達而録

ある中国古典研究者が忘れたくないことを書くブログ。毎週火曜日更新。

「タイマン森本」が好きすぎるという話

 今日は、私が好きなお笑いコンテンツの「タイマン森本」の好きな回について語ってみたい。

 「タイマン森本」とは、「トンツカタン」というお笑いトリオグループの森本さんが、他のお笑い芸人を一人ゲストに呼んで、その人に百回ツッコミを入れたら終わり、というシンプルな企画だ。ゲスト側がしっかりネタを作ってくる場合もあれば、普通のトークで勝負する場合もあるなど、ゲストによって雰囲気は全く異なる。

 テレビでお笑いを受容して育った私としては、芸人に素直に笑って嫌なことを忘れることができた楽しい経験がたくさんありながらも、同時に、冷笑・嘲笑的な手法、知らない人を置いてきぼりにしたままフォローのない内輪ネタ、また女性蔑視・同性愛蔑視を使ったホモソーシャルな手法のお笑いに居心地の悪くなる経験もしてきた。同級生たちとお笑いの話で盛り上がることもあれば、そのトキシックな手法を真似する同級生たちの言動に嫌な思いをすることもあった。好きなネタもたくさんあるが、無警戒でだらっと観れるわけでもない。お笑いに対しては、好きとも嫌いとも言い切れない複雑な感情を持っている。

 ただ、タイマン森本はそういう要素が比較的少なくて、またゲストも森本さんも「無理をしている」感じがなくて(その「無理してなさ」を醸すのがプロの技だけど)、しんどい時でもぼーっと観れるコンテンツとしてほどよい。元気な時でも疲れている時でも、脳のリソースを食わずに楽しめるコンテンツは本当に貴重だと思う。レヴァンの九条ジョーの回のアフタートークで、一話完結のアニメのように楽しめるという話があったけど、まさにそんな感じだと思う。

 以下、「タイマン森本」の中から、何度も繰り返し視聴しているお気に入り回を厳選して、紹介したい。

 この回は、森本さんが、きょんちぃさんが普通にメイク動画を撮るのを受け入れて、時折メイク自体への質問を挟みつつ、普通に話を引き出していくのがめっちゃいい(編集でメイク用品の字幕が入れてあるのもいい)。ここで「なんでメイクすんねん」「はよ終わらせろ」みたいな、相手のやりたいことを全否定するツッコミを入れないのが森本さんの好きなところだ。

 あと、きょんちぃ「鼻高いね、整形?」→森本「そんなわけあるか!」の後に、「この顔でいの一番鼻いかないよ」と被せて入れたツッコミも好き。これが「そんなわけあるか!」で終わると、整形自体を否定しているかのようなツッコミになるわけだけど、その後に「この顔で最初に鼻いかないよ」とフォローすることで、自分の場合はまず鼻を整形しないよ、という文脈に回収することができる。

 森本さんがすごいのは、こういうフォローの言葉自体が、また一つの笑いになっているところ。ここを「いや、別に整形してもいいんだけどね」とそのままフォローしても別に良いのだけど、ツッコミのフレーズとしてフォローすることでリズムが崩れないし、「あ、いまフォローしたな」というノイズになることもない。

 この回では、愛さんが真っ白くて喋らない謎のキャラクターとして役に入って登場する。これに対して、「なんか喋れよ」とか「真っ白すぎるだろ」みたいな、キャラクターの設定自体を尊重しないツッコミを、森本さんはすぐには言わない。まずこれが好きなところで、そのキャラとしての愛らしさをうまく表現しながらツッコミを入れていくのがとても良い(「Fall Guys出てました?」とか)。

 でも完全にスルーするわけでもなくて、たとえば「壁と同化しちゃう」という別の要素が出てきたところで全身真っ白なことをツッコミに使う。また、別のキャラクターに変わった愛さんが普通に喋った時にツッコミを入れる。キャラ自体を否定しかねないツッコミはすぐに消費せず、いいタイミングまで取っておく感じが好きだ(しかもそれを自分で粒立てずさらっとやっているのがいい)。

 中野さんが、森本さんに「今日、キスまで行けたらなと思って」と言い、森本さんが「場合によっちゃあね」と受け止めて始まる。その後もときおりキスと関連するボケが入るのだが、キスに向かう二人という設定は崩さないままツッコミを入れていくのがいい。「男同士で?」みたいなホモフォビックなツッコミがないのも観ていて安心できる。ラストもよくできてて、即興とは思えない仕上がり。

 全体的に、むしろ中野さんの3歳児的な「かわいさ」が際立つ回になっているのも好きなところ。森本さんが「きゃわいい」「ぎゃんかわ」だけの合いの手で成立させる時間もいい。

 「本気で好き」というボケ(本気?)の一本で最後まで走り切ってしまう爽快感がいい。あんりさんが、森本さんの良いところを細かに挙げて褒めまくるだけで、笑いになっていくのが新鮮な感覚。あれ、これで笑えるんだって不思議に思う。フローリングの地べたですき屋を食う二人の恋愛リアリティショーって、需要あるんだなと思った。

 この回は、「営業室の控え室」というコントの設定が秀逸で、ここから自然な流れでゴージャスさんが自分のネタをいくつか見せていく。最後までその設定を守り切って終わるのが綺麗な回。もちろん森本さんは、その設定自体を否定するツッコミはせず、その状況になりきった相手に合わせたツッコミを入れていく。森本さんが、ピン芸人の既存のネタに合わせて、リズムを壊さないようにしながらツッコミを添えていくのも好きなところだ。

 また、くじ引きでネタをやっていっているのに、結果的に一番いい流れで終わっていて、最後まで盛り下がることなく進むのがすごい。

 永野さんの訴えをひたすら森本さんが聴く回。森本さんを「多様性代表みたいな顔」と言ったり、タイマン森本のスタッフを「革命起こそうとしている」と言ったり、何となく本質を衝いていると思わせる言葉が出てくるのが楽しいし、この二人ならではの場所になっていると思う。

 森本さんが「あんた寂しいんだろ」と言ったところは、永野さんのスタンスに対する正解の言葉だと勝手に思っている。

 きょんちいさん・信子さんの回もそうだが、相手のキャラや人としてのあり方を否定しないという森本さんのスタイルが、ギャルのマインドととても相性がいいと感じる。他の番組だと、「ギャル」というキャラだけで似た芸人として出ていることが多いと感じるけど、タイマン森本だとそれぞれのキャラの違いが如実に分かるのがいい。それは森本さんが相手を尊重したツッコミをしているからだと思う。

 「能書きブス」という発言についてアフタートークで深堀りされたところもなかなか面白くて、多様性と「人を傷つけるかもしれないこと」についての話があったのも嬉しかった。

 タイマン森本というコンテンツに対して「供給が多すぎて森本さんを追っていたら人生が終わっている」「面白いけど見終わったあと何も残らない」など、(森本さん好きには)刺さる言葉が多い回。森本さんの過去のツッコミを見返して疑問を呈するところがめっちゃ面白かった。冷静に考えたらおかしなツッコミが山ほどあると思うので、これもまたやってほしい。

 

 以下、力尽きて詳しく感想を書けなかったけど、好きな回を置いておく。 

 全体として、明るい回もあれば、毒の多い回もある。別にキラキラしてて前向きだからいいとか、そういうわけでもなくて、とにかくストレスなく観れるのがいい。普通のトークベースの回でも、伏線を展開して(というか伏線だったということにして)文脈を作り上げていくのがプロの技だと思う。

 「ポリコレでお笑いはつまらなくなる」みたいな風潮があるが、タイマン森本を観てると、それは嘘だと思わせてくれる。これからも頑張ってください。

 ↓最近こういう連載を書かれているそうです。

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(棋客)