達而録

中国学を志す学生達の備忘録。毎週火曜日更新。

2020-01-01から1年間の記事一覧

大学院生が好きな小説・五選

気分転換に、好きな小説を語るのもいいのではないかと思い立ちました。「大学院生が好きな」とかいうとんでもなく大風呂敷を広げたタイトルがついていますが、完全に私の独断と偏見によります。 基準としては、物語としての豊饒さ、エンターテインメント性に…

2020年中国関係の新著案内!

昨年末、こんな記事を書きました。 chutetsu.hateblo.jp これの2020年版を執筆しました。(一冊、2年前の本が混じっています) コンセプトは同じで、「高い質を備えながらも、初学者でも気軽に読める本」を紹介します。歴史や哲学、中国に興味のある高校生や…

ウィキペディアについての懇話会に参加してきました

先日、こんな記事を書きました。 chutetsu.hateblo.jp 記事の主旨は、専門家も積極的にWikipediaを執筆しようではないか、と提案する内容です。この記事に、既にその試みをなされている伊藤陽寿先生からコメントをいただき、イベントの紹介をしていただきま…

Wikipedia執筆録(2)

先週の続きです。Wikipedia執筆の際、迷った個所をメモしておきます。 ②出典の書き方 もう一つの悩みは、「出典を何から引っ張ってくるか」ということです。原典や正史の原文を引くか、辞書の記述を引くか、概説書・研究書の記述を引くか、何が適切なのかよ…

Wikipedia執筆録(1)

筆者が執筆・加筆したWikipediaの記事から、整理に当たって悩んだ点や、未だに悩んでいる点を紹介します。なお、どの記事も何も完成版というわけではないですし、私の編集後にまた別人が編集していることもあります。いろいろと問題を抱えていることは承知の…

Wikipediaについて

最近、それほどの頻度ではありませんが、Wikipediaを執筆しています。「Wikipediaなんて…」と思う方も多いかもしれませんが、私はそうは思いません。以下に考えを記しておきます。 検索サイトで専門用語を調べたとき、まず出てくるのはWikipediaです。無料で…

李業興と朱异の論争

最近、『北史』を眺めています。一つ、印象に残っている話を紹介します。(『魏史』でもほとんど同じ内容が載せられています。) 『北史』儒林伝上に、李業興という人の伝記が載せられています。彼は北朝の儒者の徐遵明に学んだ人です。北朝の多くの儒者は徐…

『公羊傳疏』引『孝経疏』について(3)

前回の続きです。まず、ここまで考察したことを整理しつつ、新たに気が付いたことを加えてお示しします。 ①『公羊疏』に「『孝経疏』を参照せよ」という文言がある(三例)ことから、『公羊疏』の著者は『孝経』にも義疏を書いていたことが分かる。 ②内容を…

『公羊傳疏』引『孝経疏』について(2)

前回の続きです。『公羊傳疏』に『孝経疏』という言葉が引かれる例は、三ケ所あるようです。前回紹介したものも含めて、下に掲げておきます。 ・『公羊傳』襄公二十九年疏 云「孔子曰,三皇設言,民不違,五帝畫象,世順機,三王肉刑揆漸加,應世黠巧姦偽多…

『公羊傳疏』引『孝経疏』について(1)

何気なく『公羊傳疏』を読んでいたところ、不思議な記述に出くわしました。 『公羊傳』襄公二十九年 〔傳〕閽弒吳子餘祭。閽者何。門入也。刑人也①。刑人則曷為謂之閽。刑人,非其人也。君子不近刑人。近刑人,則輕死之道也。 〔注①〕以刑為閽。古者肉刑墨、…

柳川探訪

一か月ほど前、柳川市に観光に行ってきました。折角なので写真を載せておきます。 水路が張り巡らされた水の都です。とてもきれいな場所で、福岡から一時間ほどで着きます。おすすめです!

『論語義疏』公開画像データ一覧

『論語義疏』について、オンラインで見ることができる画像を自分用にメモしておきます。ついでに、『論語義疏』に関する研究書も簡単にまとめておきました。 da.library.ryukoku.ac.jp 完本。日本で伝えられてきた『論語義疏』抄本は、影山輝國氏によれば、…

『中国語作文 その基本と上達法』の紹介

先日、Twitter上で竹内金吾・賈鳳池『中国語作文 その基本と上達法』(金星堂、1975)をおススメされて購入しました。とても勉強になる内容で、買って以来毎日読んで音読しています。 今は品切れらしく古本はやや高騰しているのですが、第17刷(2007)まで出…

慶應義塾図書館展示会「古代中世 日本人の読書」に行ってきました

先週紹介した『論語義疏』が一般公開されているということで、観てきました。 chutetsu.hateblo.jp 第32回慶應義塾図書館貴重書展示会「古代中世 日本人の読書」(@丸善・丸の内本店4階ギャラリー、今日の16:00まで)にて公開されています。今日はその感想…

慶應義塾大学蔵『論語義疏』古写本の発見について

最近、衝撃的なニュースが飛び込んできました。かの『論語義疏』の古写本の一部が発見されたというのです。 www.keio.ac.jp www.asahi.com 以下のように、既にブログで解説している方もいます。 hirodaichutetu.hatenablog.com 一部上の記事と重なるところも…

瞿同祖『中国法律与中国社会』の紹介(3)

瞿同祖『中国法律与中国社会』(中華書局、1981)、第四節「親族復讐」の翻訳の続きです。 初回は↓ chutetsu.hateblo.jp 今回はp.80~になります。 前回まで、中国における「復讐」行為に関する規定の実例を整理してきました。今回は、そのまとめの段落です…

開設二周年&50000pv御礼&近況

いつもご支援ご愛読ありがとうございます! おかげさまで、丸二年、週一回の更新を欠かさず続けることができました。たまにいただけるスターやブックマーク、コメントは大変力になっております!! 合わせて、50000pvを達成しておりました。専門的すぎる記事…

瞿同祖『中国法律与中国社会』の紹介(2)

瞿同祖『中国法律与中国社会』(中華書局、1981)、第四節「親族復讐」の翻訳の続きです。p.77~になります。 今回は、中国における「復讐」行為について、その実例や、それに対する処罰を具体的に見ながら、整理するところです。 『周礼』では、復讐に関す…

瞿同祖『中国法律与中国社会』の紹介

ここ数日、瞿同祖『中国法律与中国社会』(中華書局、1981)を眺めています。先秦期から清代、民国にかけての、中国における法律・礼制の特徴と変遷を、膨大な実例を根拠にしながら明晰に整理したものです。 もともと、新田元規氏の「中国礼法の身分的性格に…

李弘喆「世本探源―『世本』受容史研究序説」

『史林』第101巻、第5号(2018年9月)掲載の李弘喆「世本探源―『世本』受容史研究序説」を読みましたので、簡単に内容をご紹介します。 『世本』とは、上古から春秋時代にかけての王や諸侯の系譜、その周辺情報を記した本で、古くはよく資料として用いられた…

多音字の読み分け「惡」―『経典釈文』から『新華字典』まで

日頃「経書」を読む者にとって、『経典釈文』における「多音字の読み分け」というのは、否が応にも意識させられる話です。 『釈文』とは、六朝時代、陳末隋初の頃に作られた、経書の文字に発音を附した本です。そして、意味によって発音が異なる漢字には、き…

古橋紀宏『魏晋時代における礼学の研究』の紹介(2)

前回の続きです。古橋紀宏『魏晋時代における礼学の研究』(p.9~)より。 まず、加賀説で鄭玄と王粛がともに「新」に位置付けられ、段階的な発展が想定されていたことに対して、以下のように反応します。 そこで注目されるのが、王粛の立場を説明する際にし…

古橋紀宏『魏晋時代における礼学の研究』の紹介(1)

今日は、古橋紀宏『魏晋時代における礼学の研究』をご紹介します。博士論文で、たまたま近くの図書館に入っており、読むことができました。 二回分の記事で、序章を簡単にまとめてお示しします(p.11~)。 本研究の主眼は、特に礼学に関する鄭玄説・王粛説…

「禘祫」の祭祀について(2)

今回は、前回に引き続いて、「禘」と「祫」がどのように区別されてきたのか、について整理します。前回同様、池田秀三「黄侃<禮學略説>詳注稿(一)」*1に依拠しています。 repository.kulib.kyoto-u.ac.jp 「禘」と「祫」が区別される場合、その相違点は、①…

「禘祫」の祭祀について(1)

最近、礼学上の大きな問題の一つである「禘祫」の祭祀について概要を整理する機会があったので、こちらに残しておきます。前回までは部屋の扉と窓とかいうかなり細かい話をしていましたが、「禘祫」は歴代の学者が必ず言及しているといってもよいぐらいに重…

『毛詩』小雅・斯干疏・翻案

伝統的な経学において、宮室の構造について議論される際、鄭玄の唱えた「宗廟及路寢制如明堂」(「宗廟」と「路寢」の建物の制度は「明堂」と似ている)という説との関わりが常に問題になってくるようです。今回は、この問題について議論した『毛詩』小雅・…

「戸」と「牖」:礼学の議論の一例

前回の続きです。 長々と記事を書いてきましたが、次の話題の前提となる部分だけを整理しておきます。 ・「路寝」の奥の部屋の構造について(鄭玄説) ○天子・諸侯の場合:「室」(中央の部屋)と「西房」と「東房」(西側、東側の部屋)の三部屋。 ○卿大夫…

東房・室・西房(2):礼学の議論の一例

前回の続きです。ここまでの説を整理すると以下です。 鄭玄説:卿大夫以下の場合、西室・東房の二部屋。 陳祥道説:卿大夫以下も、天子諸侯と同様に、西房・室・東房の三部屋。 この説の相違について質問した萬斯同に対する、黄宗羲の答えが以下。 ・黄宗羲…

東房・室・西房(1):礼学の議論の一例

最近、宮室の構造について色々調べる機会があったので、つらつらと書き連ねていきます。ここ数回の記事は「礼」をテーマとするものが多いですが、今回もその一環で、礼学の議論とは具体的にどのようなものなのか、その一端をご紹介します。 宮室の構造につい…

『礼記』を実際に読んでみる(1)

前回、『礼記』の全体の構成を紹介しました。今回は、『礼記』の内容を少し紹介してみます。 『礼記』の内容と言っても、前回書いたように、『礼記』はさまざまな内容を含む雑記という感じの本です。まず今回のところは、その「雑駁な雰囲気」を感じていただ…