以前も書きましたが、訳を参照する際には、それがどのような方針で訳されているかということを頭に入れた上で利用する必要があります。例えば経書には、大きく古注(漢代~唐代)と新注(朱子学の解釈)の二種の注釈があり、現代の翻訳もどちらに依拠するかによって大きく変わってきます。また、過去の解釈に依拠せずに独自の訳を追求している場合は、「古典の読解の上では」少し役に立ちにくいということも往々にしてあります。(漢文の書き手は、概ね伝統的解釈を踏まえて文章を作っており、我々が彼らの文章を読む際には、その「伝統的解釈」を理解しておかねばならないため。)
- 『易』: 本田済(朝日出版社『中国古典選』、1966) :訳書としてだけでなく、『易』の概説書・解説書としても有用。この訳を含め、吉川幸次郎監修『中国古典選』シリーズは使いやすい。
- 『書』: 尾崎雄二郎(筑摩書房、1969)、吉川幸次郎(筑摩書房、1970)1・2・3 :尚書の経文は特に難読で、訓読が必要な場合、先人のものを参考にしないとなかなか作りにくい。尾崎訳は経文の訓読と訳、吉川訳は『尚書正義』の全訳。
- 『詩』: 吉川幸次郎(岩波書店、1958)、高田真治(集英社、漢詩大系所収、1968) 上・下、ほか目加田訳、加納訳など :吉川訳は国風のみ。もともと翻訳しにくいという事情もあり、全訳決定版と言えるものは少ない。新釈漢文大系(明治書院)のものは、民俗学的観点から独自の訳を追求したもので、他の漢文を読解する際には使いにくい。概説書としては小南一郎『『詩経』 : 歌の原始』 (岩波書店)が優れている。
- 『周禮』:本田二郎(秀英出版、1977)上・下 :鄭玄注を踏まえながら作られており、参考になるところが多い。
- 『儀禮』: 池田末利(東海大学出版会、1973)1・2・3 :図もあって使いやすい。他、士冠禮、士昏禮の部分しかないが、賈公彦疏を全訳した蜂屋邦夫編『儀禮士冠疏』『儀禮士昏疏』も質が高い。
- 『禮記』: 市原享吉など(集英社、全釈漢文体系所収、1976) 1・2・3 :朱子学によって取り出された二篇のみの訳注としては、島田虔二『大学・中庸』(朝日出版社『中国古典選』1966)が優れている。
- 『春秋左氏傳』:小倉芳彦(岩波文庫、1988) :元が歴史書なので読み物としても面白い。※『左傳』の訳書については、以前記事にして整理しました。
- 『春秋公羊伝』: 岩本憲司(汲古書院、1993) :何休注を含めた全訳。岩本憲司『春秋学用語集』シリーズに訂正が記されている場合があり、合わせて参考にするとよい。
- 『春秋穀梁伝』: 岩本憲司(汲古書院、1988) :范寧注を含めた全訳。同じく『春秋学用語集』シリーズに訂正あり。
- 『論語』: 吉川幸次郎(『中国古典選』朝日新聞社、1962) :論語の訳書は数え切れない程あるが、最も推薦されることの多いのはこの本。『論語』の訳書については、以前記事にして整理しました。
- 『孟子』: 金谷治(『中国古典選』朝日新聞社、1966) :孟子の訳も「決定版」となると難しい。『孟子』の訳書については、以前記事にして整理しました。