達而録

中国学を志す学生達の備忘録。毎週火曜日更新。

読書案内

溝口雄三『中国の公と私』

溝口雄三『中国の公と私』(研文出版、1995)を読みました。折角ですので、冒頭部分だけ紹介しておきます。 この本は、中国(特に宋代以降)における「公」と「私」の概念について、その源流から近代に至る展開を描いたものです。特に、日本における「おおや…

2019年中国学の新著紹介!

年の瀬も近くなってまいりましたが、今年も中国学界隈から、多数の良著が出版されました。そのうち、高い質を備えながらも、初学者でも気軽に読めるような本をピックアップしてご紹介いたします。 私自身が入手して読んだ本に限定して紹介していますので、他…

頼惟勤『説文入門』を読む(二)

前回の続きです。 『説文解字注』一篇上 一、惟初大極、道立於一、造分天地、化成萬物。 前回書いたように、『説文入門』での結論は「唐石經・岳本・釋文所據など、『易』として古い系統のものは「太」でなく「大」であるから、段氏は「大」の字を用いたのだ…

頼惟勤『説文入門』を読む(一)

『説文解字』並びに段玉裁『説文解字注』に関する、“高度に学術的な入門書”(語義矛盾にあらず)といえば、頼惟勤先生の監修にかかる『説文入門』(大修館書店、1983年)が有名です。参照→『説文入門』 | 学退筆談 本書の第三章「段注の実際」の第三節は「段…

『中国思想史研究』の一部リポジトリ化!

一年ほど前の話になりますが、京都大学文学研究科中国哲学史研究室の発行する学術雑誌『中国思想史研究』が、京都大学学術情報リポジトリ「KURENAI」にてオンライン上で公開されました。(現時点では未公開の論文もかなり多いです。特に古いもの。) リポジ…

勝手気ままな訳書紹介―『荘子』

ここ一年ほど、演習で『荘子』を読んでいる関係で、『荘子』の訳本を色々と見比べる機会が多くありました。もちろん、基本的には『荘子集釋』などから自分なりに訳を作っているのですが、どうにもしっくりこない場合、先人の意見を眺めてみるのも楽しいもの…

小倉芳彦『古代中国を読む』

前回、小倉芳彦『古代中国を読む』(岩波新書、1974)・(論創社、2003)を話題に出すに当たって、数年ぶりに読み返してみました。やはり、何度読んでも面白いものです。 折角ですので、少し引用しながら紹介してみます。 前回、この本は「小倉氏の研究者と…

『左伝』の訳書と概説書の紹介

とある方にリクエストを受けて、『春秋左氏伝』の訳書や概説書の手引きを作ってみることにしました。(この方の学識には及ぶべくもないのですが、何故私が…。)週一回更新を守りたいのですが常にネタ切れ気味ですので、何か良いネタがありましたら教えてくだ…

【良質講義動画】広島大学の「中国思想文化学入門」を紹介

動画 lHiCE003: 中国思想文化学入門 Twitterで上記の動画(HiCE003: 中国思想文化学入門、広島大学が公式に公開している有馬卓也先生の講義)を紹介したところ、予想外に多くの反響がありました。この動画は、先秦から漢代にかけての「天」と「命」に焦点を…

濱久雄『中国思想論攷―公羊学とその周辺』

はじめに 本日は、終戦直後に大学を卒業し、自作農として晴耕雨読の生活を送りながら漢文に親しみ、後に研究の世界にカムバックした研究者のお話。 濱久雄『中国思想論攷―公羊学とその周辺』(明徳出版社、2018)のあとがきを一部引用します。 終戦 翌日の朝…

平岡武夫『経書の成立』

はじめに 本日は平岡武夫『経書の成立』(創文社、1983)の「初版刊行の記」を読んでみます。 時代背景 出土以前の経書研究として手堅い名著と言えましょうが、戦火で原稿が文字通り焼失し、何度も出版が潰えながらも上梓された書籍でもあります。 大阪が空…

大濱晧『朱子の哲学』

はじめに 私は研究書を読むとき、ついつい「あとがき」を先に読んでしまうタイプです。特に大家と呼ばれる先生の晩年の著作となると、他の有名な先生の若かりし頃のお話が載っていたりして、なかなか興味深いものです。基本的に研究の足しになるものではない…

中国学と円城塔『文字渦』(下)

前回はこちら はじめに 『文字渦』について引き続き語ってみます。 少し内容に踏み込んで書くとは言ったものの、短編集でありながらそれぞれが緩やかに関連を持ち大きな世界を作っているこの作品自体の枠組みの話は、私には手に余る代物です。今後の人生で何…

中国学と円城塔『文字渦』(上)

中国思想をもっと身近に 伝えることの難しさ 中国学の面白さを、一般の方々にどう伝えるのか? ―言い換えれば、中国学の魅力を如何に発信するか― これは長きに渡って、多くの研究者が苦悩してきた問題ではないでしょうか。これはもちろん、そんなことを考え…

勝手気ままな「訳書」紹介―『孟子』

こちらも『論語』ほどではないですが、多種に渡っています。『論語』に比べると長い本なので、抄訳もちらほら見受けられます。 ①小林勝人訳、宇野精一訳 有名な話ですが、最も一般に流布している小林勝人訳(岩波文庫、1968)は、批判の多い著作です。吾妻重…

勝手気ままな「訳書」紹介―『論語』

日原利国氏が「碩学といわれるほどの大先生は、みな『論語』の訳注をされる、と聞かされ」*1たと述べる通り、『論語』の訳本は非常に多く存在します。一般向け・専門向けも入り混じっており、どうまとめるのが良いのか悩みどころ。全てを時代順に並べても、…

勝手気ままな「訳書」紹介―前置き|中国思想の翻訳書について

はじめに 中国思想を専門とする研究室には、よく「良い訳書を教えてほしい」という声が届きます。しかし著名な古典となると数々の学識の高い先生が訳されていますから、一概にどれが良いとは言い難いものです。それは単に訳の良し悪しではなく、元々の方針の…

川原寿市『儀礼釈攷』自序を読む

『儀礼釈攷』とは 十三経の中でも屈指の難読とされる『儀礼』については、現在では日本語でも数種の解説書が出ています。その端緒に位置づけられるのが川原寿市『儀礼釈攷』です。 この本は完成当時は大々的には版行されず、ガリ版で数十部刷るのみであった…