達而録

中国学を志す学生達の備忘録。毎週火曜日更新。

第16回関西クィア映画祭(1)

 今年も関西クィア映画祭に参加してきましたので、しばらくその感想を書いていこうと思います。

kansai-qff.org

 ちなみに、去年参加したときの記事が以下です。

 今年は京都会場に三日間参加する予定でしたが、少し体調を崩してしまい、土日のみの参加になりました(特に「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」と「老ナルキソス」を楽しみにしていたので、痛恨でした……)。結局観た映画は、国内コンペ、「私たちの場所」、海外短編集、「深夜高速」、「ガール・ピクチャー」です。

 今日から少しずつ感想を書いていきます。このブログの更新は週に一度ですので、感想を書き終わるまでに一か月ぐらいかかりそうです。今回は、インド映画の「私たちの場所」の感想を書きます。

kansai-qff.org

 インド。トランスジェンダー女性の二人が主人公。

 トランスジェンダー差別の現実。内見先でことごとく難色を示され、引っ越し先が決まらない。トイレから迫害される。外を一人で歩けない。二人だけでは飲食店にも入れてもらえない。街角で浴びる言葉の暴力の数々。元配偶者に家を特定されて襲撃され、大怪我を負う。警察は取り合わない。まともな人に会ったかと思いきや、面白おかしくネタにされるだけ。好意的に見える取材かと思いきや、ろくな記事を書かれない。そしてそこに交差するカースト差別。

 一発逆転の解決なんて有り得ない。突然社会が変わることはない。数少ないあたたかな支援者たちと、生き抜いていくだけで精一杯。こんな社会にどう抵抗し、居場所を作っていけばよいのか。

 ラスト、主人公の二人は共闘仲間を得て、仲間たちと広い部屋を借りてシェアハウスを始める。ここが今後の闘いの拠点になる。

 といった内容です。

 

 トランスジェンダーが生きていくに当たって、現代社会が課してくるさまざまな困難が、丁寧に細やかに描かれています。そしてそれと同時に、抵抗と連帯の在り方が、かすかに、ゆるやかに、しかし力強く描かれています。

 たとえば、主人公の一人のもとに、長らく会っていなかったらしい兄と妹が、祖母の体調の急変を知らせに訪れるシーン。兄は主人公と会おうとせず、妹が祖母を見舞ってほしいと伝えに来ます。その後、何かを言いたげな妹に、主人公は分かっているよ、と一言。妹は謝りながら主人公に抱きつきます。主人公は出発前、長い髪を隠し、服を変え、男性らしい装いをします。祖母は、現在の主人公の姿を知らないのでしょう。

 また、主人公二人の関係性や、助けてくれる人々との関係性が明示されないのがいいですね。義にしたがって行動するということ、知恵を持ち寄って各々ができることをするということから出発する力強い連帯のあり方が示されているように感じました。

 

 ちなみに制作グループの「エクタラ・コレクティブ」については、以下にインタビュー記事がありました。

2022.tiff-jp.net

 総じて、本当に素晴らしい作品だと思いました。また観たいです。

 国内コンペ部門の直後にこの作品を持ってきたのは、国内コンペにトランスジェンダーを扱った作品が少なかったからかな、と思ったりもしました。

(棋客)