達而録

ある中国古典研究者が忘れたくないことを書くブログ。毎週火曜日更新。

「タイマン森本」が好きすぎるという話(続)~ダウ90000とこたけ正義感を添えて~

 先日、タイマン森本というお笑いコンテンツについて感想を書いた。相変わらず毎日視聴しているので、今日もまた感想を書いていきたい。

chutetsu.hateblo.jp

タイマン森本の感想

 繰り返し「タイマン森本」を視聴していると、相手を人間として尊重したツッコミを常に試み続ける森本さんの技術に感服する。また、コンテンツとして「見れる」ものにするために、うまく誘導したり、制したりするツッコミがあることにも気が付く。森本さんがツッコミについて考えていることについては、最近コラムが出ていて、これを一緒に読むとより楽しめるのでおすすめ。→ツッコミのお作法 | 連載 | ダ・ヴィンチWeb

 ここで改めて、「タイマン森本」の魅力について考えてみると、やはり「100回ツッコまれるまで出られない部屋」という設定が秀逸だと思う。これは時間制限ではなくツッコミ数の制限なので、時間に焦らされることはなく、ボケを思いつかない時にはゆっくりやり直せばよい。森本さんの側も、いきなり一撃でクリティカルを衝いて笑いを取るのではなく、いいツッコミは後に取っておくとか、きつめの響きがあるツッコミは二人の関係性を示した後に使うとか、そういう方法を取れる。

 類似コンテンツのノブロックTVの「100ボケ100ツッコミ」と比べてみると、ノブロックではタイムを計測し、各芸人のタイムが一覧にされる。またドッキリとして笑わせるターゲットも用意され、その様子を眺めるプロデューサーも用意される。ノブロックは、場面設定の分かりやすさ、ウケているかどうかの基準、タイムレースという競争要素、ドッキリ要素、神の視点で評価するプロデューサーなど、多くの人に刺さりやすい要素が掛け合わさっていると言える。

 一方、「タイマン森本」の場合、設定上は二人きりの部屋ということだから、とにかく森本相手に突っ込んでもらうことが目的で、必ずしもその場のウケにとらわれすぎなくてよい、という前提が視聴者には共有されている。それを面白いかと思うかどうか、笑えるかどうかは見た人に委ねられている。ノブロックのノリでは、面白いかどうかの判断すらプロデューサーに委ねられているところがあるが、「タイマン森本」ではそうではない。

 こうして考えると、ノブロックのように短時間で手ごろに分かりやすく笑わせる、消費的な・テレビ的なお笑いが相変わらず幅を利かせる中で、そうではない、オルタナティブな舞台設定をしてくれるところが「タイマン森本」の魅力なのだろう(そしてその舞台設定の中で、ほどよい時間になるよう、見やすいように編集するスタッフの腕も光っていると思う)。

 

 以下、最近見た回について感想を書いていく。

  • 【タイマン】レイザーラモンHG VS トンツカタン森本
    一時代を築くコンテンツを作った人はさすがに違うと思わせる内容だった。公開直後、HGの腰振りが性的コンテンツとしてガイドライン違反になりかねないということで一度公開停止されたが、無事に復活した動画。この動画がセンシティブ判定されるのはおかしいと思うので、復活してよかった。また、アフタートークで「ハードゲイ」という芸をするに当たってゲイ文化を学びに行った話が出ていたのも良かった。
    森本の「春麗のブレスレット」というツッコミで、HGが「世代を合わせてくるね」と言っていたのも印象的。私はストリートファイターは分からないけど、こういう相手に合わせたツッコミは森本さんの魅力的なところの一つだ(同時に、こういう世代を限定するツッコミが多すぎない塩梅が上手いのも森本さんだと思う)。

  • 【タイマン】ダウ90000吉原 VS トンツカタン森本
    れなちょのことは全く知らなかったのだけど、衝撃的に面白かった。見た目に騙されるが、実はかなり「芸人」のノリを見せつけられる回だ。
    (特に年下の)女性芸人が出てきた場合、やたら突っかかったり、相手を下げる笑いを多用する男性芸人も多いが、そういう嫌な感じを全く出さないのが森本の安心できるポイントだ(当たり前のことであってほしいが…)。荒川・きょんちぃ・熊プロ・植田・ヨネダ20000などなど、「女性芸人」みたいな括りの中で没個性的にさせられてきた女性ジェンダーの芸人の芯の個性が、森本が相手だとよく見えるように思う。これはタイマン森本の大きな魅力だと思う。
    また、「タイマン森本」では内輪的なお笑いをしないように意識されていると思うのだが、この回ではひょうろく回・槙尾回・蓮見回など過去のタイマン視聴者向けの笑いも入っている。たまにこういうのがあると、継続的に見ている人としては嬉しいものだ。とはいえ多すぎても、内輪向けの同質的なお笑いになってしまうと思うので、今ぐらいの塩梅がよいのだと思う。

  • 【タイマン】スカチャンヤジマリー。VS トンツカタン森本
    ヤジマリー。さんを見たのは初めてだったのだけど、何とも言えない絶妙な魅力が伝わってきた。ぐだぐだなような、作り込まれているような、決まっているような、決まっていないような、かっこいいような、ダサいような、そういう「ちょうどよさ」がついつい観たくなるコンテンツに仕上がっている。ヤジマリー。さんの奥底に見える愛らしさやかわいげは唯一無二だと感じた。何をやってても面白い人、という感じがする。

  • 【タイマン】ぼる塾田辺 VS トンツカタン森本
    「ありがたいね、普段通りいれて」という田辺さんの言葉が象徴的で、田辺さんのキャラクターがそのまま伝わる回だった。二人の醸す、まったりした雰囲気がとても好きで、二人でラジオをやってほしいと思った。田辺さんが推しのコンテンツ(king of prism)についてずっと語っているところの掛け合いがとても好き。第二回も同じテイストでとてもよかった。

  • 【タイマン】ネコニスズ舘野 VS トンツカタン森本
    古い仲ということで、二人の呼吸がぴったりの回。この人にはここまでツッコんでいい、こういうツッコミをしていい、という距離感を掴んでいる場合の森本さんのツッコミは、いつもとはちょっとテイストが違くて、最初からクリティカルなツッコミが出てくる。その結果、より密度の高いコンテンツに仕上がっていると思う。全体を通して、「笑わない」と言っていたのに普通に笑いまくっている赤ちゃんが好きすぎた。
    ちなみに、こたけ正義感回のアフタートークで、森本さんは、「自分の発音のいい英語でよく笑ってもらえるが、その面白さが自分では分からない」という話をしていた。私のイメージでは、あれは森本さんがただ流暢に英語を喋っている面白さというより、いわゆる「カタカナ英語」でよく聞く言葉が、流暢な発音で聞ける時のシュールさが笑いになっていると思う。この回だと、「Tontsukatan Morimoto chance」とか、「Punpukin Poteto Fry」とか、日本語でしか聞かない響きが流暢な発音になったとき、私はめっちゃ笑ってしまった(「ポテトフライ」は和製英語だ)。

  • 【タイマン第2弾】ケビンス山口コンボイ VS トンツカタン森本
    アフタートークも合わせて、あまりに等身大すぎる「芸人」がそのまま出ていて、とても愛おしくなる回。準備から外れた時にものすごい顔をする山口さんが癖になる。しかし、そこから山口さんが即興で繰り出すものも、ちょうどよく笑えるものが多くて、かなり好みだ。
    前回書いたように、基本的には「一話完結の20分アニメ」感があるタイマン森本だが、山口コンボイ回は第一回~第二回でストーリー性があって、こういう回もまた楽しい。

  • 【タイマン】東京ホテイソンたける VS トンツカタン森本
    「つまらなくて炎上した」という扱いになっている回。面白いと感じるかどうかは人それぞれとして、この回から「演者が楽しい」ことと「見てる人が楽しい/面白い」ことは別物だということはよく分かる。つまり、演者が楽しみたい、面白くしたいということと、それを一つのコンテンツ・パッケージにすることの相違を反面教師的に学ぶことができる回、だと思う。
    個人的には、5回ぐらい見てしまった結果、ひどすぎるたけるさんとそれに四苦八苦する森本さんを見て、もはや爆笑するようになってしまった。なんとか伏線を張ったり、話を展開していこうとする森本さんを、毎回ぶったぎって、ひどいフリをしまくるたけるさん。ただ、こういう内容でも、その場の空気がひどいことにならず、焦りながらも楽しそうに終わっていく(少なくともそういう風に見せる)ことができるのは、タイマン森本というコンテンツの奥深いポイントだと思う。

 他にも感想を書きたい回はたくさんあるが、今後のためにとっておく。

 さて、森本さんのツッコミを見ていると、お客さん以前に、まずボケに、というより目の前にいる「人間」に寄り添っていると感じさせる。それが目の前の人とのコミュニケーションを重視しているように感じられて、とても好きだ。今後も注目していきたい。

ダウ90000のコント「幼馴染」と「今更」

 次に、タイマン森本以外のお笑いコンテンツの感想も少しだけ。

 タイマン森本のれなちょ回が面白かったので、ダウ90000のコントを見てみた(「幼馴染」と「今更」)。以下の文章は、あくまでこの二本だけを観た感想ということは注意してもらいたい。

 この二本は、正直、なんか、「うーんそういう方向性か」という感じだった。青春×エモい×男女コントで「マリマリマリー」を想起させる感じ。舞台設定は面白くて、そこで交わされるシュールな会話も好きなので、ついつい見入ってしまうし、魅力があって人気を博す理由もよく分かる。ただ個人的には、話の展開があまり好みではない。

 たとえば「幼馴染」では、結婚を控えた恋人に「ファックスでしか連絡を取らない幼馴染」がいることが発覚する。ここから「浮気みたいで嫌だ」「別に何にもないよ」みたいな掛け合いが始まっていく。

 ここで、最初に私が勝手に期待したのは、別に人と人の関係性なんてそれぞれなんだから、異性の幼馴染がいるとか、異性の友達がいるとかで、「浮気がどうこう」とか「男女の友情がどうこう」とかそういう話ばかりなってしまう、そういうしょうもない言説を解体する方向に向かうコントだった。

 でも、結局この話のオチは、ファックスでやり取りをしていた幼馴染も本当は恋人のことが好きで、恋人は結婚を止めて幼馴染の方に行く、というものだ。

 「今更」でも、ずっと昔から仲の良い男女三人がいて、それに対して久々に再開する男が「それ、つらいだろう」という問いかけをする。話していくと実は男女三人のうちの男は、実は「我慢」していて、「女2男1の友情は、誰かが歯を食いしばれば、誰かが我慢すれば成立するんだよ」と叫んだりする。

 パンセクシュアルで、友情と恋愛の境界線が曖昧で、また生身の人間に対してあまり性欲を覚えない私にとって、こういうコントは結構きつい。本当に仲良くて、ただ一緒に楽しくしていただけなのに、男女に見える二人だと周りから奇妙な視線を向けられた、あの嫌な記憶が蘇るからだ。一言で言えば、この二本のコントは、異性愛中心的で、モノガミー的で、性愛中心主義的なノリが前提になっている人じゃないと笑いにくいのではないか、と思う。

 ただの一素人の意見だけど、このコントはマジョリティにとって分かりやすい、手ごろな「エモさ」を拾いに行っていて、このねじれた状況の本当の面白さを引き立たせることができていないと思う。たとえば、「今更」なら、「女2男1の友情は、誰かが歯を食いしばれば、誰かが我慢すれば成立するんだよ」と叫ばせるのを最後にするのではなく、

  1. ずっと「つらくない」と言っているのにやたらと「つらいだろ、それ」としつこく言ってくる蓮見の奇怪なこだわりや嫌な感じを際立たせる方向性
  2. 「つらいだろ、それ」みたいな言葉を周りからふっかけられ続けることによって、いつの間にか「女2男1の友情は、誰かが歯を食いしばれば、誰かが我慢すれば成立するんだよ」みたいな価値観が園田の中に後付けで造成されてしまった、という方向性

 なら、この状況をもっと面白く作品として利用できると思う。別に、オチを必ずこういう方向にしてほしいとか、このコントの園田・蓮見のキャラクターを変えて欲しいというわけではない。他の登場人物の中から、こういうねじれた状況を示唆する台詞があれば、エモさやシュールな状況の魅力も残しつつ、今のような笑いはあるままに、もっと幅広い人に届く作品になるのではないか、というのが私の言いたいことだ。

 また、「幼馴染」では、ファックス・電報・回覧板などとオールドスタイルな繋がり方へのノスタルジックを引き出していく。これは確かにシュールで楽しくて、魅力的な設定だと思う。でも、最後まで行っても、結局出てくるのは「連絡手段の多様性」でしかなくて、人と人とのつながり方としては典型的な一対一の男女の恋愛&結婚という答えしか示されていない。

 もちろん、私はダウ90000のコントを上の二本しか見ていないので、こういうところを破ってくれている別のコントがあるのかもしれない。もし見つけたら、また感想を書き加えるが、ひとます上の二本を観た感想はこんなところだ。いわゆる「テレビ業界」「お笑い業界」とは離れたルートで人気を獲得している分、無限大の可能性があるコント集団だと思うので、今後もぜひ頑張って欲しいと思う。

こたけ正義感「弁論」

 ちまたで話題になっていた、こたけ正義感のスタンダップコメディ。法律家の仕事である「法令解釈」について分かりやすく解説したうえで、袴田事件を題材にして警察・検察、そして裁判所の欺瞞を暴くという内容。

 正直な感想としては、まず、このテーマでコメディを仕上げようとした、こたけ正義感のチャレンジに感服する。近年、いわゆる「社会性」のあるネタを試みてきた芸人としては、爆笑問題ウーマンラッシュアワー・せやろがいおじさんなどが思い浮かぶが、こたけはこれらの芸人とは全く違う方法で、専門性を分かりやすくかみ砕く能力を生かしてコンテンツを作り上げている。あるあるに乗っからないのだから、面白くなるかどうかはともかく、そこに生じる責任は重い。そのことは重々承知のうえで、それを一人で背負ってこのネタを作ったことに拍手を送りたい。

 それは前提の上で、これはどうかな、と思った点を二つだけ挙げておく。

  • こたけが「普通の感覚」を装ってツッコミを入れるところが、消化しにくいところがあった。
    →たとえば、「家族を名誉棄損で訴える」ことを、「そんなわけないやろ」みたいに消化する点。こたけ自身弁護士なのだから、親族間で裁判紛争が起こることなんてザラにあることは重々承知のはずだ。その上で、「こんなことで名誉棄損とか言ってる!」みたいな方向で笑いを誘っていたのだけど、個人的にはあまり笑えなかった。実際、こういうくだりでは、こたけのツッコミにもキレがなくなっているように感じられた。こたけ自身、若干疑念を持ちながらも、「「普通の人」の感覚ならここは笑いどころだろう」という感じでネタを書いているように思った。もっと弁護士として見てきた世界に忠実でいて欲しい。
  • 最後、色々と断りを入れながらも、「名誉棄損になりかねない」で笑いを取ったところ。弁護士側にあまりに肩入れしていると見られないように、苦心しながらバランスを取った痕跡も垣間見えるので、この言葉を額面通りには受け取るのはこたけの本意を分かっていない、という前提は踏まえた上で、それでもやっぱり引っ掛かかった。
    その引っ掛かりの根底には、結局は「中立ですよムーブ」をかまさないと許されないこの感じが嫌、というのがあると思う。正直、あれだけ警察や検察の批判をしたのだから、最後にちょっと検察寄りの意見を示したところで取り返しはつかないというか、内容の主旨はほとんど変わらない。あそこまでやったのだから、そのまま突き進んでほしかった。
    ……だってさ、別に弁護士じゃなくても、袴田事件の経緯を知ると、あの最後の検察側のコメントは、誰がどう考えたって名誉棄損じゃないですか。その感覚は間違っていないと思う。たとえ、こたけに笑いのネタにされるのだとしても、どうしても、やっぱりあれは名誉棄損だとしか思えないよ。そこは「弁護士あるある」としてネタにしてはいけないところだったと思う。

 とは言いつつ、大衆人気を獲得しながら、袴田事件を題材にスタンダップコメディをやったことには改めて敬服する。警察や検察の捜査の問題点や不条理な点がこれでもかというほどに伝わる内容だった。こちらも今後の活躍に期待します。

(棋客)