達而録

ある中国古典研究者が忘れたくないことを書くブログ。毎週火曜日更新。

小説・漫画

時が経つのはあっという間?

■もう10月も終わる 2025年も終わりに近づいている。よく「時間が過ぎるのがあっという間」というが、これって「5年前の出来事が昨日のように感じる」ことを指すのか、それとも「先月の出来事が随分昔のことのように感じる」ことを指すのか、どっちなんだろう…

地面師、十角館、文字遊戯とか

最近見たコンテンツの感想を書きます。ネタバレが紛れているので気を付けてください。 ◆地面師たち(Netflix) 画力がすごくて、ついつい一気見してしまったので、本作に魅力があることは身をもってよく分かった。演技も見応えがあったと思う。ただ、全体的…

高橋和巳『邪宗門』(4)――ウーマン・リブの視点から

高橋和巳『邪宗門』は1965~1966年に連載・出版された作品である。高橋和巳というと全共闘・学生運動とのつながりが強調されるが、これは女性解放運動が本格化していく時代とも重なっている。第二派フェミニズムの契機の一つとされるベティ・フリーダン『新…

高橋和巳『邪宗門』(3)――戦場の論理

ブルーハーツの『月の爆撃機』は、街に爆弾を落としに向かうパイロットと、標的にされた街で逃げ惑う市民の視点を切り替えつつ、戦場の絶望を歌う名曲である(以前記事に書いたことがある:反戦歌として「リンダリンダ」を読む - 達而録)。 『月の爆撃機』…

高橋和巳『邪宗門』(2)――祈りの言葉

左派系のデモでよく用いられるスローガンに、「すべての人が自由になるまで、私たち誰も自由ではない」や「一人でも自由でない人がいるなら、私も自由ではない」、また「一人の人への加害は、全員への加害だ」といったものがある。たとえばパレスチナ連帯の…

高橋和巳『邪宗門』(1)――左派と宗教

最近、友達に勧められて高橋和巳『邪宗門』を読んだ。『邪宗門』は、1900年頃から1945年までに存在した「ひのもと救霊会」という架空の宗教教団が、始まってから終わるまでを群像劇風に描いた作品である。フィクションではあるが、戦前から戦後にかけての史…

日記(2025.4.29-2025.5.10)

2025.4.29 一か月前ぐらいから唐突にブログに日記の更新を交えるようになったけど、必ずしもその日の出来事をその日に書いているわけではない。大体数日分でまとめて書いてる。だからどうってことは無いんだけど、よく書いててマメだねって思う人がいたら、…

「名前の無い関係性」としてのみわと冴子~たみふる『付き合ってあげてもいいかな』

色々な作品を批評していくシリーズ。今回は、たみふる『付き合ってあげてもいいかな』という、最近勧められて読んだ漫画について書いてみる。一部ネタバレを含むので、未読の方はお気をつけください。なお、私が批評記事を書く時の前提について、前の記事に…

早尾貴紀「『鋼の錬金術師』から読み解く国家と民族」

今回は、『ユリイカ』の『鋼の錬金術師』完結記念特集(2010年12月号)より、早尾貴紀「『鋼の錬金術師』から読み解く国家と民族」を取り上げる。 私は読んだ漫画の数でいうと同世代の人と比べてかなり少ない。自分が読んだことのある「超人気作」は数少なく…

この灯は、消しちゃあいけねえ~岡田索雲『ようきなやつら』

先日、岡田索雲『ある人』の感想を書いた(しびれるような世界を求めて~岡田索雲『ある人』 - 達而録)。単行本の『ようきなやつら』も買って読んだので、今日はこの本について考えたことを書いていきたい。短編集で、『東京鎖鎌』『忍耐サトリくん』『川血…

しびれるような世界を求めて~岡田索雲『ある人』

前回の記事で少し触れた「ある人 / ある人 - 岡田索雲 | webアクション」を、何度も読み返して繰り返し感銘を受けている。多くの人に知って欲しい漫画家だと思ったので、詳しく感想を書いていく。 最初にこの作品の前半を読んだ段階では、「突然誰かとぶつか…

パンセクシュアルを名乗ること:文献・リンク集

パンセクシュアルを名乗ること:前提 パンセクシュアルを名乗ること:過去 パンセクシュアルを名乗ること:未来 パンセクシュアルを名乗ること:文献・リンク集(今回) さて、昨日まで連続で更新してきた記事も、最初はいつもの記事のように、他人の文章を…

文フリで買った本④―『夕炎の人』

文フリで買った本を紹介するシリーズの続きです。今回は、星槎渡河さんの『夕炎の人』という小説を取り上げます。Twitter経由で昔から知り合いだった方の本ということで、とても楽しみにしていました。 領主の屋敷の庭師であるセッケムは、最近あることに悩…

読書の秋に読んだ本

秋と言いながら、急に暑くなる日があって困りますね。とはいえ大分涼しくなってきたので、たまに散歩に出かけて講演で本を読んだりしています。最近読んだ本の一部を簡単にご紹介。 中村一成『ウトロ ここで生き、ここで死ぬ』戦前から朝鮮人が多く在住して…

『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー 』

『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』(早川書房、2018)を読みました。SF作家であり、翻訳家として中国SF作品の英語圏への普及に力を尽くしてきたケン・リュウによって集められたアンソロジーの日本語版です。 どれもSFの魅力がこれでもかというほど…

梁鴻『中国はここにある』

梁鴻『中国はここにある』(鈴木将久・河村昌子・杉村安幾子訳、みすず書房、2018)という本を読みました。先日、たまたま著者の方とお会いする機会があり、この本を紹介していただきました。 近代化の矛盾に苦しむ農村に、現代中国の姿を浮かび上がらせ、大…

「長嘯」とは?―中島敦『山月記』の漢詩の意味

今回は、齋藤希史『漢文スタイル』(羽鳥書店、2010)の第七章「花に嘯く」に導かれながら、「長嘯」という言葉と中島敦『山月記』の漢詩について考えてみます。 前回、「嘯」と「長嘯」の意味について、斎藤本と青木正兒「「嘯」の歴史と意義の変遷」(『中…

大学院生が好きな小説・五選

気分転換に、好きな小説を語るのもいいのではないかと思い立ちました。「大学院生が好きな」とかいうとんでもなく大風呂敷を広げたタイトルがついていますが、完全に私の独断と偏見によります。 基準としては、物語としての豊饒さ、エンターテインメント性に…

中国学と円城塔『文字渦』(下)

前回はこちら はじめに 『文字渦』について引き続き語ってみます。 少し内容に踏み込んで書くとは言ったものの、短編集でありながらそれぞれが緩やかに関連を持ち大きな世界を作っているこの作品自体の枠組みの話は、私には手に余る代物です。今後の人生で何…

中国学と円城塔『文字渦』(上)

中国思想をもっと身近に 伝えることの難しさ 中国学の面白さを、一般の方々にどう伝えるのか? ―言い換えれば、中国学の魅力を如何に発信するか― これは長きに渡って、多くの研究者が苦悩してきた問題ではないでしょうか。これはもちろん、そんなことを考え…