、支援を行うこと。

イスラエル軍パレスチナでの虐殺と同時に民間施設の意図的な破壊を繰り返しており、その中には大学などの学術機関も含まれています。すでにパレスチナのすべての大学が物理的に破壊され、パレスチナにおける学術研究は事実上停止しました。

また、イスラエルアメリカなどではシオニズムや現在進行中の虐殺に反対や抗議を行ったために学術の場から追放された学生や研究者がいます。一例として、東京大学が包括的な大学間学術交流協定を締結しているへブライ大学ではシオニズムに反対を表明した教授が停職処分を受けています。

東京大学は「世界の公共性に奉仕する大学」を理想とし、「世界に開かれ、かつ差別から自由な知的探求の空間を構築する」*3ことを使命として公表していますが、この指針に則りこれらの学生と研究者に安全な学びの場を提供してください。

さらに、アカデミック・ボイコットの対象となるイスラエルとの交換留学プログラムの下で東京大学が受け入れている学生が東京大学への完全な移籍を希望する場合には、これを認め、単位の認定などにおいてシームレスな移籍手続きを提供することを求めます。私たちの要求はユダヤ人学生・研究者の排除を目的とするものではありません。

 

5. 学生の自治・自由・安全を保証一キャンパス・プロテストに加わった全ての学生と参加者に対し、パレスチナ支援のためにとったいかなる行動に対しても、懲戒処分など一切の不利益取り扱いがなされないことを保障すること。また他大学に先駆けてロールモデルとなり、自由で開かれた大学の在り方を示すこと。学生への表現規制を行う大学との関係を断つこと。

アメリカなどでは、パレスチナ連帯の行動を行った学生に対し「反ユダヤ主義」という恣意的な曲解解釈に基づいた誹謗中傷がなされ、皆察力の導入や懲戒処分などが行われています。日本においては、大量虐殺を非難しビラの掲示や立て看板の掲出を行った学生に対し懲戒処分を示唆し、また実際に行っている大学があります。こうした大学は「『無許可』の張り紙/立て看板は禁止である」と強調しますが、実際に申請してもパレスチナ反戦の行動は許可されず、検閲が行われています。日本を代表する大学である東京大学が、研究パートナーの大学による検閲や懲戒処分に対し沈黙することは、これを容認することにほかなりません。

東京大学には、パレスチナ支援に取り組む学生に対し処分や強制排除を行わないこと、他大学にも同様の対応を求めることを要求します。また東京大学の構成員にはパレスチナの人道危機にさらなる関心をもち、大学の自由な言論空間を活かして行動することを要請します。

*1:東京大学(2022).「ウクライナ侵攻を受けた『学生・研究者の特別受入れプログラム」の実施。東京大学公式ウェブサイト,https://www.utokyo.ac.jp/focus/jalarticles/21311_00077.html

*2:2東京大学基金事務局(2022).「東京大学緊急人道支援基金」.UTokyo Foundation. https://utf.u-tokyo.ac.jp/project/pjt144

*3:東京大学(2022).「ウクライナ侵攻を受けた『学生・研究者の特別受入れプログラム」の実施。東京大学公式ウェブサイト,https://www.utokyo.ac.jp/focus/ja/artices/21311_00077.html