達而録

ある中国古典研究者が忘れたくないことを書くブログ。毎週火曜日更新。

『交差するパレスチナ: 新たな連帯のために』を読んで(3)

 前回に引き続き、『交差するパレスチナ: 新たな連帯のために』(在日本韓国YMCA編集、新教出版社、2023)を読みます。今回は、第4章「パレスチナと性/生の政治」(保井啓志)の内容をメモしておきます。イスラエルによる、いわゆる「ピンクウォッシング」の問題について論じる内容です。

 


 

 まず、イスラエルとSOGIをめぐる動きとその背景を、箇条書きにまとめます。

  • 2000年ごろから、イスラエル政府はLGBTの権利擁護の国際的な広報に積極的になった。
    • 2001年から「東京レズビアン&ゲイ映画祭」への後援。
    • 2013年から「東京レインボープライド」への後援。
    • 東京へのゲイ・カルチャー(ドラァグ・クラブイベントなど)の支援
  • この現象=「ホモノーマティヴ・ナショナリズム」(ホモナショナリズム
    • 米国の右派政治家などが、自国を「女性や同性愛に寛容な国」、イスラーム社会を「同性愛に嫌悪的、女性に抑圧的」とし、戦争の遂行を正当化する言説。
  • その背景=「ホモノーマティヴィティ」
    • 新自由主義の影響の中で、市場に有益である(=金になる)性的少数者が活用される一方、マイノリティの問題は公的な介入を必要としない「個人的な問題」とされ、支援が枯渇する。すると、マイノリティの運動の中に経済力による分断が新たに生まれ、性的少数者の運動も「同性婚」と「軍における同性愛者の問題」の二つに収斂されてしまう。
    • ここで「活用される」性的少数者は、白人・中流階級以上・男性など、経済的に有益な人々のみ。
    • そして、こうして活用された性的少数者が、今度はこの「ゲイ・フレンドリーさ」を守るために、保守化していく。

 こうした状況下では、アメリカ社会とイスラーム社会は以下のような二項対立でとらえられてしまいます。

  • アメリカ社会
    • 健全な異性愛社会で、同性愛者にも寛容な、進歩的な社会
  • イスラーム社会
    • 近代化に失敗したいびつな家父長制で、その偏狭さゆえに、女性や同性愛者に厳しく、非文明的で後進的な社会

 そして、これがアメリカによる侵略戦争を正当化するロジックとしてはたらいてしまいます。実際のところは、アメリカでも同性愛嫌悪によるヘイトクライムは山ほど発生しており、差別がない社会とは言えません。また、こうしたロジックがあったとしても、一方的な侵略やジェノサイドを許してよいはずがありません。

 次に、本論では、p.112-115でイスラエルにおけるLGBT運動の流れを追ったのち、パレスチナにおけるSOGIをめぐる政治について話が移ります。

 以上で説明してきた流れは、近年の日本の状況とも重なるところがあります。自分の身の回りの状況と考え合わせながら、向き合っていかなければなりません。

 


 

 以下、この論考に関わる情報を追記しておきます。

 まず、ピンクウォッシングについて、最近書かれた迫力のある記事として以下を挙げておきます。

  また、「アル・カウス」については、最近私がWikipediaの記事を立項しました。加えて、以前「Diff」にてピンクウォッシングに関わる問題を少し書いたので、宣伝しておきます。

(棋客)