達而録

ある中国古典研究者が忘れたくないことを書くブログ。毎週火曜日更新。

「索引」を作るということ

 先日お知らせした通り、本ブログの筆者の著書である『鄭玄から五経正義へ:中国古典解釈学への誘い』(法藏館、2026)が刊行されました。しばらくこのブログでは、販促も兼ねて、この本に関することを色々書き記していきます。本書を読む人だけではなく、博論を書いている人や、博論の書籍化を考えている人にも役に立つ内容にしていくつもりです。ぜひ、本書を手に取って、一緒に読んでもらえると嬉しい限りです。

 

 今回は、「索引」を取り上げてみます。

 本書には、末尾に「索引」がついています。索引とは、その本に出現する語彙を特定の順序で並べて、その語彙が載っているページ数を表示するものです。本書の事項索引の冒頭はこんな感じになっています。(右がページ数です)

アカデミズム    25
夷狄    45, 182
緯書    7, 16, 29, 42-43, 94, 136, 184, 211
佚書    22-23,36,47,70,134,154,259

 太字にしているページ数は、その語彙の説明が書かれている重要な箇所です。

 索引を見ると、「◯◯という人は本書の中のどこで出てくるか」「●●という概念は本書のどこで論じられているか」「△△の文献は本書のどこで使われているか」といったことが一発で分かり、とても便利です。索引はその本の使いやすさに大きく影響しますので、新書ならともかく、分厚い研究書ならやはり索引が欲しい、というのが私の感覚です。

 というわけで、本書でも索引を作成したのですが、ひとくちに「索引」と言っても、種類も作り方も多種多様です。索引を重視するにせよしないにせよ、索引の作り方には著者の意図や思想が反映される……とまで書くと大袈裟かもしれませんが、少なくとも、私なりに色々考えて索引を作ったことは確かです。

 現実的には、色々考えて索引を作ったとしても、その研究書の中で「索引の作成意図」をきちんと説明することはなかなかできません。そこで今日は、この場を借りて、本書の索引の作成意図や作成方法を説明しておこうと思います。

 なお、私はこの本以外で索引を作ったことは全くありません。以下は、あくまで「素人による索引作り体験記」として読んでください。常識外れのやり方をしているかもしれませんのでご注意ください。

 

索引の重要性

 前回の記事でも使わせていただいた、鈴木哲也・高瀬桃子『学術書を書く』(京大学術出版会、2015)から、索引の重要性を論じる一段を抜粋しておきます。

 本の性格に応じて、よく考えて整備された索引が附されている学術書は、一般にサーキュレーションが良いのは事実なのです。(p.117)

 ここに「充実した」ではなく「整備された」とあるのは、「とにかく項目数が多く、また項目ごとに指示される頁番号が多ければ多いほど、良い索引だと誤解される向きがある」(p.118)からだと言います。そして以下のように述べています。

 索引というのは、読者にとって意味のある語とその登場する文脈を示すものであって、とにかく、本の中のすべての概念や固有名詞をひたすら示せばよい、というものではありません。では、どうすべきでしょうか? ここでも、基準と工夫が必要になりますが、一言で言えば、読者が索引を眺めたとき、その本の扱うテーマと議論の概略がイメージできるような、また実際に索引を引いたとき、読者に、意味のない索引指示であると感じさせないような工夫です。(p.118)

 私は、ひとまず以上の指針を念頭に置き、索引の作成に着手しました。

 

索引に絶対はない

 索引は、まず第一には、その本をより利用しやすくするためにあります。ということは、「どのような索引がよいか」は、「その本の内容と、その本の読者層によって変化する」と言えます。つまり、索引には、「こう作るとよい」という絶対の基準はないわけです。

 中国古典分野の研究書の場合、人名索引と書名索引があるのが主流ですが、本によって工夫が見られるケースもあります。たとえば吉本道雅『中国先秦史の研究』では、各国の君主の名前が年代順で並んだ索引が付いていたと記憶しています。ある『論語』の訳本には、「書き下し文」による索引や、「原文に出ている漢字一字ごとの索引」が付いているのを見たことがあります。

 さらに、研究書ではなく、何かの中国古典の原典に対して作られる索引なら、長い目で見て漢文研究者が使いやすいような索引を目指すことになり、また話が変わってきます。典拠調べに使われるケースが多い古典なら、熟語の索引か、漢字一字の索引があると便利でしょう。索引の単語の配列も、漢音で並べるか、ピンインか、四角号碼か、また違った方法が考えられます。

 極端に言えば、同じ本でも、時代が変われば、使いやすい索引が何かということも変わります。もしピンインで発音を表記しない時代が来たら、ピンイン索引は使いにくい索引になってしまうでしょう。現代でも、四角号碼索引を便利に感じる人もいれば、使い方が分からないという人もいるでしょう。

 とはいえ、そこまで言い出したらキリがないので、まずは現代の読者に使いやすくすること、そしてその「現代の読者」の想定範囲を幅広く取ること、を意識するのが大事だと思います。

 細かい議論はこのあたりで切り上げますが、とにかくこうした事例を思い浮かべて、「私が自分の本の索引を作る時にも、何か工夫できるといいなあ」と素朴に考えたわけです。

 

索引の作成方針

 実際に索引を作るとなると、まず以下の方針を決めることになります。

  1. 索引の種類(人名索引・事項索引など)をどうするか。
  2. どの言葉を語彙として採用するか。
  3. 語彙をどのように並べるか。

 ①は、「人名索引」「事項索引」「固有名詞索引」「書名索引」など、どういう種類の索引を作るかということです。もちろん、分類せずに全て一つの索引に合わせる方法もありますし、人名索引を歴史上の人物と現代人に分別したり、歴史上の人物だけに絞ったり、出身地で分けたりすることも考えられます。「日本語表記とアルファベット表記」のように文字・言語で分けることもあるでしょう。

 ②は、人名・書名索引ならあまり考える必要はありませんが、一般名詞、つまり事物・事柄・概念・出来事などを索引の語彙に挙げる場合、結構悩みどころです。重要概念で、その言葉が本書の中で何回も使われる場合は、大事な箇所のページ数だけを挙げる、などの工夫も必要になります。

 ③は、語彙を並べる順序は何がいいかということです。日本語の本なら大半は「五十音順」ですが、五十音順だけで並べるとかえって分かりにくい場合もあります。たとえば、以下のようなケースです。(以下、本書の人名索引を改変して作成)

王応麟    155, 279
王孝逸    201
王孝籍    214  
王国維    129   
王粛    8, 10
応劭    212
王先謙    ⅸ    
王貞    201    
王弼    166-167, 170

 機械的に日本語読みの五十音で並べるとこうなるのですが、「王」さんの羅列の中に「応」さんが入ってきていて、かえって見つけにくい感じがします。そこで、中国古典分野の索引だと、まず「一文字目の漢字」でソートして、次に二文字目の漢字の発音でソート、という形になることが多いです。まず「王」さんが二文字目の五十音順で並び、次に「応」さんが来る、といった順序になります。

 五十音で並べる場合にもう一つ厄介なのは、漢字の読みが複数あるということです。これには、「鄭玄」(じょうげん/ていげん)のように慣用音と漢音が異なる場合や、「張本」(はりもと)さんと「張」(ちょう)さん、また「林」(はやし/りん)さんのように、日本語圏の人名と中国語圏の人名とで読み方が違う場合があります。

 繰り返しになりますが、こうした問題について、「いつでも絶対分かりやすい方法」の基準を立てるのは難しいです。本の内容と項目と読者層に応じて、自分なりに工夫していくのがよいでしょう。

 

本書の場合

 以上の前提を踏まえて、本書の索引はどのように使われるケースが多いと想定されるか、考えてみました。本書の読者としては、「本分野に少し興味がある人」から「本分野の専門家」までを想定していますので、そういう人が使いやすい索引を目指します。直接的には、以下のような使い道があるかな、と想定しました。

  1. 本書のキーワード的な概念を概観する。
  2. 本書のキーワード的な概念が議論されている箇所を探す。
  3. 一度本書で出てきた専門用語が再び出てきた時に、前はどこで出てきていたか調べる。(基本的に初出時に用語の意味を説明するので、二度目出てきた時には用語の意味を忘れているということはよくある。)
  4. 歴史上の人物について、その人が本書のどこで論じられるか調べる。
  5. 本書の研究の中で、どのような資料がどのぐらい使われているかを確かめる。
  6. 現代の論文や研究書が、どこでどのように言及されているか調べる。

 ①が最も一般向けの用途で、⑥の方に進むにつれてより専門家向きの用途、という順序になっています。

 ざっと、このあたりの需要を満たすことが本書の「索引」の目標ということになりますが、そのためにはどのような索引が必要になるでしょうか。

 ①~③を意識すると、事項索引は必須だということになります。当初の予定では、いわゆる「経学用語」的な、本分野の専門語彙だけを事項索引に入れようかと考えていたのですが、それはやめて、本書の内容を概観するために重要な一般的な熟語も収録することにしました。

 ④のためには(歴史上の人物の)人名索引が、⑤のためには(原典の)書名索引が、⑥のためには(現代の研究者の)人名索引、もしくは研究書・論文の題名の索引が必要になります。

 とはいえ、あまり細かく分かれすぎていても、かえって索引としては使いにくくなってしまいます。せいぜい二つか三つぐらいにしておき、それぞれの項目数が同じぐらいになるように調整したい、と考えていました。また、私の本の場合は研究書としては薄い方ですので、あんまり索引がありすぎるのもアンバランスかな、ということも考えました。

 このあたりのことを勘案して、本書では、「事項索引」のほかは、「人名索引」「書名索引」の二つにすることにしました。

 「人名索引」は、歴史上の人物と現代の研究者を一緒にしました。これを分ける方法もありますが、私の本の場合は莫大な事項数があるわけではないので、それほど探しにくさはないように感じました。また、歴史上の人物というべきか現代の研究者というべきか微妙な人もいますので、この方がすっきりするように考えました。

 一方「書名索引」は、原典のみとし、現代の研究著作は対象外としました。先行研究の言及箇所を確認するなら、人名索引から研究者の名前を探せば辿りつけるので、こちらでは省略することにしました。この方法の場合、同一著者の複数の研究が引かれている場合に少し面倒になるのがデメリットです。ですので、やっぱり現代の研究著作も索引に入れてある方が便利ではあるのですが、本書ではそういう研究者が少数であるということもあり、妥協しました。

 

 なお、『学術書を書く』では索引の語彙のツリー化が有力な方法として紹介されていますが、本書でこれを特に活用したのが「書名索引」です。(以下、本書の書名索引を抜粋)

『論語』    4, 7-8, 165-190, 193
  ――学而    172, 177 
  ――為政    66, 167-168, 172, 188
  ――八佾    66 

 このように何度も使われている書名の場合、篇名ごとに索引があると便利です。この際に、語彙をツリー化して表示すると分かりやすいです。これは事項索引でも応用の利く方法です。

 

細かな工夫

 以上が大まかな方針ですが、書ききれなかった細かい工夫を追記しておきます。一つは、「事項索引」に出てくる専門用語に、その用語のジャンルを一言だけ示していることです。(以下、本書の事項索引から抜粋)

壺尊(器)    139, 160
五室制    103-131    
五斉(酒)    138, 160
……
郊(祭祀)    43, 160
郊(場所)    56-57, 66, 114
校定事業    228, 254-255
祫(祭祀)    137-147, 160

 こんな感じで、見慣れない言葉には、括弧で補足をつけています。本書をざっと時に見たときに感じるであろう「とっつきにくさ」を少しでも解消できれば、と思っての差配です。実際、本書の内容を理解するだけなら、「「壺尊」ってなんだかよくわからんけど、とにかく「器」のこと」ぐらいの認識があれば十分ですので、それなりに役立つと思います。

 また、「書名索引」に、著者がはっきりしている場合はその名前を入れるようにしています。こんな感じです。(本書の書名索引から抜粋)

『礼書』〈陳祥道〉    128 , 160
『礼書綱目』〈江永〉    161
『礼粋』〈張頻〉    157 

 各索引の順番は、末尾から見て、まず開いたところに「事項索引」を置き、次に「人名索引」、最後に「書名索引」としました。事項索引には一般的な用語も多く、本分野になじみのない人がパッと見ても知っている言葉がちょこちょこあり、少しでも親しみを感じていただければ、という狙いがあります。

 

実際の索引作成手順

 最後に、私が実際に索引を作った時の手順を紹介します。これは編集の方の助言を参考にしながら、私なりに工夫したやり方です。なお、私は再校の時に索引を制作しております。

  1. 再校の原稿で、索引をつけたい言葉にマーカーをつけて、索引に採用する言葉のあたりをつける。
  2. 元原稿のデータから、索引をつける単語を抽出する。
  3. 抽出された単語のリストを表計算ソフト(スプレッドシート、エクセル等)に貼り付ける。
    1. 自動でルビをつける関数を使ってルビを出す。
    2. あいうえお順(昇順)で並び替える。
    3. 関数で自動で出るルビには誤りが(めちゃめちゃ)多いので、それを直す。
    4. 漢字一字ごとの索引にする場合、ルビの昇順とは対応しない箇所があるので、その順序を直す。
  4. 1ページずつ原稿をめくって、目で対照しながら、ページ数をセルごとに分けて記入していく。

 

 一応、以上で完成するのですが、このままだと抜けが多く、確かめる工程が必須です。その時には、以下の手順でやるとやりやすいです。

 

  1. 索引ファイルをコピーして別ファイルを作る。
  2. ページ(=セルに記入されている数値)ごとに単語を配列するように、プログラムを書く。
  3. この時、各行の末尾に、そのページの単語の合計数を出すようにプログラムする。

 

 文章で説明すると分かりにくいですが、ようはこういうことです。まず、普通に作っている段階では、以下のようになっていますね。↓

(事項A),1,5,7,30
(事項B),2,8,30,35
(事項C),1,2,3,5,30

 

 これを、以下のように、単語を「ページ順」にソートし、最後に単語の合計数を書き出すプログラムを作ります。↓

1,(事項A),(事項C),2
2,(事項B),(事項C),2
3,(事項C),1
5,(事項A),(事項C),2
7,(事項A),1
8,(事項B),1
30,(事項A),(事項B),(事項C),3
35,(事項B),1

 一番左の数字がページ数です。

 このようにすると、原稿をp.1, p.2, p.3, p.4……と順番にめくりながら、語彙が全部拾ってあるかを確かめることができるので、とても便利です。最後に合計数を出しておくことによって、ページごとにマーカーの箇所の数を数えて確かめることもできるのでより便利です。

 この二つの形を行き来しつつ、完成に近づけていきます。もちろん、制作の過程で単語が足されることもありますし、減らすこともあります。ツリーの構成を変更することもあります。そのあたりは適宜調整していきます。

 もちろん、原稿のテキストデータから、特定の単語を検索して探していくという方法もあります。ただ、この方法だと、原稿自体のミスを見つけることには繋がりにくいですし、表現の不統一によって検索から漏れてしまうことも多いです。ですので、私は上の方法で一通り作った後の、確認段階で検索を使うだけにとどまりました。完全な完成原稿があって、もう書き換えることがないのならこの方法でもいいと思います。

 

 これが私の作成順ですが、もちろん逆順で制作することも可能です。つまり、先に元原稿のデータから、下側の「確認段階」の方の形を作って、それを上の完成形にソートする、という順序です。

 この方が楽に思えますが、そうしなかった理由は、私が再校の過程で索引を作成したことによります。これは編集の方に提案していただいた方法で、「一ページずつ索引でひっかける言葉をメモしていく過程で、誤字脱字や、表現の不統一に気が付くことが多い」という理由です。実際にやってみて分かりましたが、これは本当に仰る通りで、索引の制作過程でミスに気が付いて修正した箇所はたくさんあります。

 ただ、あまりに大幅な修正がある場合は、再校の後にページ数がずれてしまい、索引に挙げたページ数をまた修正する必要がありますから、この方法はおすすめできません。以上の方法は、「再校の段階で細かな修正しかなさそうな場合」にしか使いにくい方法なのかもしれません。

 

 以上、長々と書いてきましたが、それぐらい「索引」は重要なものであり、色々と考えながら作ったということです。本書を手に取っていただいた方には、ぜひ索引も眺めていただけると嬉しいです(かな~りマニアックな楽しみ方ですが……)。

(棋客)