達而録

ある中国古典研究者が忘れたくないことを書くブログ。毎週火曜日更新。

民国

『論衡』の篇数

以前、本ブログで余嘉錫の『四庫提要弁証』を取り上げ、『後漢書』についての『弁証』の内容を確認しました。 余嘉錫『四庫提要辨證』について - 達而録 『後漢書』の来歴(1) - 達而録 『後漢書』の来歴(2) - 達而録 今回は、後漢の王充の『論衡』につ…

劉咸炘の史学講義(3)

前回の記事、劉咸炘『治史緒論』中篇の四「史旨」の続きです。 まとめると、史に載せられたことは人事である。どうして人事の律を究めつくすことができようか。これを究めたいのなら、『易』こそ重要だ。道家は史に詳しく、道家の持論である循環の律は、本当…

劉咸炘の史学講義(2)

前回に引き続き、『治史緒論』を読んでいきます。中篇の四「史旨」を見ていきましょう。 「旨」とは、章先生がいうところの「史でありながら子の意があるもの」である。史は客観に基づくが、旨を言う時に主観が入ってきてしまうのは、史としての職分を失うも…

劉咸炘の史学講義(1)

年が明けましたが、相変わらず劉咸炘を読んでいきます。今回からは、劉咸炘が史学について概論を述べている『治史緒論』を見ていくことにします。 『治史緒論』のうち、中篇「史旨」というところを読んでみたいのですが、今回はその前提として、本書の序文を…

劉咸炘の目録学講義(5)

前回に引き続き、劉咸炘『続校讐通義』の「通古今」篇を読みます。今日読むのは、この篇のまとめの部分です。 まとめると、昔は四部を並列で見ていたが、今は史部・子部を主とし、經部が上にあり、集部が下にある。天下の文は、内容で分けると三種にほかなら…

劉咸炘の目録学講義(4)

前回、劉咸炘「目録学」の部目篇を読んでいる途中でした。そして、前回扱った部分の後ろで、章学誠『校讐通義』宗劉篇、劉咸炘『続校讐通義』通古今、治四部などが引かれると書きました。 というわけで、今回はまず劉咸炘『続校讐通義』の「通古今」篇を見て…

劉咸炘の目録学講義(3)

引き続き、劉咸炘「目録学」上編から、今回は「部類」篇を読んでみます。 部類は、目録学のなかで最も重要なことで、いわゆる「辨章学術、考鏡源流」のことでさまざまな学問に関わり、最も大きなものである。この中には原理があって、それぞれの議論が集まる…

劉咸炘の目録学講義(2)

前回の続きです。今さらですが、劉咸炘の「目録学」は、以下の章立てからなっています。 弁言(前回紹介した文章) 上編 著録第一 存佚第二 真偽第三 名目第四 篇巻第五 部類第六 互著別裁第七 次第第八 題解第九 下編 版本第十 校勘第十一 格式第十二 一題…

劉咸炘の目録学講義(1)

このブログでは、たびたび劉咸炘という学者の文章を取り上げてきました。 劉咸炘『中書』三術篇(上) - 達而録 劉咸炘『中書』三術篇(下) - 達而録 劉咸炘『中書』認経論 - 達而録 今日は、劉咸炘『推十書』に収録されている「目録学」という文章の冒頭を…

劉咸炘『中書』認経論

劉咸炘『中書』の「認經論」のうち、中篇の「論教」を取り上げます。 「認經論」は、劉咸炘が経書をどのようにとらえているか整理して述べる篇で、このうち中篇は、経書と教化・教育の関係を説明しています。孔子の教えはどのようなものだったか…というとこ…

劉咸炘『中書』三術篇(下)

前回の続きです。省略を加えながら、最後の二段を読むことにしましょう。このあたりから、「ああ、劉咸炘は確かに章学誠の読者だったのだな」と思わされる内容が出てきます。 章先生之書,至精者一言,曰:「為學莫大乎知類」。劉咸炘進以一言曰:「為學莫大…

劉咸炘『中書』三術篇(上)

前回紹介した劉咸炘が書き記した文章は、『推十書』という本にまとめられています。その冒頭に入っているのが『中書』という本で、その冒頭が「三述篇」です。 これも何かの縁ですから、少しだけ劉咸炘の言葉を読み進めてみましょう。訳は私の試訳ですが、直…

章学誠と劉咸炘

最近よく取り上げている章学誠について、まだまだ読んでいきましょう。 章学誠(1738~1801)は、生前にはその学問は今一つ理解されず(というよりそもそも読者がおらず)、後になってから読者を獲得し、一躍脚光を浴びた学者です。その経緯は、井上進「六経…

章炳麟と章学誠(4)

前々回取り上げた末岡宏「章炳麟の経学に関する思想史的考察 : 春秋学を中心として」(『日本中国学会報』43、1991)の注釈の文章のうち、残りの部分を読んでみましょう。 つまり、章学誠のことを、黄侃が「春秋左氏疑義答問叙」で指摘する、六経を単なる歴…

章炳麟と章学誠(3)

今回は、前回の記事の最後に触れた章炳麟の講演原稿である「歴史之重要」を、もう少し読んでみることにしましょう。 まず、前回紹介した部分を、私の方で日本語訳しました。 経書と史書の関係はとても深く、章学誠がいう「六経皆史」というこの言葉は正しい…

章炳麟と章学誠(2)

今回は、末岡宏「章炳麟の経学に関する思想史的考察 : 春秋学を中心として」(『日本中国学会報』43、1991)を読んでみましょう。 章炳麟の弟子である黄侃が、章炳麟『春秋左氏疑義答問』の後叙で、この書に見える章炳麟の説を整理しています。そのなかに、…

章炳麟と章学誠(1)

最近、章炳麟と章学誠の関係について調べていまして、章炳麟の全集の中から、章学誠に言及する部分を探しています。 それに関連して、島田虔次『中国革命の先駆者たち』(筑摩書房、1965)を読みました。以下、内容の紹介というより、それぞれの出典をメモし…

王国維「釈理」を読む(3)

前回に引き続き、喬志航「王国維と「哲学」」(『中国哲学研究』20、2004)に導かれながら、王国維「釈理」を読み進めていきます。 ここは、ショーペンハウアーの説に則って、カントの言う「理性」を批判しながら、「理」の狭義の概念を整理していくところで…

王国維「釈理」を読む(2)

前回に引き続き、喬志航「王国維と「哲学」」(『中国哲学研究』20、2004)に導かれながら、王国維「釈理」を読み進めていきましょう。 其在西洋各國語中,則英語之Reason,與我國今日「理」字之義大略相同、而與法國語之Raison,其語源同出於拉丁語之Ratio…

王国維「釈理」を読む(1)

以前、こんな記事を書きました。 chutetsu.hateblo.jp 喬志航「王国維と「哲学」」(『中国哲学研究』20、2004)を読んでいて、王国維「釈理」の冒頭で阮元「塔性説」の話が出てきていたことを思い出しました。「釈理」は、王国維がショーペンハウアーの影響…

余嘉錫『四庫提要辨證』について

前回まで、余嘉錫(1884-1956)の『四庫提要辨證』という本を読んできました。概説の記事を書いていなかったので、簡単に紹介しておきます。 余嘉錫に関する基本的な情報(年表、目録、交友録、逸話など)は、ウェブサイト「中国近代文献学―余嘉錫の総合的研…

『後漢書』の来歴(2)

前回の続きです。『後漢書』に関して、余嘉錫『四庫提要辨證』の説を見ていきましょう。 『四庫提要辨證』史部一・後漢書一百二十卷 ①嘉錫案,『梁書』劉昭傳云「昭集後漢同異,注范曄書,世稱博悉。出爲剡令,卒官。集注後漢一百八十卷。」不言曾注司馬彪志…

『後漢書』の来歴(1)

今回は、余嘉錫『四庫提要辨證』史部一の『後漢書』の条を読んでみようと思います。余嘉錫に導かれながら、『後漢書』の複雑な来歴を整理してみようという算段です。 『四庫提要辨證』は、『四庫全書総目提要(四庫提要)』の各条に対して補訂を加えたもので…