達而録

中国学を志す学生達の備忘録。毎週火曜日更新。

2020年中国関係の新著案内!

 昨年末、こんな記事を書きました。

chutetsu.hateblo.jp

 

 これの2020年版を執筆しました。(一冊、2年前の本が混じっています)

 コンセプトは同じで、「高い質を備えながらも、初学者でも気軽に読める本」を紹介します。歴史や哲学、中国に興味のある高校生や大学生のみなさま、少し違う世界に目を向けてみたい社会人のみなさま。外出しにくいこのご時世、家で読書なんてのもいいのではないでしょうか!

 

神塚淑子『道教思想10講』(岩波新書、2020)

 研究者の間では、道教の全体像は捉えにくいということがよく言われる。実際、道教という言葉が含む内容は幅広く多様である。道教の経典を見ても、哲学的・教理学的なものから種々の民間信仰的なものに至るまで多彩であり、儒教に近い内容のものもあれば、仏教とよく似た内容のものもある。さまざまな性格が混在していて、一体どこに道教の中心があるのか分からなあくなりそうなこともある。しかし、多様な要素を包み込みつつも、一つのまとまりとして認識されて、道教は存在している。その道教について、思想面に焦点を当てて、そのエッセンスを分かりやすく伝えることが、この講義の狙いである。(p.2)

 難解な道教思想を長年専門に研究されてきた著者が、分かりやすい語り口で書いた道教の入門書。

 中国思想の概説書などでは、道教思想は必ず登場するとはいえ、さらっとした説明で済まされていることが多く、なんだかよく分からないまま等閑にしてしまう、なんてこともあるかと思います(筆者です)。

 講義形式でテーマごとに整理された本シリーズは非常に読みやすく、全く予備知識のない方でも手軽に読むことができます。広くアジア圏の思想に興味のある方、また中国の歴史に興味のある方におすすめいたします。

 

金文京『三国志の世界』(講談社学術文庫、2020)

 二〇〇五年の本が文庫になって再版されたもので、一部修正も加えられています。この「中国の歴史」シリーズは粒ぞろいで、日本で出版されたのちにすぐさま中国語訳が中国で発売されました。近年の中国歴史物のシリーズの中で、最も成功したものと言ってよいのではないでしょうか。川本芳明『中華の崩壊と拡大―魏晋南北朝』も好きでよく読んでいます。

 本書の魅力は、日本人に馴染みの深い『三国志演義』と、史実の上での三国志とを比較しながら、事実を探求する面白さと、人が物語を紡ぎだす営みの力強さが描かれていることです。また、他の三国志本に比較して、文化面の発展や変化(儒学、文学、仏教、民衆の風俗など)がかなり手厚く触れられているのも、本書の特徴と言えます。

 誰でも楽しく読める本です。おすすめ!

 

武田時昌『術数学の思考―交差する科学と占術』(臨川書店、2018)

 術数学とは、自然科学の諸分野と易を中核とする占術とが複合した中国に特有の学問分野である。科学と占術は、アウトプットの形式、運用の目的は異なっている。しかし、理論の組み立て方は、老子や易の数理や陰陽五行説を共通の基盤とし、定式的な自然把握と技術操作的な側面において、両者は類縁関係にある。…占星術錬金術や伝統医療を見ればわかるように、自然探求の学問が思想、宗教と占術の境界領域に自生することは、中国に限ったことではない。今日のように科学と迷信、俗信をはっきりと峻別していたわけではなく、サイエンスの域を逸脱した言説も数多く存在するが、数理的思考や博物学的考察を発揮する場がそこにはあった。(p.18)

 世界のどの地域でも、かつては科学と迷信・魔術がきっちり分化せず、両者が渾然一体となりながら、世界の成り立ちを説明しようという営みが発展してきました。中国の場合、『易』と陰陽五行説を主軸にしながら、古くから高度な数学、暦法天文学、音律などの研究が進んだ一方、災異説や未来予測の讖緯思想も発達しました。

 この「術数学」研究の第一人者である氏による、待望の解説書が本書です。

 近代科学の合理主義的立場から眺めることによる最も厄介な弊害は、今日の科学的真理を基準として、非西洋型の思考様式に非科学、不合理のレッテルを貼ってしまうことである。中国科学の基礎理論や説明原理は易象数や陰陽五行説に依拠するが、それらは中国科学の迷信性を証明するものとして徹底的に糾弾される。古代ギリシャ四元素説が、自然哲学の根本原理として今でも広く認知されているのとは、雲泥の差である。(p.10)

 中国に限らず、広く学問史・科学史に興味のある方に推薦いたします。

 

川原秀城編『漢学とは何か―漢唐および清中後期の学術世界』(勉誠出版、2020)

第一部 両漢の学術
 今文・古文(川原秀城)
 劉歆の学問(井ノ口哲也)
 『洪範五行伝』の発展と変容(平澤歩)
 前漢経学者の天文占知識(田中良明)

第二部 六朝・唐の漢学
 鄭玄と王粛(古橋紀宏)
 北朝の学問と徐遵明(池田恭哉)
 明堂に見る伝統と革新─南北朝における漢学(南澤良彦)

第三部 清朝の漢学
 清朝考証学と『論語』(木下鉄矢
 清代漢学者の経書解釈法(水上雅晴)
 乾隆・嘉慶期における叢書の編纂と出版についての考察(陳捷)
 嘉慶期の西学研究―徐朝俊による通俗化と実用化(新居洋子)

第四部 総論:漢学とは何か
 清朝考証学における意味論分析の数学的原理と満洲語文献への応用―データ・サイエンスとしての漢学(渡辺純成)
 漢学は科学か?─近代中国における漢学と宋学の対立軸について(志野好伸)

  東西の研究者を揃え、各々の角度による「漢学」に関する論考を集めた本。内容は人それぞれですが、学問上、解釈学上の事柄に焦点を当てるものから、現実政治との絡みを考察するもの、実際の学問の伝授や指導を解き明かすものなど、バラエティ豊かな内容が揃っています。

 漢学という古臭い(?)テーマについて、現在の日本の学界ではどのような角度から研究するのが主流なのだろうか、ということを知りたい方におすすめです。

 

 みなさま、ぜひお気軽に手に取って読んでみてください!

(棋客)