達而録

中国学を志す学生達の備忘録。毎週火曜日更新。

2023年4~6月に観た映画

 最近見た映画と簡単な感想を並べておきます。東京は映画館が充実していていいですね(下二つ以外は全国でやっている映画ですが…)。一応、ネタバレがあるので注意してください。

 

ダンジョン&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り

 予告編を見て、あるあるアメリカンヒーローものかと思っていたのですが、中身はいい意味で裏切られました。余計な要素がないすっきりしたエンターテインメント映画です。登場人物のキャラクタ―が立っていて、かつよくあるバイアスに乗っかっていないところが非常にいいです。また、話の展開としては、「主人公が妻を取り戻す」という目的で話が始まるものの、ストーリーの進行とともに、この目的が構造的に解体され、全く別の結末を迎えるのがいいですね。誰にでも安心して勧められるエンタメ映画として、貴重なものだと思います。

 

RRR

 この映画を見に来る観客の多くが求めているシーンをきっちり押さえている作品だと思いました。これだけたくさんのアクション映画が溢れかえっている中で、アクションシーンに新鮮さを感じさせるのは、多分凄いことなんだろうなと思います。ただ、「バーフパリ」に比べると、ヒロインのキャラの作り込みが乏しく(というより主人公二人以外の全てのキャラが薄い気もしますが)、重厚な歴史物としては今一つな印象。この映画をもう一回見たいかというと、それならその時間で「バーフパリ」を見たいなという感じです。

 

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

 どうせマルチバースを描くのなら、全部やってしまえ…という感じの映画。マルチバースを全部やってしまうと、当然の帰結として、いまこの世界への虚無感が溢れてくるわけですが、そこがストーリーの展開と関わってくるところも面白いと思いました。ただ、これだけやりたい放題やって、結局家族愛みたいなオチになるのは若干もやもやするところでもあります。

 また、明らかな今敏作品へのオマージュがあるのも興味深いところ。一番わかりやすいのは、「(別世界の)自分が登場している映画を(この世界の)自分が見ているシーン」でしょうね。ほか、ある世界から別の世界に切れ目なく繋げていくカット割りも、今敏をかなり意識しているのではないかと思います。他の映画へのオマージュも色々ある(「レミーのおいしいレストラン」とか)ので、元ネタを探して見るのも楽しそうです。

 

after sun

 「映画館で映画を観る体験」の素晴らしさを感じた作品。この作品をPC画面で見たところで、私の場合はあまり感動できなかった気がします。映像の繋げ方や音の使い方も見事に作り込まれていて、監督の細やかなこだわりを感じる作品でもありました。今を生きるソフィがかつてカラム(父)と過ごしたバカンスを思い出すという作りの話で、今のソフィの憂鬱、トラウマ、不安、後悔が、当時のカラムのそれと重なり合いながら、幸せながらも鬱屈とした作品になっています。おすすめです。

 

老人Z

 目黒シネマで開催されていた「今敏生誕60周年特集」で観た映画。一九九一年。今敏は美術設定を担当。超高齢化社会の中で、全自動で介護をしてくれるロボット(そのロボットの中で老人は生活することになる)ができたら……という話です。重いテーマながら、テンポよくコミカルなタッチで描かれています。それぞれのキャラクターの動きに納得感があるのもいいですね。

 

MEMORIES

 大友克洋が総監督で、三作品のオムニバス。一九九五年。これも「今敏生誕60周年特集」で観た映画です。好き嫌いは置くとして、ほぼ全て手書きの原画を使ってアナログにアニメを作っていた時代に、とにかくお金と手間と人手を最大級にかけて作った作品という印象を受けました。アニメの歴史には全然詳しくないのですが、こういうアニメを作れる日はもう二度と来ないのだろう……と勝手に感じたりします。

 一作目が「彼女の想いで」、今敏が脚本を担当。三作品の中で、これが圧倒的に面白いです。随所に今敏らしい演出が見える一作。本作ではホログラムという舞台装置を使って現実と虚構を行き来しますが、ここから後の今敏作品への展開(記憶、夢、トラウマ、妄想など)が窺えるところです。また、話のオチも非常によかったです。ハインツが普通に救われて宇宙船で脱出してしまうと、取り残されるミゲルに焦点が当たりすぎて面白くないし、かといってハインツが宮殿の中で死んでしまうと、あの素晴らしいトラウマとその決別のシーンが映えない感じがします。話の全体のバランスを取りつつ、様々な解釈の可能性を残したいいエンディングだったと思います。

 二作目が「最臭兵器」。テンポの良いブラックコメディ。とんでもない惨劇をバカバカしいストーリーで描くギャップがよいです。

 三作目が「大砲の街」。大砲の製造と発射に全てが費やされるディストピアな街の日常風景が淡々と描かれる話。ストーリーは特になく、面白いわけではないですが、手書きアニメで20分をワンカット風につないで制作するのは想像を絶します。とにかく絵がすごい、でもそれだけ、という作品。

(棋客)