達而録

中国学を志す学生達の備忘録。毎週火曜日更新。

おしらせ

書類準備と引越作業で忙殺されていて、今週・来週の更新はお休みします。 四月から東京に引っ越しますので、関東圏にお住まいの方と色々な縁が繋がればと思っております。ぜひ連絡ください! (棋客)

高橋均 『六朝論語注釈史の研究』(1)

最近、高橋均 『六朝論語注釈史の研究』(知泉書館、2022)を入手しました。 『論語』の研究、すなわち注釈は漢代から始まり、その成果は魏の何晏(190-249)『論語集解』にまとめられ、また300年後にはそれらも含め新たな研究を集約した梁の皇侃(488-545)『論…

近況

今日は、最近のできごとやニュースを書いてみます。漢文とはあまり関係がないですが、どれも私と個人的に関わりのあるものです。 ①田中圭太郎『ルポ 大学崩壊』 (ちくま新書) の出版 いま、全国各地の大学で起こっているさまざまな問題について、綿密な取材…

『論衡』の篇数

以前、本ブログで余嘉錫の『四庫提要弁証』を取り上げ、『後漢書』についての『弁証』の内容を確認しました。 余嘉錫『四庫提要辨證』について - 達而録 『後漢書』の来歴(1) - 達而録 『後漢書』の来歴(2) - 達而録 今回は、後漢の王充の『論衡』につ…

【中国哲学史】無料で使える便利なサービスのリスト-オンライン篇(続)

以前、こんな記事を書きました。 chutetsu.hateblo.jp この記事は書き殴りでしたので、少し備忘のために追加しておきます。 13階の17号室(東洋学関係の物置部屋)とてつもなく有用。さまざまなデータベースが分類されてまとめてあります。「やたがらすナビ…

梁鴻『中国はここにある』

梁鴻『中国はここにある』(鈴木将久・河村昌子・杉村安幾子訳、みすず書房、2018)という本を読みました。先日、たまたま著者の方とお会いする機会があり、この本を紹介していただきました。 近代化の矛盾に苦しむ農村に、現代中国の姿を浮かび上がらせ、大…

ベンヤミン著・鹿島徹訳『[新訳・評注]歴史の概念について』(2)

予告していた通り、ベンヤミン著・鹿島徹訳『[新訳・評注]歴史の概念について』(未来社、2015)の内容を少しだけ紹介します。 まず、ベンヤミン『歴史の概念について』のテーゼⅥ(p.49-50)を一部引用します。 過ぎ去ったものを史的探究によってこれとは…

ベンヤミン著・鹿島徹訳『[新訳・評注]歴史の概念について』(1)

知人から推薦されて、ベンヤミン著・鹿島徹訳『[新訳・評注]歴史の概念について』(未来社、2015)を読んでいます。まだ途中ですが、深い感銘を受けております。折角なので、このブログでも簡単に紹介していきます。 この本は、ベンヤミンに初めて触れる私…

劉咸炘の史学講義(3)

前回の記事、劉咸炘『治史緒論』中篇の四「史旨」の続きです。 まとめると、史に載せられたことは人事である。どうして人事の律を究めつくすことができようか。これを究めたいのなら、『易』こそ重要だ。道家は史に詳しく、道家の持論である循環の律は、本当…

劉咸炘の史学講義(2)

前回に引き続き、『治史緒論』を読んでいきます。中篇の四「史旨」を見ていきましょう。 「旨」とは、章先生がいうところの「史でありながら子の意があるもの」である。史は客観に基づくが、旨を言う時に主観が入ってきてしまうのは、史としての職分を失うも…

劉咸炘の史学講義(1)

年が明けましたが、相変わらず劉咸炘を読んでいきます。今回からは、劉咸炘が史学について概論を述べている『治史緒論』を見ていくことにします。 『治史緒論』のうち、中篇「史旨」というところを読んでみたいのですが、今回はその前提として、本書の序文を…

新しい一年を迎えました

2023年になりました。中の人のうちの一人は、まだ博士課程で研究を続けています。今年は論文を数本形にできたら、と考えているところです。 昨年の記事を眺めていましたが、章学誠・劉咸炘関係の記事がやたら多いですね。そのわりに、どれも内容が薄いのが残…

【良質講義動画紹介】「官僚哲学者・朱子、混迷の政界に立ち向かう」

京大の福谷彬先生の講義動画がYoutubeにアップされていたので、ご紹介いたします。朱子学について初めて触れる人でも簡単に観ることができる動画ですので、ぜひご覧ください。 雑学を交えながらのまったりした講義ですから、あまり肩肘を貼らずに、料理でも…

劉咸炘の目録学講義(5)

前回に引き続き、劉咸炘『続校讐通義』の「通古今」篇を読みます。今日読むのは、この篇のまとめの部分です。 まとめると、昔は四部を並列で見ていたが、今は史部・子部を主とし、經部が上にあり、集部が下にある。天下の文は、内容で分けると三種にほかなら…

劉咸炘の目録学講義(4)

前回、劉咸炘「目録学」の部目篇を読んでいる途中でした。そして、前回扱った部分の後ろで、章学誠『校讐通義』宗劉篇、劉咸炘『続校讐通義』通古今、治四部などが引かれると書きました。 というわけで、今回はまず劉咸炘『続校讐通義』の「通古今」篇を見て…

劉咸炘の目録学講義(3)

引き続き、劉咸炘「目録学」上編から、今回は「部類」篇を読んでみます。 部類は、目録学のなかで最も重要なことで、いわゆる「辨章学術、考鏡源流」のことでさまざまな学問に関わり、最も大きなものである。この中には原理があって、それぞれの議論が集まる…

劉咸炘の目録学講義(2)

前回の続きです。今さらですが、劉咸炘の「目録学」は、以下の章立てからなっています。 弁言(前回紹介した文章) 上編 著録第一 存佚第二 真偽第三 名目第四 篇巻第五 部類第六 互著別裁第七 次第第八 題解第九 下編 版本第十 校勘第十一 格式第十二 一題…

劉咸炘の目録学講義(1)

このブログでは、たびたび劉咸炘という学者の文章を取り上げてきました。 劉咸炘『中書』三術篇(上) - 達而録 劉咸炘『中書』三術篇(下) - 達而録 劉咸炘『中書』認経論 - 達而録 今日は、劉咸炘『推十書』に収録されている「目録学」という文章の冒頭を…

「大史書曰、崔杼弒其君」の逸話

中国古典のなかでも屈指で有名な逸話ですね。やはり何度読んでも含蓄があります。 『左伝』襄公二十五年 大史書曰、崔杼弒其君。崔子殺之。其弟嗣書、而死者二人。其弟又書、乃舍之。南史氏聞大史盡死、執簡以往、聞既書矣、乃還。 (訓読)大史 書して曰は…

『礼記子本疏義』について

今回は、『礼記子本疏義』という文献について紹介しようと思います。以下のように、何度かこのブログに登場しているのですが、きちんと説明したことはありませんでした。 慶應義塾大学蔵『論語義疏』古写本の発見について - 達而録 大坊眞伸「『禮記子本疏義…

明日、吉田寮の集会があります

今日の記事は宣伝です。 中の人の一人が吉田寮の存続活動に協力していることについては、過去何度か記事にしてきました。 京大吉田寮について - 達而録 最近のできごと - 達而録 さて、明日、11月2日、吉田寮自治会主催の学内シンポジウムが開催されます。 1…

林秀一と毛沢東

『林秀一博士存稿』(林秀一先生古稀記念出版会、一九七四)をパラパラと眺めていると、「中国哲学界の現状」「毛沢東主席会見記」という文章が載っていまいた。これらは、林秀一が訪中した時の記録を残したものです。 林秀一は、中国古典の研究者で、『孝経…

映画「ノー・オーディナリー・マン」(No Ordinary Man)の感想(3)

引き続き、関西クィア映画祭で観た映画「ノー・オーディナリー・マン」について書いていきます。今回を最終回ということにします。 今回は、映画の中ではそこまではっきりとは示されていないものの、関連して考えることのできるテーマについて取り上げます。…

映画「ノー・オーディナリー・マン」(No Ordinary Man)の感想(2)

前回に引き続き、関西クィア映画祭で観た映画「ノー・オーディナリー・マン」について書いていきます。今日は、作中で明示されているテーマについて、順を追って見ていくことにします。 前回、この映画の主要な構成パートの一つに「トランスジェンダー(十名…

映画「ノー・オーディナリー・マン」(No Ordinary Man)の感想(1)

今日から、関西クィア映画祭で観た映画「ノー・オーディナリー・マン」について紹介していきたいと思います。一応、アメリカ版Amazon primeでオンライン公開されているようですが、日本語の字幕はないと思います。 今回は導入ということで、映画の内容・構成…

関西クィア映画祭に行ってきました

先週まで大阪・京都で行われた「関西クィア映画祭」に行ってきました。大阪会場は一日だけ、京都会場は三日間の参加です。とにかく大満足の映画祭でしたので、今日から何回かの記事に分けて、感想を書き記していきます。 kansai-qff.org まず、観た映画をメ…

最近のできごと

最近、なかなか漢文の記事が書けていませんが、あまり気張っていてはブログなんて続きようがないのです(開き直り)。今回も、漢文の記事ではありません。たまには、最近の中の人の様子を書いてみようと思います。 まず、研究方面では、論文と発表に追われて…

栗林輝夫『荊冠の神学―被差別部落解放とキリスト教』(2)

前回の記事で、栗林輝夫『荊冠の神学―被差別部落解放とキリスト教』(新教出版社、1991)を紹介しました。ここまで、どのような神学を志すのか、そしてそのための方法は何か、ということを取り上げてきました。今回は、では実際に「荊冠の神学」ではイエス・…

古勝隆一『中国注疏講義 経書の巻』

先日、古勝隆一『中国注疏講義 経書の巻』(法蔵館、2022)を著者よりご恵贈いただきました。 「中国古典を自分の力で読んでみたくはありませんか」 注釈を利用して古典を読む。その手法を基礎と実践で学ぶための一冊です。 【基本篇】で、注釈の基本知識と…

栗林輝夫『荊冠の神学―被差別部落解放とキリスト教』(1)

今日は、前回紹介した、栗林輝夫『荊冠の神学―被差別部落解放とキリスト教』(新教出版社、1991)について、もう少し詳しく書いていくことにしましょう。 「荊冠の神学」という言葉は、本書で最初に提示される概念であり、また探究の対象となっているもので…