達而録

中国学を志す学生達の備忘録。毎週火曜日更新。

Wikipedia執筆録(1)

 筆者が執筆・加筆したWikipediaの記事から、整理に当たって悩んだ点や、未だに悩んでいる点を紹介します。なお、どの記事も何も完成版というわけではないですし、私の編集後にまた別人が編集していることもあります。いろいろと問題を抱えていることは承知の上ですので、ご注意ください。

①章・節の分け方

 Wikipediaの執筆では、章・節の分け方というのが特に重要だと考えます。最初の段階で、各節が系統的に分けられていれば、その後に執筆する人はそれぞれの項目内に加筆していくので、ごちゃごちゃしたものになりにくいわけです。

 例えば、筆者が『孝経述議』の項目を作った時には、以下のように整理しました。

孝経述議 - Wikipedia

1 概要
2 伝来
2.1 中国における亡佚
2.2 日本における受容
2.2.1 林秀一による復元
3 内容
3.1 体裁
3.2 解釈の特徴
4 脚注
5 参考文献
6 関連項目

  「内容」は「伝来」より前に置くべきか、「著者」または「成立」の節があってもいいか、など色々考えることはあるので、完全なものとは思いませんが、一応整理した形で示すことができていると思います。

 ほか、こちらは加筆前から的確な記事でしたが、典拠などに手を加えた『論語義疏』の項目。

論語義疏 - Wikipedia

1 概説
2 特徴
3 伝来
3.1 中国における亡佚
3.2 日本における保存
3.2.1 抄本
3.2.2 版本
3.2.3 2020年発見の中国写本
4 脚注
5 参考文献

 さて、この手の単著なら章節の作り方にそれほど迷いませんが、経書になってくると、書くべきことが多く、どう整理すればよいか途方に暮れることになります。ここでは、『礼記』の記事を見てみてください。(私は少しだけ加筆しました。)

礼記 - Wikipedia

1 概要
2 『礼記』の成立
2.1 『小戴礼記』の成立
2.1.1 『隋書』経籍志説
2.1.2 銭大昕説
3 『礼記』の展開
3.1 漢代
3.2 魏晋南北朝
3.3 唐代
3.4 宋代
3.5 元代
4 『礼記』の内容
4.1 全49篇の配列
4.2 各篇の作者
4.3 各篇の単行
5 注釈書
6 邦訳文献
7 関連項目

 『礼記』はもともと記述の内容量が多く、私の作業は出典を加えたことと、記述に細かく分節を加えたことが主です。今後は、3.6に清代の礼記研究、3.7に日本における受容が欲しいでしょうか。また、「成立」の項目も、河間献王の発見がどうこうという話や、出土文献への言及にかなりの不足があると感じます。

 さて、細かい話は置いておいて、ここでは「成立」「展開(受容)」「内容」「注釈書」「邦訳文献」という章の分け方になっています。どの経書にしてもまず「成立」が曲者で、伝統的な理解、現代の理解、といったように書いていかざるを得ません。「展開」も、魏晋以降は比較的書きやすいですが、漢代の受容状況を書くのはとても難しいです。そもそも漢代の話になってくると、「成立」と「展開」を分けて記述することに無理があるのかもしれません。

 次に、当たり前ですが「内容」も簡単には記述できません。野間先生の『五経入門』のように、「目次+一言の説明」というのが結局は最も分かりやすいかもしれませんね。『礼記』の項目の場合、私より以前に編集した方が「篇名+『三礼目録』の分類+内容の要約」を表にしており、一目で分かりやすい記事になっていると思います。

 「注釈書」は、「展開」の中に入れ込んで書くことも可能ですが、確かに分けて掲出した方が親切です。これも以前に編集した方が執筆されたところです。どなたか存じ上げませんが、ありがとうございます。

 ちなみに、『論語』の場合は、「論語の注釈」というページが独立して設置されています。『論語』ぐらい数が多いとこれもありかと思います。

論語の注釈 - Wikipedia

 

 経書の他の例として、『詩経』の記事を見てみてください。こちらは、私はまだ手を付けきれていない項目です。

詩経 - Wikipedia(2020年8月17日 (月) 07:35版)

1 構成
2 六義
3 作者
4 受容の変遷
5 テキストについて
6 主な完訳版
7 脚注
8 関連項目
9 外部リンク

 典拠がつけられているところもあり、内容自体は詳細でよいのですが、パッと章を見て、どう整理されているのかかなり分かりにくく感じられないでしょうか。

 実際にご覧になっていただければ分かる通り、この記事の内容を今から整理しようと思うとものすごく、ものすごく大変です。先ほど、後の編集者の加筆を考えると、最初の章節の立て方がとても重要、と言ったのが分かっていただけるかと思います。

 尤も、『詩経』や『書経』といった項目の場合、今文・古文のテキストの問題がとても大きく、どうしても系統的に記述するのが難しいというのはあります。なかなかに悩ましい問題ですが、いま試しに『詩経』の章節を考えてみたのが以下です。

1.概要
2.成立
2-1.作者
2-2.三家詩と毛詩
3.内容
3-1.構成
3-2.作品の特徴
3-3.「六義」の概念
4.展開
4-1.漢代
4-2.魏晋南北朝
4-3.唐代
・・・
5.注釈書
6.日本語訳
・・・

 現在の『詩経』の内容・構成を説明するためには、これが「毛詩」に基づくことは説明せざるを得ないので、「成立」を最初に持ってきてテキストの問題を整理することは必要かと思います。「内容」と「展開」は、『礼記』では逆順になっていますが、こちらの方がしっくりくるでしょうか?

 この修正は大規模なものになるので、すぐには執筆できそうにありませんし、上の章立てで良いかどうかもまた考えなければなりません。

 

 また来週、続きを書きます。

 

 さて、こうしたややこしいことは置いておいて、執筆に当たって原典や研究書を読み返すのは、なかなか勉強になり、思わぬ発見があるものです。意外と楽しみながら執筆できています。まだ不慣れでミスが多いですが、執筆する価値はあると思いますよ。

(棋客)