達而録

ある中国古典研究者の備忘録。毎週火曜日更新。

最近のできごと

最近、なかなか漢文の記事が書けていませんが、あまり気張っていてはブログなんて続きようがないのです(開き直り)。今回も、漢文の記事ではありません。たまには、最近の中の人の様子を書いてみようと思います。 まず、研究方面では、論文と発表に追われて…

栗林輝夫『荊冠の神学―被差別部落解放とキリスト教』(2)

前回の記事で、栗林輝夫『荊冠の神学―被差別部落解放とキリスト教』(新教出版社、1991)を紹介しました。ここまで、どのような神学を志すのか、そしてそのための方法は何か、ということを取り上げてきました。今回は、では実際に「荊冠の神学」ではイエス・…

古勝隆一『中国注疏講義 経書の巻』

先日、古勝隆一『中国注疏講義 経書の巻』(法蔵館、2022)を著者よりご恵贈いただきました。 「中国古典を自分の力で読んでみたくはありませんか」 注釈を利用して古典を読む。その手法を基礎と実践で学ぶための一冊です。 【基本篇】で、注釈の基本知識と…

栗林輝夫『荊冠の神学―被差別部落解放とキリスト教』(1)

今日は、前回紹介した、栗林輝夫『荊冠の神学―被差別部落解放とキリスト教』(新教出版社、1991)について、もう少し詳しく書いていくことにしましょう。 「荊冠の神学」という言葉は、本書で最初に提示される概念であり、また探究の対象となっているもので…

最近読んでいる本

タイトルが「最近読んだ本」ではなく「最近読んでいる本」なのは、少し時間が空いた時にゆっくり読んでいるだけで、きちんと読み通したわけではないからです。 どの本も心からおススメできる本には違いありませんが、読了できていないので、簡単に説明するだ…

劉咸炘『中書』認経論

劉咸炘『中書』の「認經論」のうち、中篇の「論教」を取り上げます。 「認經論」は、劉咸炘が経書をどのようにとらえているか整理して述べる篇で、このうち中篇は、経書と教化・教育の関係を説明しています。孔子の教えはどのようなものだったか…というとこ…

ブログ開設四周年を迎えました。

「達而録」を開設してから、丸四年が経過し、五年目に突入いたしました。 奇跡的にも、週一回の更新を落とすことなく、ここまで続けることができました。ひとえに、ブクマ・コメント、Twitterのリツイートやリプなどで反応をくださる読者のみなさまのお陰で…

劉咸炘『中書』三術篇(下)

前回の続きです。省略を加えながら、最後の二段を読むことにしましょう。このあたりから、「ああ、劉咸炘は確かに章学誠の読者だったのだな」と思わされる内容が出てきます。 章先生之書,至精者一言,曰:「為學莫大乎知類」。劉咸炘進以一言曰:「為學莫大…

劉咸炘『中書』三術篇(上)

前回紹介した劉咸炘が書き記した文章は、『推十書』という本にまとめられています。その冒頭に入っているのが『中書』という本で、その冒頭が「三述篇」です。 これも何かの縁ですから、少しだけ劉咸炘の言葉を読み進めてみましょう。訳は私の試訳ですが、直…

章学誠と劉咸炘

最近よく取り上げている章学誠について、まだまだ読んでいきましょう。 章学誠(1738~1801)は、生前にはその学問は今一つ理解されず(というよりそもそも読者がおらず)、後になってから読者を獲得し、一躍脚光を浴びた学者です。その経緯は、井上進「六経…

章学誠と王應麟

前回まで、王應麟『困学紀聞』について紹介してきました。清朝考証学の先駆け的著作とされる本著ですから、逆に、考証学的な風気に一言物申したい学者からは、よくやり玉に挙げられる本でもあります。というわけで、今回は、章学誠の王應麟評を観ていくこと…

王応麟『困学紀聞』について(2)

前回の続き。王応麟『困学紀聞』の版本について整理していきましょう。 ある漢籍の代表的な版本について知りたいときには、色々な調べ方がありますが、莫友芝撰、傅增湘訂補『藏園訂補邵亭知見傳本書目』を見るのは一つの方法です。とりあえず、下に抜粋して…

王応麟『困学紀聞』について(1)

いま、大学の演習で『困学紀聞』を読み進めています。折角ですので、この本についての概要(今回)と、版本について(次回)まとめておきます。 まず、「四庫提要」の『困学紀聞』の条を読んでおきましょう(一部省略してます)。なお「四庫提要」の全文は、…

洪誠『訓詁学講義』より(4)

今回も、洪誠(森賀一恵・橋本秀美訳)『訓詁学講義―中国古語の読み方 (中国古典文献学・基礎篇)』(アルヒーフ、2004)から、気になる条を取り上げていきます。今日は、第四章「注を読む」の「二、文字の読みかえと校正の方式」から、「段玉裁の想定した…

洪誠『訓詁学講義』より(3)

今回も、洪誠(森賀一恵・橋本秀美訳)『訓詁学講義―中国古語の読み方 (中国古典文献学・基礎篇)』(アルヒーフ、2004)から、気になる条を取り上げていきます。今日扱うのは、第四章「注を読む」の「三、注文を誤解してはいけないし、誤信してもいけない…

洪誠『訓詁学講義』より(2)

前回に引き続き、洪誠(森賀一恵・橋本秀美訳)『訓詁学講義―中国古語の読み方 (中国古典文献学・基礎篇)』(アルヒーフ、2004)から、気になる条を取り上げていきます。 今回は、第三章「閲読に必要とされる基本原則」第七節「構文規則」のうち、「五、古…

洪誠『訓詁学講義』より(1)

最近、洪誠(森賀一恵・橋本秀美訳)『訓詁学講義―中国古語の読み方 (中国古典文献学・基礎篇)』(アルヒーフ、2004)を読み返していました。 本書は、漢文の読み方をいわゆる「訓詁」から丁寧に解き明かした、日本語で読める数少ない本の一つです。何度読…

章炳麟と章学誠(4)

前々回取り上げた末岡宏「章炳麟の経学に関する思想史的考察 : 春秋学を中心として」(『日本中国学会報』43、1991)の注釈の文章のうち、残りの部分を読んでみましょう。 つまり、章学誠のことを、黄侃が「春秋左氏疑義答問叙」で指摘する、六経を単なる歴…

章炳麟と章学誠(3)

今回は、前回の記事の最後に触れた章炳麟の講演原稿である「歴史之重要」を、もう少し読んでみることにしましょう。 まず、前回紹介した部分を、私の方で日本語訳しました。 経書と史書の関係はとても深く、章学誠がいう「六経皆史」というこの言葉は正しい…

章炳麟と章学誠(2)

今回は、末岡宏「章炳麟の経学に関する思想史的考察 : 春秋学を中心として」(『日本中国学会報』43、1991)を読んでみましょう。 章炳麟の弟子である黄侃が、章炳麟『春秋左氏疑義答問』の後叙で、この書に見える章炳麟の説を整理しています。そのなかに、…

章炳麟と章学誠(1)

最近、章炳麟と章学誠の関係について調べていまして、章炳麟の全集の中から、章学誠に言及する部分を探しています。 それに関連して、島田虔次『中国革命の先駆者たち』(筑摩書房、1965)を読みました。以下、内容の紹介というより、それぞれの出典をメモし…

廬江何氏鈔本『文史通義』について

最近、機会に恵まれて、章学誠『文史通義』を「廬江何氏鈔本」という本を用いて校勘しながら読んでいました。今回は、この鈔本の面白いところを紹介します。 本題に入る前に、前提知識を整理しておきましょう。『藏園訂補邵亭知見傳本書目』によれば、章学誠…

Wikipedia執筆録(3)

多忙につき、しばらくWikipediaの編集をできていませんでしたが、最近少しずつ再開しています。これを機に、これまでに自分が書いた記事をピックアップしながら振り返っておき、また加筆に向けてモチベーションを上げておきましょう。(以前取り上げたものは…

呉叡人『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』(2)

前回の続きです、今日は、呉叡人著(駒込武訳)『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』(みすず書房、2021)のうち、「比較史、地政学、そして日本において寂寞の内に台湾を研究するという営みについて」という文章を読んでいきます。 本章は、2011年の日本台…

呉叡人『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』(1)

知人に紹介されて、呉叡人著(駒込武訳)『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』(みすず書房、2021)を読んでいます。 呉叡人は、台湾で多くの社会運動に携わりながら、台湾を中心とした政治史、民族史の研究をしている学者です。私はまだ本書を読了していま…

最近読んだ本

新年度がまもなく始まるということで、目まぐるしく忙しい日々を送っています。もともと論文の執筆、前回紹介した吉田寮関係の活動で時間が埋まっていたところに、もうすぐ授業や研究室業務も始まりますから、ブログを書く時間がなかなか取れません。 今回は…

京大吉田寮について

本ブログの中の人の一人は、縁があって、最近、京都大学の「吉田寮」の存続活動に携わっています。 そもそも「吉田寮って何?」という方は、吉田寮紹介パンフレットの電子版があるので、ちらっと読んでみてください。 www.pamphlet.yoshidaryo.org Twitterも…

崔靈恩の「楽記」理解

以前、『礼記』の楽記篇の句読について整理した際、崔靈恩という人の説を紹介しました。 chutetsu.hateblo.jp 残念ながら、崔靈恩が書いた本は、いまはそのままの形では伝わっていません。しかし、『礼記』の経文と鄭玄注について注釈を附した『礼記正義』と…

陳鴻森「北朝経学的二三問題」―論文読書会vol.13

※「論文読書会」については「我々の活動について」を参照。 陈鸿森「北朝经学的二三问题」(中央研究院历史语言研究所集刊 第六十六本第四分、1999) 【概要】 历代关于北朝经学的论述大抵依据《北史・儒林传序》,这是由于北朝学者的著作大多不传。这篇论文…

アンヌ・チャン『中国思想史』(2)―「幾」について

前回に引き続き、アンヌ・チャン『中国思想史』(志野好伸・中島隆博・廣瀬玲子訳、知泉書館、2010)の内容を紹介します。今回は、私の個人的な興味から、「幾」という概念について説明している部分を読んでみます。 以下、第11章「易」の「幾」節、p.275-27…