光本順「クィア考古学の可能性」(『論叢クィア』第2号、2009)を読みました。一つの学問の指針を知ることができるよい論文でした。簡単にまとめておきます。
「クィア考古学」とは耳慣れない言葉かもしれませんが、第三波フェミニズムを受けてフェミニスト/ジェンダー考古学が生まれた後に、更にその不徹底な部分を再考・解体するために生まれたものだそうです。大きな方針は以下です。
③が危うい研究で慎むべき行為だということは、杉浦鈴「クィアな死者に会いに行く:前近代のジェンダー/セクシュアリティを問うための作法」(『療法としての歴史〈知〉:いまを診る』方法論懇話会編, 森話社, 2020)も参照してください。
また、『World Archeology』のクィア考古学の特集号は、以下のような構成になっていたそうです。
- 総論
- 語り・フォビック分析
:現在の考古学への異義 - 理論的研究
:従来のジェンダー考古学への批判 - 考古資料に見る同性愛者
:異性愛規範的解釈に対するクィア批評の挑戦として。例えば、従来、「抱き合っている双子の兄弟」と解釈されていた壁画が、異性愛規範に引きずられた解釈であることを明らかにする。 - 遺跡の利活用
:ストーンヘンジなどを聖地とするドルイト教信者と、考古学者・遺跡管理者の緊張関係について報告する。 - クィア・サイエンス
特に⑤は、研究倫理や研究者による研究対象の搾取の問題とも結びつくような気がします。琉球・アイヌ民族の遺骨返還問題などとも同じ文脈にあるようにも思います。
さて、光本さんは、日本考古学の学問構造を、ホモソーシャル概念を用いて分析・批判するということをなされています。具体例として、埴輪の分析について、「埴輪の特定の属性に着目する」→「男女の二区分で判定する」というのが過去の方法であったのに対し、「埴輪の個体間の属性の共有関係を見る」→「個体のジェンダー化のメカニズムを明らかにする」という方法で分析を行ったそうです。規範に寄りかからない分析の仕方を志向するわけです。
まとめとして、クィア考古学は、「非異性愛の付加」ではなく、「規範化された考古学の諸相の再考」に焦点が当てられている、と述べられています。
(棋客)