博士課程の学生が公的な支援を受けることのできる数少ない制度として、通称「学振」と呼ばれるものがあります。「DC1」なら三年間、「DC2」なら二年間、学術振興会から給与を得られるという仕組みで、現状学振は「研究者養成の命綱の一つ」と言っても過言ではないものになっています。実際、学振に通らなかったから研究を諦めた、という話を見聞きしたことがある人は多いでしょう*1。
本題に入る前に、学振DCの仕組みをさらっておきましょう。
DCの採用率は15~20%ほどとされています。私は、幸運にも学振DC2を受け取ることができました。私の博士課程時代の金銭事情については以下の記事にまとめています。→文学部の修士課程~博士課程の7年間を振り返る(環境編) - 達而録
学振の収入は、給与所得として扱われるものの、学術振興会との雇用関係はありません。給与は毎月20万円で、ボーナスはありません。
なお、別で「特別研究員奨励費」を申請することができ、審査に通れば、研究関係の支出で利用することができます。学会への出張費や、研究資料の購入費用などに使うためのもので、生活費などには使えません。さまざまな制限があり*2、支出の際には事前に大学事務や教員の許諾を得る必要があります。私は年間に50万円の予算枠を得ました。だいたい出張費・資料費・機器代・印刷費で使い切りました。
また、奨励費以外に、「研究遂行経費」という枠を申請することができます。これは、毎月20万円の給与の中から、経費扱いすべき支出をまとめて年度末に申請できる仕組みです。奨励費では足りない、または制限がきつい奨励費では出せない研究関係の支出を、経費という扱いにしてくれます。
たとえば、「所属機関への通勤代」は、普通の会社の感覚だと当然経費扱いでしょうが、なぜかDCの奨励費では支出できない仕組みになっています。そこで、給与から立て替えておいて、後で研究遂行経費の扱いになるよう申請する、という仕組みになります。なお、研究関係であっても飲食費は支出できないようです(普通なら経費扱いできることが多いと思いますが…)。
研究遂行経費は、大学事務への申請は不要ですが、年度末に何にいくら支出したか申請しなければなりません。私の時、この書類のフォーマットが従来よりも細かくなって、作業量がかなり増えたようです(今はどうなっているか分かりません)。私は、所属機関や図書館への交通費の細かな蓄積や、資料のコピー代、奨励費を使い切った後の図書購入費などを研究遂行経費に計上していきました。細かなレシートの蓄積が大量にあり、計算するのは骨ですが、これを申請すると給与から経費扱い部分を増やせます。
研究遂行経費は、最大で3割以下に制限されていますので、毎月6万円以下、年間で最大72万円ということになります。私は65万円ぐらい使った記憶があります。使った額次第で給与額が変わり、払う税金も変わることになりますから、この申請に基づいて学術振興会の側が調整してくれます。(自分で確定申告することも可能です)
さて、前置きが長くなりましたが、本題に入りましょう。昨年の三月まで学振DC2で、その後は非常勤講師で生計を立てている私は、いま毎月の所得が非常に低いので、年金の免除申請をしてみることにしました。(なお、DC採用時までは学生でしたので、学生免除を受けていました。)
年金の免除制度は色々なものがあるのですが、最も多いパターンだとざっくりこういう所得の基準になっています。
〔前年所得が以下の範囲より低いと免除〕
全額免除
(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円4分の3免除
88万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等半額免除
128万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等4分の1免除
168万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等(国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度より、2025/12/15閲覧)
ちなみに、免除された場合、その分、将来受け取ることのできる年金額は減少します。ですので、別に免除されるのが「得」というわけではないです。一応、後から免除された分を追納することによって、将来の給付額を増やすことは可能です。
ケースバイケースでしょうが、申請自体は意外と簡単で、その後は年金事務所が所得を照会して勝手に判断します。私の場合は特別な書類は特に必要なかったです。
さて、私は先日この申請を出したのですが、結果、1/4免除になりました。毎月納める額が4000円ちょっと減る計算になります。
問題なのは、この時に計算された「所得」は何を照会しているのか、ということです。この時に照会されるのは、現時点での私の収入ではなく、「前年所得」、つまり2024年の所得で、これは2024年1月~2024年12月分の確定申告の数字が反映されているはずです。
私の場合、ここはがっつり学振を貰っていた時期なんですよね。
免除の可否は前年所得から判断するというのは申請前から知っていたので、細かい計算はしないままに、「あー、学振貰ってた時期だし、多分通らないかー、やべー」と思いながら申請したので、免除可になって驚きました。
しかし、冷静に計算してみると、申請が通ったのは至極当然のことです。
私の2024年の学振の総収入は267万円(4~12月は特別手当が3万円出たので少し高くなっています)、このうち研究遂行経費が65万円ほどですので給与は200万円ほど。これに、給与所得控除(私の場合は68万円ほど)、社会保険料控除(国保、15万円ほど*3)が引かれます。(なお、年金免除の計算に基礎控除は入らないとのことです。)
……すると、確かに1/4免除の基準をゆうに下回っています。なんなら、特別手当を貰っていなかったら、1/2免除の基準も下回っていたものと思われます。
一応、私はこういう話に詳しいわけではないので、以上の計算は間違っているかもしれないことは注意しておきますが、とにかく申請の結果免除になったことは確かです。
というわけで、審査のために多くの学者を動員し、めちゃめちゃ面倒な書類をたくさん書かされ、制限は多く、しかし研究者養成の命綱の一つとしてたいへん重要な「学振DC」の収入は、「政府から年金免除を認められるぐらいの低収入である」というお話でした。
もちろん、通らない人の方が多い中で、給与をいただけたのはありがたい限りなのですが、十分な支援ではない、と言わざるを得ないでしょう。そして言うまでもありませんが、そもそも貰えなかった人はもっと厳しい状況にあるわけです。学振は枠も額も増やすべきだと思いますし、もっと教育や研究にきちんとお金を出すような政策を取ってほしいものです。
(棋客)