達而録

中国学を志す学生達の備忘録。毎週火曜日更新。

漢文を初めて学ぶ人に向けて:『礼記』について

 前回、経書について簡単な整理をしておきました。今回は、そのうちで一番複雑と言ってもよい本である礼記を紹介します。

 『礼記』が一番複雑であるというのは、他の経書は一書の中で一つのまとまり、一つの体裁があって、一応一つの「著作」という感じを受けるものであるのに対して、『礼記』は成立時期も制作者もバラバラの様々な著述を集めたものであるからです。

 例えば『易』は六十四卦を順番に説明して一つの本になっていますし、『春秋』は「魯の国の歴史書」であって、最初から最後まで基本的に時間の経過の順番に書かれています。これらに比べて『礼記』はあまりにバラバラで、「経書」の一つに数えられていることが少し不思議な感じさえする本でもあります。

 しかし、『礼記』が古くから重要な地位にあった本であることは確かです。後漢の大学者・鄭玄は、経書の「礼」制度を整理した人物ですが、『周礼』『儀礼』と並んで『礼記』に注釈を附し、合わせて三礼注」と称されています。また、唐代に入ると、五経正義」として五つの重要な経書の注釈が作成された時には『易』『書』『詩』『春秋(左氏伝)』と並んで『礼記』が取り上げられています。更に、宋代に入ると、『礼記』の内の「大学」篇と「中庸」篇が取り上げられ、『論語』『孟子』と肩を並べて「四書」と称されることもあります。

 

 では、そんな『礼記』の中身はどうなっているのでしょうか。『礼記』は、以下の四十九篇から成り立っています。

 

 曲禮上、曲禮下、檀弓上、檀弓下、王制、月令、曾子問、文王世子、禮運、禮器、郊特牲、内則、玉藻、明堂位、喪服小記、大傳、少儀、學記、樂記、雜記上、雜記下、喪大記、祭法、祭義、祭統、經解、哀公問、仲尼燕居、孔子閒居、坊記、中庸、表記、緇衣、奔喪、問喪、服問、間傳、三年問、深衣、投壺、儒行、大學、冠義、昏義、郷飲酒義、射義、燕義、聘義、喪服四制

 

 これだけでは何が何やらですよね。しかし「何が何やら」ということを伝えたいので、それで大丈夫です。

 この『礼記』は、前漢戴聖という人が、当時伝わっていた様々な文献を集めて整理して作られたと言われていますが、この順番にどういう意味があるのかというのは、よく分かっていません。

 例えば、「曲礼」は細かな礼の制度について記した篇、「檀弓」は人の死に関わるエピソードが集められた篇、「王制」は国の体制について書かれた篇、「學記」は学校の制度、理念が記された篇、「冠義」から「聘義」は『儀礼』を解説した篇、というように、順番はあまり関係なく、色々な内容が混在しています。

 その成り立ちに伝承が存在する篇もあります。例えば「月令」は、秦代の呂不韋という人が作った呂氏春秋に拠って作られたという説があります。また、「坊記」「中庸」「表記」「緇衣」といった篇は孔子の孫である子思の手になる篇と言われています。朱子学においては、「大学」孔子の弟子である曾子の作であるとして重視されていきます。

 

 以上、細かいことは置いておいて、「様々な内容の篇が混在している」つまり「何が何やら分からないもの」ということは理解して頂けたでしょうか?

 ただ、このまま「色々な内容がありますね」で終わってしまっては解説にならないので、もう少し詳しく見ていきましょう。

 

 前漢の末、劉向という人が図書の整理を行って、その成果を七略という本にまとめ、子の劉歆が引き継いで『別録』という本を作りました。

 まずは、この『別録』において、これら『礼記』の各篇がどう分類されていたのか、というのを見てみましょう。以下の九つのカテゴリーに分けられています。

 

①制度:曲禮上、曲禮下、王制、禮器、少儀、深衣

②通論:檀弓上、檀弓下、禮運、玉藻、大傳、學記、經解、哀公問、仲尼燕居、孔子閒居、坊記、中庸、表記、緇衣、儒行、大學

③明堂陰陽:月令、明堂位

④喪服曾子問、喪服小記、雜記上、雜記下、喪大記、奔喪、問喪、服問、間傳、三年問、喪服四制

⑤世子法:文王世子

⑥祭祀:郊特牲、祭法、祭義、祭統

⑦子法:内則

⑧樂記:樂記

⑨吉事:投壺、冠義、昏義、郷飲酒義、射義、燕義、聘義

 

 多くの種類に分類されていることからも、内容が多岐に渡っていることが分かるかと思います。それぞれの内容を簡単に説明しておくと、

 

①制度:礼の制度について幅広く記したもの。

②通論:礼の理念・概念を記したものや、聖人に関係する説話や問答を集めたもの。

③明堂陰陽:国家の権威を示す施設である「明堂」について記したもの。

④喪服:喪の際に着る服やその期間について記したもの。

⑤世子法:王の後継ぎとなる人の礼を記したもの。

⑥祭祀:国家祭祀の手順(生贄の品など)や理念を記したもの。

⑦子法:家の中で家族に仕える時の方法を記したもの。

⑧樂記:経の一つとされたが失われた「樂経」の残滓とされるもの。

⑨吉事:礼の行事のうち「吉」の礼について説明したもの。

 

 といったところです。*1

 

 以上、とりあえず『礼記』という本の全体の構成は説明できたことにします。 次回、『礼記』の中身を少し翻訳して示しますので、お楽しみにお待ちください。

 

 また、過去のブログの記事で『礼記』の中身について扱ったものとして、やや専門的ですが以下のものがありますので、参考にしてください。

chutetsu.hateblo.jp

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*1:分類は任銘善『礼記目録後案』に従う。