達而録

中国学を志す学生達の備忘録。毎週火曜日更新。

2022-01-01から1年間の記事一覧

洪誠『訓詁学講義』より(1)

最近、洪誠(森賀一恵・橋本秀美訳)『訓詁学講義―中国古語の読み方 (中国古典文献学・基礎篇)』(アルヒーフ、2004)を読み返していました。 本書は、漢文の読み方をいわゆる「訓詁」から丁寧に解き明かした、日本語で読める数少ない本の一つです。何度読…

章炳麟と章学誠(4)

前々回取り上げた末岡宏「章炳麟の経学に関する思想史的考察 : 春秋学を中心として」(『日本中国学会報』43、1991)の注釈の文章のうち、残りの部分を読んでみましょう。 つまり、章学誠のことを、黄侃が「春秋左氏疑義答問叙」で指摘する、六経を単なる歴…

章炳麟と章学誠(3)

今回は、前回の記事の最後に触れた章炳麟の講演原稿である「歴史之重要」を、もう少し読んでみることにしましょう。 まず、前回紹介した部分を、私の方で日本語訳しました。 経書と史書の関係はとても深く、章学誠がいう「六経皆史」というこの言葉は正しい…

章炳麟と章学誠(2)

今回は、末岡宏「章炳麟の経学に関する思想史的考察 : 春秋学を中心として」(『日本中国学会報』43、1991)を読んでみましょう。 章炳麟の弟子である黄侃が、章炳麟『春秋左氏疑義答問』の後叙で、この書に見える章炳麟の説を整理しています。そのなかに、…

章炳麟と章学誠(1)

最近、章炳麟と章学誠の関係について調べていまして、章炳麟の全集の中から、章学誠に言及する部分を探しています。 それに関連して、島田虔次『中国革命の先駆者たち』(筑摩書房、1965)を読みました。以下、内容の紹介というより、それぞれの出典をメモし…

廬江何氏鈔本『文史通義』について

最近、機会に恵まれて、章学誠『文史通義』を「廬江何氏鈔本」という本を用いて校勘しながら読んでいました。今回は、この鈔本の面白いところを紹介します。 本題に入る前に、前提知識を整理しておきましょう。『藏園訂補邵亭知見傳本書目』によれば、章学誠…

Wikipedia執筆録(3)

多忙につき、しばらくWikipediaの編集をできていませんでしたが、最近少しずつ再開しています。これを機に、これまでに自分が書いた記事をピックアップしながら振り返っておき、また加筆に向けてモチベーションを上げておきましょう。(以前取り上げたものは…

呉叡人『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』(2)

前回の続きです、今日は、呉叡人著(駒込武訳)『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』(みすず書房、2021)のうち、「比較史、地政学、そして日本において寂寞の内に台湾を研究するという営みについて」という文章を読んでいきます。 本章は、2011年の日本台…

呉叡人『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』(1)

知人に紹介されて、呉叡人著(駒込武訳)『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』(みすず書房、2021)を読んでいます。 呉叡人は、台湾で多くの社会運動に携わりながら、台湾を中心とした政治史、民族史の研究をしている学者です。私はまだ本書を読了していま…

最近読んだ本

新年度がまもなく始まるということで、目まぐるしく忙しい日々を送っています。もともと論文の執筆、前回紹介した吉田寮関係の活動で時間が埋まっていたところに、もうすぐ授業や研究室業務も始まりますから、ブログを書く時間がなかなか取れません。 今回は…

京大吉田寮について

本ブログの中の人の一人は、縁があって、最近、京都大学の「吉田寮」の存続活動に携わっています。 そもそも「吉田寮って何?」という方は、吉田寮紹介パンフレットの電子版があるので、ちらっと読んでみてください。 www.pamphlet.yoshidaryo.org Twitterも…

崔靈恩の「楽記」理解

以前、『礼記』の楽記篇の句読について整理した際、崔靈恩という人の説を紹介しました。 chutetsu.hateblo.jp 残念ながら、崔靈恩が書いた本は、いまはそのままの形では伝わっていません。しかし、『礼記』の経文と鄭玄注について注釈を附した『礼記正義』と…

陳鴻森「北朝経学的二三問題」―論文読書会vol.13

※「論文読書会」については「我々の活動について」を参照。 陈鸿森「北朝经学的二三问题」(中央研究院历史语言研究所集刊 第六十六本第四分、1999) 【概要】 历代关于北朝经学的论述大抵依据《北史・儒林传序》,这是由于北朝学者的著作大多不传。这篇论文…

アンヌ・チャン『中国思想史』(2)―「幾」について

前回に引き続き、アンヌ・チャン『中国思想史』(志野好伸・中島隆博・廣瀬玲子訳、知泉書館、2010)の内容を紹介します。今回は、私の個人的な興味から、「幾」という概念について説明している部分を読んでみます。 以下、第11章「易」の「幾」節、p.275-27…

アンヌ・チャン『中国思想史』(1)―「思想か哲学か」

アンヌ・チャン『中国思想史』(志野好伸・中島隆博・廣瀬玲子訳、知泉書館、2010)を読みました。中国哲学・中国思想を学んだことのない方でも非常に読みやすい本ですので、二回に分けて内容を少しご紹介しようと思います。 今回は、序論p.10「思想か哲学か…

音楽に感情はあるのか?―嵆康「声無哀楽論」(2)

「声無哀楽論」は、当時の音楽論としてのみならず、当時の玄学や儒教批判の文脈、また文学としての評価など、さまざまな観点から読むことのできる文献ですから、研究も数多くあります。今回記事を書くに当たって読んでみた論文は以下です。 福永光司「嵆康に…

音楽に感情はあるのか?―嵆康「声無哀楽論」(1)

前回、以下の『礼記』楽記篇の一節を紹介しました。 凡音者,生人心者也。情動於中,故形於聲,聲成文謂之音。是故治世之音,安以樂,其政和。亂世之音,怨以怒,其政乖。亡國之音,哀以思,其民困。聲音之道與政通矣。 一般に音とは、人心から生じるもので…

『礼記』楽記篇の句読

『礼記』楽記篇に、以下のような一節があります*1。 凡音者,生人心者也。情動於中,故形於聲,聲成文謂之音。是故治世之音,安以樂,其政和。亂世之音,怨以怒,其政乖。亡國之音,哀以思,其民困。聲音之道與政通矣。 福永光司『芸術論集』(吉川幸次郎・…

『十三經注疏校勘記』についての研究概略

最近、『十三經注疏校勘記』に関する過去の研究を整理する機会があったので、合わせてここに残しておきます。粗雑なものですので、あくまで参考程度に。 阮元らによって作られた『十三經注疏校勘記』は、経書を読む際に必携の書とされています。長い伝来の間…

中国古代の酒―林巳奈夫『漢代の飲食』より

最近、中国古代の祭祀に用いられた酒やその容器について整理しています。今回は、中国古代研究者の必読論文の一つである林巳奈夫『漢代の飲食』(『東方学報』48、p.1-98、1975)ともとに、経書などに出てくる酒の種類をまとめてみます。 repository.kulib.k…

古勝隆一『中国中古の学術と社会』

最近、法蔵館より、古勝隆一先生の『中国中古の学術と社会』が上梓されました。 pub.hozokan.co.jp 3~8世紀、中国中古時期は治乱興亡の時代環境を背景に学術が展開した時代であった。儒仏道・目録学・注釈学・国家権力・地域性に着目して、中古時期の思想…

新年のご挨拶

2022年がやってまいりました。 読者の皆様のあたたかなご支援に支えられて、昨年も無事に更新を続けることができました。 最近は専門的な記事がやや少なくなっていますが、またバリバリ書いていく所存ですので、変わらず見守っていただけると嬉しいです。 で…