前回の続き。王応麟『困学紀聞』の版本について整理していきましょう。
ある漢籍の代表的な版本について知りたいときには、色々な調べ方がありますが、莫友芝撰、傅增湘訂補『藏園訂補邵亭知見傳本書目』を見るのは一つの方法です。とりあえず、下に抜粋しておきました。(版本学関係の専門用語が多く、私にはあまり訳せないので、訳文は無しです。)
困學紀聞二十巻
宋王應麟撰。〇弘治刊。〇萬暦刊。〇乾隆戊午祁門馬氏刊閻箋。〇乾隆壬戌金氏刊三箋。又別刊七箋。〇嘉慶中黄崗萬氏刊集註。〇道光乙酉餘姚翁氏刊集註。〇天禄後目有元慶元路儒學胡禾監刊本。〇平津館目有元刊本。張金吾云「元泰平刊本有「孫厚孫、寧孫校正」「慶元路儒學正胡禾監刊」二條。」
〔補〕〇元泰定二年慶元路儒學刊本,大版心,十一行二十四字,次行低一格,白口,左右雙闌,手寫體,字法松雪,鎸工精美。首深寧叟識二行,以手跡上版,大字佔雙行。目後有「伯厚甫」「深寧居士」墨記二方,巻末有「孫厚孫、寧孫校正」一行。此爲眞元泰定本,其他各家所蔵均正統黒口本也。此本已由商務印書館影印行世,後又収入四部叢刊三編中。〇明正統本,中版心,十行十八字,陸氏誤記爲二十字,大黒口,四周雙闌。有至治二年牟應龍序,泰定二年袁桷序及陸晉之後叙。巻末有「孫厚孫、寧孫校正」「慶元路儒學正胡禾監刊」二行。日本静嘉堂文庫蔵陸氏皕宋樓本。劉氏嘉業堂、江南圖書館各有一帙。均號爲元本,余亦蔵一帙。(以下略)
便利な時代になったもので、オンラインのデータベースで画像を誰でも簡単に確認できる版本もありますので、それらと対応させながら見ていきましょう。
- 元泰定二年慶元路儒學刊本
《四部叢刊三編》本《困學紀聞》 (圖書館) - 中國哲學書電子化計劃
おそらく、現存するものの中ではこれが最も古い本です。巻末にある「孫厚孫、寧孫校正」の一行も確かめられます(困學紀聞六 第137頁 (圖書館) - 中國哲學書電子化計劃)。
前回の記事で、「王応麟の筆致を模した題語が載せられている」という話がありましたが、上のサイトから四部叢刊三編本の冒頭を見ると、確かに載っています(困學紀聞一 第4頁 (圖書館) - 中國哲學書電子化計劃)。ただ、四庫提要は次に紹介する明正統刊本(牟應龍序・袁桷序がある本)を元本と誤って紹介しているようですね、
- 明正統本
困学紀聞. 巻之1-2,6-20 / 王応麟 [撰] - 古典籍総合データベース(一部残闕)
明正統本、早稲田のデータベースに入っているのですが、全体はないです。牟應龍序・袁桷序は、冒頭のp.3-5に確かに載っています(https://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/i05/i05_01073/i05_01073_0001/i05_01073_0001.html)。昔は元版かも、ということで重宝された本だったのでしょうが、今は上の元版がありますから、それほど見られない本なのかもしれません。
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集証本(嘉慶8年刊本)
《困學紀聞集證》 (圖書館) - 中國哲學書電子化計劃 - 集証本(嘉慶18年刊本)
校訂困学紀聞集証. 巻之1-20 / 王応麟 [撰] ; 屠継序 [ほか]較補 ; 万希槐 輯 - 古典籍総合データベース
前回紹介したように、『困学紀聞』は清代に非常によく読まれた本で、たくさんの人が注釈をつけています。それらをまとめた本にも何種類かありますので、二つ挙げておきました。
ちなみに、いまよく用いられる『困学紀聞』の標点本は、五箋集注本を更に翁元圻が編集し、注釈をつけた本がもとになっていますね。
(棋客)