秋と言いながら、急に暑くなる日があって困りますね。とはいえ大分涼しくなってきたので、たまに散歩に出かけて講演で本を読んだりしています。最近読んだ本の一部を簡単にご紹介。
- 中村一成『ウトロ ここで生き、ここで死ぬ』
戦前から朝鮮人が多く在住していた宇治市のウトロ地区。行政や周辺住民による差別を受け続けた。水道さえなかなか引かれなかった。居住権をめぐって最高裁で敗訴するも、連帯の輪の中で強制執行の一歩手前で堪え続け、完全に満足行くものではないとはいえ、行政側の譲歩を引き出した。
裁判で決着がつけば終わりではなく、その先にも色々な闘い方があるということを学びました。また、日帝による加害の上に更に加害を重ねてしまう繰り返しに恥ずかしさを覚えます。 - 高島鈴『布団の中から蜂起せよ: アナーカ・フェミニズムのための断章』
以前、ブログで触れたことがあります→ジュディス・バトラー『ジェンダー・トラブル:フェミニズムとアイデンティティの攪乱』(2) - 達而録
改めて読み返してみましたが、アナキズム、そしてクィアなコミュニティの連帯の在り方、闘いの指針が示される本だと思いました。色々な人に届いてほしい本です。 - 伊藤計劃『ハーモニー』
よく伊藤計劃と並べられる作家が円城塔で、円城塔『文字渦』についてはブログに書いたことがあります→中国学と円城塔『文字渦』(上) - 達而録 この作品を読んで、伊藤計劃と円城塔の対比は興味深いものがあると改めて感じました。円城塔の場合は、作家自身の知識や空想力を最大限活かすためのおもちゃ箱としてのSF小説というイメージです。一方、伊藤計劃の場合、ディストピア世界を描くことで現代社会を二重写しにし、そこへの批判の描く舞台装置としてのSF小説というイメージです。いま、ここの世界とは別の世界を描くSFの魅力の両端がここにあるように思います。 - 小林昌樹『調べる技術: 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス』
タイトルから想像されるよりも現場の司書さん向けの本ですが、調べ方のアイデアを色々と知ることが出来て面白かったです。また、日本のレファレンスサービス自体の歴史も語られていて、考えさせられるものがありました。レファレンスサービスは社会の知を支える重要な役目であると思いますが、司書軽視・レファレンス部門軽視の傾向がより強まっている現代、専門知の在り方も問われているところだと思います。 - カイラ・シュラー『ホワイト・フェミニズムを解体する――インターセクショナル・フェミニズムによる対抗史』(飯野由里子監修・川副智子訳)
いま読んでいるところで、三分の一ほどしか読めていません。中流階級以上の白人女性が主要な担い手として語られてきたフェミニズムの歴史をとらえ直す本です。運動のごく初期から、ホワイト・フェミニズムに批判的なインターセクショナルな考え方を持つ人々がいたこと、その歴史の力強さを思うと希望が生まれます。
(棋客)