達而録

ある中国古典研究者が忘れたくないことを書くブログ。毎週火曜日更新。

専門書

最近読んだ本の紹介

小浜正子、下倉渉、佐々木愛など『中国ジェンダー史研究入門』京都大学学術出版会、2018 中国の長い歴史とともに変化したジェンダー秩序の変遷過程をダイナミックに描く。社会の父系化、ジェンダー規範の強化、そして社会主義をへて改革開放の大変動まで。家…

カブール陥落について―杉山正明『ユーラシアの東西』から

8月15日、「カブール陥落」というニュースが世界を駆け巡りました。 私の手元にある杉山正明『ユーラシアの東西―中東・アフガニスタン・中国・ロシアそして日本』(日本経済新聞出版社、2010)のうち、氏の2009年の講演を記録した文章に、アフガニスタンにつ…

アンリ・マスペロ『道教』(1)

今回は、アンリ・マスペロの名著『道教』(川勝義雄訳、平凡社東洋文庫329、1978)を読んでみます。アンリ・マスペロは、1883年生まれのフランス人の東洋学者です。道教・仏教・中国古代史のほか、ベトナム史やベトナム語など、幅広い分野において研究を進め…

「嘯」について―齋藤希史『漢文スタイル』より

今回と次回は、齋藤希史『漢文スタイル』(羽鳥書店、2010)の第七章「花に嘯く」に導かれながら、「嘯」そして「長嘯」という言葉について考えてみます。以下は、斎藤氏の本のp.220~225の要約になっています。 まず、本章のタイトルになっている「花に嘯く…

杉山正明『遊牧民から見た世界史』

杉山正明『遊牧民から見た世界史』(日本経済新聞出版1997、のち日経ビジネス人文庫2003、増補版2011)広大な中央アジアの大地で活躍した「遊牧民」の生活とその興亡を描いた傑作です。そのうちから、「モンゴル残酷論の誤り」という節の文章をご紹介します…

井筒俊彦「儒教の形而上学におけるリアリティの時間的次元と非時間的次元」(1)

井筒俊彦著(澤井義次監訳、金子奈央・古勝隆一・西村玲訳)『東洋哲学の構造 : エラノス会議講演集』(慶應義塾大学出版会,2019)を読んでいきます。 この文章は、1974年の第43回エラノス会議(テーマ:時代の変化における規範)における井筒俊彦の講演をも…

E.H.カー『歴史とは何か』

今日は、不朽の名著E.H.カー『歴史とは何か』(岩波新書、1962)を紹介します。タイトルの通り、「歴史」とは何か、歴史研究はどのように進められるか、歴史を学ぶことの意義はどこにあるのか、といったことが平易に説明されています。清水幾太郎氏の訳文が…

宮崎市定訳『鹿洲公案―清朝地方裁判官の記録』

『鹿洲公案』とは、特に台湾の統治に力を発揮した、清朝の実務派官僚の代表格である藍鼎元(1680-1733)が、自分が任地で体験した統治・裁判の事例を記録した本です。 そしてこれを翻訳したのが宮崎市定で、平凡社東洋文庫に『鹿洲公案―清朝地方裁判官の記録…

クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』(1)

★「クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』」の記事一覧:(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7) 本日は、クェンティン・スキナー『思想史とはなにか―意味とコンテクスト』(半沢孝麿・加藤節編訳、岩波書店、199…

2020年中国関係の新著案内!

昨年末、こんな記事を書きました。 chutetsu.hateblo.jp これの2020年版を執筆しました。(一冊、2年前の本が混じっています) コンセプトは同じで、「高い質を備えながらも、初学者でも気軽に読める本」を紹介します。歴史や哲学、中国に興味のある方々だけ…

『中国語作文 その基本と上達法』の紹介

先日、Twitter上で竹内金吾・賈鳳池『中国語作文 その基本と上達法』(金星堂、1975)をおススメされて購入しました。とても勉強になる内容で、買って以来毎日読んで音読しています。 今は品切れらしく古本はやや高騰しているのですが、第17刷(2007)まで出…

瞿同祖『中国法律与中国社会』の紹介

ここ数日、瞿同祖『中国法律与中国社会』(中華書局、1981)を眺めています。先秦期から清代、民国にかけての、中国における法律・礼制の特徴と変遷を、膨大な実例を根拠にしながら明晰に整理したものです。 もともと、新田元規氏の「中国礼法の身分的性格に…

溝口雄三『方法としての中国』の読書案内(2)

前回に引き続き、今日も、溝口雄三『方法としての中国』(東京大学出版会、1989)の内容を紹介します。今回は第十章「ある反「洋務」―劉錫鴻の場合」を取り上げます。 劉錫鴻とは、字雲生、広東省の番偶県の人。清代の光緒の初め、初代駐英国大使の郭高森と…

溝口雄三『方法としての中国』の読書案内

溝口雄三『方法としての中国』(東京大学出版会、1989)を読みました。非常に興味深い内容で、一般の方にも分かりやすく読めるものですので、少し紹介します。ちなみに、溝口氏の『中国の公と私』については、以前記事を書いたことがありますので、合わせて…

溝口雄三『中国の公と私』

溝口雄三『中国の公と私』(研文出版、1995)を読みました。折角ですので、冒頭部分だけ紹介しておきます。 この本は、中国(特に宋代以降)における「公」と「私」の概念について、その源流から近代に至る展開を描いたものです。特に、日本における「おおや…

2019年中国学の新著紹介!

年の瀬も近くなってまいりましたが、今年も中国学界隈から、多数の良著が出版されました。そのうち、高い質を備えながらも、初学者でも気軽に読めるような本をピックアップしてご紹介いたします。 私自身が入手して読んだ本に限定して紹介していますので、他…

頼惟勤『説文入門』を読む(一)

『説文解字』並びに段玉裁『説文解字注』に関する、“高度に学術的な入門書”(語義矛盾にあらず)といえば、頼惟勤先生の監修にかかる『説文入門』(大修館書店、1983年)が有名です。参照→『説文入門』 | 学退筆談 本書の第三章「段注の実際」の第三節は「段…

勝手気ままな訳書紹介―『荘子』

ここ一年ほど、演習で『荘子』を読んでいる関係で、『荘子』の訳本を色々と見比べる機会が多くありました。もちろん、基本的には『荘子集釋』などから自分なりに訳を作っているのですが、どうにもしっくりこない場合、先人の意見を眺めてみるのも楽しいもの…

小倉芳彦『古代中国を読む』

前回、小倉芳彦『古代中国を読む』(岩波新書、1974)・(論創社、2003)を話題に出すに当たって、数年ぶりに読み返してみました。やはり、何度読んでも面白いものです。 折角ですので、少し引用しながら紹介してみます。 前回、この本は「小倉氏の研究者と…

『左伝』の訳書と概説書の紹介

とある方にリクエストを受けて、『春秋左氏伝』の訳書や概説書の手引きを作ってみることにしました。(この方の学識には及ぶべくもないのですが、何故私が…。)週一回更新を守りたいのですが常にネタ切れ気味ですので、何か良いネタがありましたら教えてくだ…

【良質講義動画】広島大学の「中国思想文化学入門」を紹介

動画 lHiCE003: 中国思想文化学入門 Twitterで上記の動画(HiCE003: 中国思想文化学入門、広島大学が公式に公開している有馬卓也先生の講義)を紹介したところ、予想外に多くの反響がありました。この動画は、先秦から漢代にかけての「天」と「命」に焦点を…

濱久雄『中国思想論攷―公羊学とその周辺』

はじめに 本日は、終戦直後に大学を卒業し、自作農として晴耕雨読の生活を送りながら漢文に親しみ、後に研究の世界にカムバックした研究者のお話。 濱久雄『中国思想論攷―公羊学とその周辺』(明徳出版社、2018)のあとがきを一部引用します。 終戦 翌日の朝…

平岡武夫『経書の成立』

はじめに 本日は平岡武夫『経書の成立』(創文社、1983)の「初版刊行の記」を読んでみます。 時代背景 出土以前の経書研究として手堅い名著と言えましょうが、戦火で原稿が文字通り焼失し、何度も出版が潰えながらも上梓された書籍でもあります。 大阪が空…

大濱晧『朱子の哲学』

はじめに 私は研究書を読むとき、ついつい「あとがき」を先に読んでしまうタイプです。特に大家と呼ばれる先生の晩年の著作となると、他の有名な先生の若かりし頃のお話が載っていたりして、なかなか興味深いものです。基本的に研究の足しになるものではない…

川原寿市『儀礼釈攷』自序を読む

『儀礼釈攷』とは 十三経の中でも屈指の難読とされる『儀礼』については、現在では日本語でも数種の解説書が出ています。その端緒に位置づけられるのが川原寿市『儀礼釈攷』です。 この本は完成当時は大々的には版行されず、ガリ版で数十部刷るのみであった…